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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

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    • 朝日新聞出版の文芸書

      • 98本

      書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

    • 村井理子「ふたご母戦記」

      • 3本

      2023年3月7日発売の村井理子さん『ふたご母戦記』に関する記事をまとめています。

    • 鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」

      鈴峯紅也さんの人気シリーズ「警視庁監察官Q」の主人公・小田垣観月の学生時代を描いたスピンオフシリーズです。11月24日より、毎週木曜日に最新回を掲載予定です。

    • 警察短篇小説競作

      名手による警察小説をお楽しみください。

    • 朝比奈秋『植物少女』

      2023年1月10日発売の朝比奈秋さん『植物少女』に関する記事をまとめています。

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    はじめまして。 web TRIPPERにお運びいただき、ありがとうございます。 このサイトは、朝日新聞出版が発行している季刊文芸誌「小説トリッパー」のweb版です。 朝日新聞出版の文芸部門の源流は、1879(明治12)年にまでさかのぼります。この年に朝日新聞が創刊し、その10月には文芸誌を創刊しています。 140年以上の歴史の中で、朝日新聞グループの文芸部門は、いつの世も綺羅星のような作品を送り続けてきました。 最初期から現在までつづく新聞本紙の連載小説、そして「週

    • 【試し読み】PTA活動に保護者会…その前に読みたい、共感必至の子育てエッセイ!村井理子『ふたご母戦記』/「感情的な親」にならない方法

      ■第2回/粉ミルク・バイクぶちまけ事件 「感情的な親」にならない方法 子どもが小学校に通いはじめてからできたママ友とは、今でも友好な関係を築いている。多くが仕事を持つ親なので滅多に会うことはないが、車ですれ違えば、慣れた手つきでハンドサインを送り合い(今日もおつかれ)、年に1度程度の食事会で会えばブランクなど一切感じさせない、よどみない会話でランチが冷めるほどである。嫁いだ先が農家のお母さんからは、新米の時期になると「新米、どや」といったメッセージが送られてくる。「30キロ

      • 鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第17回

        十七  けたたましいベルの音がした。  目覚ましだ。  音からするに、最終兵器として購入した三つ目に間違いない。  と、この朝は薄ぼんやり思考することなく、すぐに理解した。熟睡には程遠い、浅い眠りだったようだ。  夕べというか、もうこの日の早朝になるが、〈Bar グレイト・リヴァー〉を出たのが大体、午前二時半くらいだった。  美加絵に付き合い、観月は六杯ほどカクテルを吞んだ。  三杯目も美加絵が注文した物と同じキングスバレイを吞み、四杯目以降はマスターお薦めのカ

      • この社会の価値観の偏りを炙り出す…書評家・杉江松恋さんによる【朝比奈秋著『植物少女』書評】

        人間の生命をこのように描けるとは 小説が息をしている。生きている。  耳を澄まし、それを聴こう。  朝比奈秋『植物少女』は三層構造を持つ小説だ。第一層にあるのは医療小説としての性格である。  朝比奈は第七回林芙美子文学賞に輝いた「塩の道」で2021年にデビューを果たし、同年に第2作の「私の盲端」(同題短篇集所収。2022年)を発表した。これは腫瘍のため直腸の切除手術を受けた大学生の女性を視点人物とする作品である。人工肛門を使用、つまり新米オストメイトとなった主人公には世

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      • 【試し読み】ワンオペふたご育児で追い詰められて…共感必至の子育てエッセイ!村井理子『ふたご母戦記』/粉ミルク・バイクぶちまけ事件 

        ■第1回/自己紹介:初産で、双子で、高齢出産だ 粉ミルク・バイクぶちまけ事件 育児の何がそこまで大変なの? そもそも、大変だということはわかっていて、それでもあえて出産したのでしょう?と、私自身も何度か言われたことがある。そのたび、何も言い返せず、口ごもるだけだった。悲しい。  今だったら、育児の何がそこまで大変なのだと問われたら、「孤独」が一番辛いのだと大声でハキハキと答えることができる。大変だとわかって産んだのでしょう?と言われれば、それはもちろんわかっていたけれど、

        鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第16回

        十六 「で、今夜は何があったの? まあ、言いたくなけりゃ、言わなくていいけど」  美加絵は、自分のコーヒーカップを両手で包むようにしながら言った。 「何がってほどではないんですけど。ちょっとした行き違いって言うか」 「ちょっとって、あんな大立ち回りで?」 「はあ」 「へえ。ああ。でも、現実に見せられたんだものね。観月ちゃんなら有りか。――あなた、ビックリするくらい強いのね」 「そうでもないですよ」 「謙遜? 過ぎると嫌味よ」 「いえ」  観月は髪を左右に揺

        破談屋 深町秋生

                 1    葛尾静佳巡査部長の瞼が重くなった。  ひどい睡魔に襲われて意識が遠のく。視界が暗くなったところで、運転席の的場公平に肩を揺さぶられた。 「葛尾さん、ダメッす。寝だらダメッす」 「固えごど言うなや。少しだけ眠らせてけろ。五分ぐらいでいいがらよ⋯⋯」 「ダメですって。死んじまうべや」  的場に肩を激しく揺さぶられ、さらに平手で頰を打たれる。  彼は軽く打ったつもりなのだろうが、高校時代はアマチュア相撲に情熱を燃やし、県警では体力を買わ

      • 「まず認知症を受け入れる」 医師である作家が描く認知症介護小説『老父よ、帰れ』、著者・久坂部羊さんのエッセイ

        他人ごとではない認知症夢の新薬登場か  今年1月、アルツハイマー病の新薬がアメリカで承認されたというニュースが、新聞各紙を賑わせた。日本の製薬会社も関わっており、同社は日本国内での製造販売の承認を厚労省に申請したという。  すわ、夢の新薬登場かと思いきや、報道をよく読むと、アメリカでの承認は「迅速承認」というもので、これは深刻な病気の薬を早く実用化するため、効果が予測されれば暫定的に使用を認めるという制度で、車の免許でいえば“仮免”のようなものらしい。  承認の根拠は症

      • 【試し読み】共感必至の子育てエッセイ誕生! 村井理子『ふたご母戦記』/自己紹介:初産で、双子で、高齢出産だ

        初産で、双子で、高齢出産だ  私は日本一大きな湖である琵琶湖のほとりに住む、平凡な主婦。夫と双子の16歳になる男児と、黒いラブラドール・レトリバー(45キロ)とともに暮らしている。  子どもが生まれた直後に、10年以上暮らした京都から、はるばる越してきた。まるで海のように青くて大きな琵琶湖と、雄大な比良山系に挟まれた地域に一軒家を構え、今年で17年目になる。夏は湖水浴客でごった返し、冬はスキーを楽しむ人々の車で国道が混雑するような、いわゆるリゾート地ではあるけれど、地形に高

        鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第15回

        十五  即妙体の自在を得た観月は、すでに吹き流れる風も同じだった。 「さっさと済ませるわよ。時間が勿体ないから」 「こっ」  リーダーの目に血が上った。怒気が溢れるようだった。 「このアマッ。言い――」  続く言葉を観月は待たなかった。待ってやる義理もない。 「やがったなっ」  唾と一緒に吐かれる言葉を、観月はリーダーの後ろで聞いた。 「お生憎様」  リーダーに、いや、立ち並ぶ半グレたち全員に、伊橋とキミカとジュンナにも、観月の動きはわからなかっただろう。

      • 女優・南沢奈央さんによる、朝井リョウ『スター』文庫解説を特別公開!

         わたしは大学時代、現代心理学部映像身体学科だった。「心理学部だった」というと、「じゃあ人の心読めるの?」と言われるし、「映像を勉強していた」というと「いずれ監督とかやりたいの?」と言われる。そういう人もいただろうが、わたしは人の心も読めないし、監督志望でもない。  では何を学びにいっていたのか説明するのはむずかしいのだが、大学のホームページの言葉を借りるならば、映像身体学は、“映像と身体をめぐる新しい思考と表現を探究する”学問で、2006年に立教大学に新設され、わたしが入学

        凡人なりの努力――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第10回

        第10回 凡人なりの努力  私は語学の天才ではない。日本語を第二言語として習得し、小説を書き、芥川賞まで取ったという私の経歴を知ると、私に「天才」というレッテルを貼りたがる人たちもいるが、それはたぶん、間違いだ。常人にはできないようなことを成し遂げた人間を「天才」と表現することで、人々は安心する。自分の出来が悪いのではない、あの人たちが異常に出来がよかったのだ、というふうに。しかし「天才」という言葉は往々にして、当人たちの気が遠くなるほどの努力を無化してしまう。  私は語

        鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第14回

        十四  翌日も、ジュンナは通常通りに出勤してきた。ただ、伊橋敬一とキミカは、ともにこの日も出勤しなかった。  どうも、前夜の一件から観月は二人の動向が気になってしまった。  田沢副店長に確認したが、どちらも連絡が取れないという。 「ミズキちゃん。何か知ってるの」  そう聞かれたが、この段階では取り敢えず空っ惚けた。  知っているかと聞かれれば知らなくはないが、トラブルとしてはどこにでもあり、いつでもある種類のものに思われた。観月が入会前の、〈Jファン俱楽部〉員との

      • 春号は新連載があり、創作が充実。第9回林芙美子文学賞受賞作も掲載!<「小説TRIPPER」2023年春季号ラインナップ紹介>

        ◆新連載垣谷美雨 「墓じまいラプソディ」 「絶対にお父さんと同じお墓には入りたくない」  四十九日の法要を目前に控え、突然明らかになった義母の遺言。  先祖代々の墓はどうする? 妻が入るのは見知らぬ親類ばかりの夫の墓?  そもそも、夫婦別姓制度って何で進まないのよ?  笑いながらも身につまされる、明日は我が身の現代墓問題、あなたならどうする? ◆創作篠田節子 「遺影」  グループホームに長く入居していた認知症の義母が亡くなった。遺影に使うことになった写真には、よく見ると

        鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第13回

        十三  翌週の月曜日になった。二十五日だ。  ついでに言うなら友引になる。松子ではなく、これはこの朝にドミトリーの竹子に言われた。 〈蝶天〉でのアルバイトの日だったが、観月はこの日、やむを得ぬ事情で出勤が少し遅くなった。  通常なら観月は、午後八時オープンの一時間前までに必ず入ることにしていた。  マッシュボブの髪もそのまま、場合に依っては手櫛を掛けるだけで、化粧も申し訳程度に口紅を引くだけなので、実は十分前に入っても開店までに身支度は整う。  にも拘らずその時間

      • 第9回 林芙美子文学賞 受賞作が決定!

        受賞の言葉  書店に並んだ小説を手に取って、家に帰って読んでいると、時の経過を忘れるような感覚に幾度となく陥ることがあります。出逢ってから忘れられない言葉たちを前に、どうして私は小説を書こうと思ったのか、分からなくなる日もあります。素晴らしいものは、もうすでにここにあって、触れられただけで幸せではないかと満足する自分にもぶつかってしまいます。  だけどもう一度、私にも何か書けないかと立ち上がらせてくれるのも、小説なのだと感じています。浮かび上がった言葉が形となり、林芙美子文