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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッ…

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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

マガジン

  • 朝日新聞出版の文芸書

    • 191本

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

  • 年森瑛:連載エッセイ「バッド入っても腹は減る」

    パスタを茹でながら、キャベツを煮込みながら、一冊の本をじっくり読む――。いちばん読書がはかどるのはキッチンだ。いま再注目の新人作家による、おいしい読書日記連載スタート。毎月15日更新予定。

  • 『クリームイエローの海と春キャベツのある家』編集日記

    • 15本

    創作大賞2023(note主催) 朝日新聞出版賞受賞作『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の著者 せやま南天さんと、担当編集者Kによる編集日記です。

  • 麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』

    都内で連続猟奇殺人事件発生! 警察小説の旗手・麻見和史さんによる、新シリーズ始動。

  • 川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」

    文学、映画、アニメ、漫画……でひときわ印象に残る「名台詞=パンチライン」。この台詞が心に引っかかる背景には、言語学的な理由があるのかもしれない。ひとつの台詞を引用し、そこに隠れた言語学的魅力を、気鋭の言語学者・川添愛氏が解説する連載がスタート! 毎月10日に配信予定。

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web TRIPPERへ、ようこそ

はじめまして。 web TRIPPERにお運びいただき、ありがとうございます。 このサイトは、朝日新聞出版が発行している季刊文芸誌「小説トリッパー」のweb版です。 朝日新聞出版の文芸部門の源流は、1879(明治12)年にまでさかのぼります。この年に朝日新聞が創刊し、その10月には文芸誌を創刊しています。 140年以上の歴史の中で、朝日新聞グループの文芸部門は、いつの世も綺羅星のような作品を送り続けてきました。 最初期から現在までつづく新聞本紙の連載小説、そして「週

  • この小説は、みんなへの声援/せやま南天著『クリームイエローの海と春キャベツのある家』創作大賞2023(note主催)受賞の秋谷りんこさんによる書評を公開!

    この小説は、みんなへの声援  私は、家事が苦手だ。子供の頃からおっとりしており、身の回りのことをするのが得意ではなかった。大人になっても変わらず、掃除も片付けも人並みにはできない。料理はするが、上手ではない。レトルト調味料や冷凍食品に助けられ、何を出しても「美味しい」と言ってくれる夫に救われているだけだ。洗濯は嫌いではないけれど、得意でもない。先日、仕事から帰ってきた夫が、部屋干ししてあるシャツの袖を黙って引っ張り出していた。片袖だけ裏返ったままで干していたことに、私は一日

    • 麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第13回

      5  改札を抜けると、尾崎たちは急ぎ足で目的地に向かった。  ここは昨日通ったばかりの道だ。あのときは何の勝算もないまま聞き込みに行っただけだった。しかし今は違う。ひとつの手がかりを得て、尾崎たちはその場所へと急いでいるのだ。  雑居ビルの一階に事務所がある。尾崎は広瀬と顔を見合わせたあと、入り口のドアを開けた。 「いらっしゃいませ」  椅子から立って、女性社員がこちらにやってきた。彼女は尾崎たちの顔を思い出したようだ。 「あ、警察の方……」 「どうも」と尾崎は

      • 年森瑛「バッド入っても腹は減る」第4回

         トマトなんてなんぼあってもいいですからね、というイマジナリー土井善晴のささやきに身を任せて1個15円叩き売りトマトを大量購入した。さっそく生で食べてみるとほとんど味がしないうえ舌触りもざらついていて、どれもこれもトマトからトマトみを抜いたナニカって感じでそこそこ落ち込む。こうなったら煮込んでスープにするしかない。  トマトを崩さず切るために、まず包丁の角でヘタをくりぬいてからひっくり返し、中央から放射状に伸びている白い*マークの線と線のあいだに刃を入れる。これでまな板がトマ

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      • 年森瑛:連載エッセイ「バッド入っても腹は減る」
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      • 麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』
        0本
      • 川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」
        4本
      • 上坂あゆ美:連載エッセイ、短歌「人には人の呪いと言葉」
        1本

      記事

        発売日、書店回りをした日のこと【クリキャベ編集日記-その後‐】

        発売日、書店回りをした日のこと 4月5日の発売日。 著者のせやま南天さんと、書店訪問をしました。 スケジュールの関係で、書店さんに伺ったのは16時から。 ※本来は、夕方からは書店さんが混んでくる時間なので避けた方が良いです! ※せやまさん担当の私K。大学時代は、書店でアルバイトをしていましたが……。混んでいる時間帯に来ていただいても、どうしても丁寧な対応ができないことがありました……。 (忙しい時間に出版社の方がいらっしゃった時の、当時の店長の顔が今も忘れられない……。)

        発売日、書店回りをした日のこと【クリキャベ編集日記-その後‐】

        麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第12回

        4  豊島区池袋本町に移動し、住宅街の路地を歩いていく。  やがて目的地が見つかった。壁はクリーム色、屋根はオレンジ色という洒落た外観の二階建てだ。一階と二階を合わせてひとつの住戸とした、メゾネットタイプのアパートだった。  近くの路上に覆面パトカーが二台停まっていた。片岡係長が言っていたとおり、先に捜査員が到着しているのだ。  建物には四つの住戸があるようだ。表札を確認すると三号室に《白根》と書かれていた。  チャイムを鳴らすとじきにドアが開いて、眼鏡をかけた男性

        麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第12回

      • <祝・本屋大賞2024第3位&第9回渡辺淳一文学賞受賞!>【インタビュー】塩田武士が見た、松本清張の背中 話題作『存在のすべてを』で挑んだ「壁」

        「作家には定期的に必ず越えるべき壁が出てくると言いますが、私にとってはそれが『罪の声』でした。以前、作家の湊かなえさんのラジオに出演した時に、湊さんがこれから塩田さんは『罪の声』と闘うことになる、私が『告白』と闘ったように、と言われたことがあるんです。重たいなと思いました」  塩田武士さんが2016年に発表した『罪の声』は、「グリコ・森永事件」をモチーフにしたサスペンス小説だ。週刊文春ミステリーベスト10(国内部門第1位)、第7回山田風太郎賞を受賞するなど一世を風靡し、20

        <祝・本屋大賞2024第3位&第9回渡辺淳一文学賞受賞!>【インタビュー】塩田武士が見た、松本清張の背中 話題作『存在のすべてを』で挑んだ「壁」

      • 【祝・本屋大賞2024第3位&第9回渡辺淳一文学賞受賞!】「生きている」重みと「生きてきた」凄み/塩田武士著『存在のすべてを』池上冬樹氏による書評を再公開

         塩田武士といえば、グリコ・森永事件を題材にした『罪の声』(2016年)だろう。迷宮入りした事件を、脅迫状のテープに使われた少年の声の主を主人公にして、犯罪に巻き込まれた家族と、未解決事件を追及する新聞記者の活躍を描いて、厚みのある社会派サスペンスに仕立てた。週刊文春ミステリーベスト10で第1位に輝き、第7回山田風太郎賞を受賞したのも当然だった。 『罪の声』から6年、新作『存在のすべてを』は、『罪の声』を超える塩田武士の代表作で、いちだんと成熟して読み応えがある。物語はまず

        【祝・本屋大賞2024第3位&第9回渡辺淳一文学賞受賞!】「生きている」重みと「生きてきた」凄み/塩田武士著『存在のすべてを』池上冬樹氏による書評を再公開

      • 【祝・本屋大賞2024第3位&第9回渡辺淳一文学賞受賞!】塩田武士『存在のすべてを』刊行記念インタビュー/「虚」の中で「実」と出会う

         情熱を失った新聞記者が再び「書きたい」と奮い立つ題材に出会うという出発点はデビュー作『盤上のアルファ』(2011年)、子供たちの未来を奪う犯罪への憤りという点では代表作として知られる社会派ミステリー『罪の声』(2016年)、フェイクニュースが蔓延し虚実の見極めが難しい現代社会のデッサンという点では吉川英治文学新人賞受賞作『歪んだ波紋』(2018年)、関係者たちの証言によって犯人像が炙り出される構成上の演出は『朱色の化身』(2022年)……。塩田武士の最新作『存在のすべてを』

        【祝・本屋大賞2024第3位&第9回渡辺淳一文学賞受賞!】塩田武士『存在のすべてを』刊行記念インタビュー/「虚」の中で「実」と出会う

      • クリキャベの本が発売されました!発売前後のあれこれ

        先日4月5日に無事、 創作大賞2023にて朝日新聞出版賞を受賞した小説、 『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の書籍が発売されました!!! 創作大賞の主催者であるnoteから、プレスリリースを出していただいています。 実は、小説の内容のチェックを終え、校了したら、 「あとは発売日を待つばかり。もう私にできることはないだろう」 と思っていたのですが、 ありがたいことに、校了後もあれこれ動いておりました。 小説家の仕事は、 小説を書くだけにとどまらないんだなぁ…

        クリキャベの本が発売されました!発売前後のあれこれ

      • 夢を追いかけ続け、叶えた藤岡陽子さんだからこそ書けた『メイド・イン京都』 モデルとなったデザイナー・谷口富美さんによる文庫解説を特別公開

         藤岡陽子さんの『メイド・イン京都』(朝日文庫)が刊行されました。  物語のモデルとなった、デザイナー・谷口富美さんが解説を寄せてくださいました。学生時代から藤岡陽子さんを見てきた谷口さんによる解説の全文を掲載します。 「ひさみちゃんをモデルに小説を書かせて欲しい」  藤岡陽子先生にそう言われたとき、背中がじんわり熱くなり、「私の人生でこんなに輝かしいことが起こるのか!」と叫び声が、お腹の底から脳に向かって聞こえ、星屑にあたたかく包まれたようでした。 「ひさみちゃんが

        夢を追いかけ続け、叶えた藤岡陽子さんだからこそ書けた『メイド・イン京都』 モデルとなったデザイナー・谷口富美さんによる文庫解説を特別公開

      • 汚職事件を追う捜査二課の刑事を描いた、堂場瞬一さんの『内通者』が文庫新装版として刊行! 現役大学生の書評家・あわいゆきさんによる文庫版解説を特別公開

        〈時代〉と〈世代〉を超えて、愛され続けるための秘訣  普遍的な小説、とは一体なんでしょう? たとえば国語の教科書に長く載り続けているような古典や近代文学は、読んだことがある、というひとも多いかもしれません。太宰治『人間失格』などは特に、中高生を対象にした読書調査アンケートでもここ数年、読んでいる本の上位に居続けています。あるいは老若男女楽しめるように書かれている軽快なエンターテインメント小説も、世代にかかわらず親しまれているでしょう。  一方で、どんなひとが読んでも面白い

        汚職事件を追う捜査二課の刑事を描いた、堂場瞬一さんの『内通者』が文庫新装版として刊行! 現役大学生の書評家・あわいゆきさんによる文庫版解説を特別公開

        「今のあの子ではムリ」(『ガラスの仮面』)――川添愛「パンチラインの言語学」第4回

         前回の連載が公開される前、私が「南ちゃんは本当に恐ろしい子である」と書いた部分について、校閲の方から「(『ガラスの仮面』での)原文は『おそろしい子!』のようです」との参考情報をいただいた。私も当然『ガラスの仮面』を意識してそのように書いたわけだが、こんな小ネタにもかかわらず、元ネタにまで当たっていただいたことに驚いた。最終的には漢字表記の方が読みやすいと判断したため平仮名表記に直すことはしなかったが、その流れ(?)で『ガラスの仮面』を読み始めた。  まだ全巻は読めていない

        「今のあの子ではムリ」(『ガラスの仮面』)――川添愛「パンチラインの言語学」第4回

        麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第11回

        3  JR赤羽駅から徒歩約七分。住宅街の外れに目指す場所があった。 「あそこです。このへんの住宅街では、前に聞き込みをしたことがあります」  広瀬は辺りを見回しながら言った。彼女は先月まで赤羽署に勤務していたから、土地鑑があるのだろう。  目的地は赤錆の目立つ、角張った建物だった。風雨で汚れた看板に《勝山建材》と書かれている。以前その会社の倉庫として使われていたのだろうが、今はひとめでわかるとおり廃墟となっていた。  その廃倉庫の前には数台のパトカーが停まっている。

        麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第11回

        上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第1回

         さとうさん、こんにちは。  なかなかにハードなお家にお生まれになったんですね。私の家族もほぼ高卒ですし、それ以前に父がギャンブル依存のクズだったためにさまざまな困難がありました。もちろんさとうさんの苦しみと私の苦しみは全く別のものだと思いますが、深く頷きながらご相談を読みました。後天的に育ちが良さそうな人になろうと努力をされたこと、そして実際に育ちが良さそうな人になっていること、本当にすごいです。なかなかできることじゃありません。  私は大学2年ごろ、どうしても受けたい授

        上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第1回

        麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第10回

         郷田裕治に関する捜査は一旦おいておくことにした。  今回の「三好事件」の被害者・手島恭介は、野見川組の下働きをしていたことがわかっている。このあと彼の仕事内容について掘り下げていこう、と尾崎は考えた。  ひとつ咳払いをしてから、尾崎は広瀬に言った。 「手島恭介は運送業をしていた。その件を調べてみないか」 「彼がどんなものを運んでいたか、ということでしょうか?」 「それも含めて、手島の仕事ぶりを知りたい。関係があった者をたどっていけば、いずれ野見川組から請け負った仕

        麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第10回