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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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記事一覧

【試し読み】「学校で友達を作る厄介さ」漫画家・コラムニストのカレー沢薫さん『女って何だ? コミュ障の私が考えてみた』<第1回>

学校で友達を作る厄介さ 〈社会人より、明らかに学生時代の方がキツい〉卒業までの契約で、お互い 友達役のサクラをやっているようなもの。  当コラムでは何度も、「大人になると、友達がいなくて困ることが学生時代に比べて格段に減る」と主張してきた。これは逆に言うと、「学生時代は厳しかった」ということだ。  よく、「社会人になれば学生時代がどれだけ楽だったかわかる」と言われるが、友人関係に限定すると、明らかに学生時代の方がキツい。  社会人というぬるま湯に浸かりきった今の身体で、

★エキナカ書店大賞参加中★ 群ようこさん『たべる生活』期間限定!一部試し読み公開<第1回>

 電車・列車の移動中に読みたいおススメの1冊を選ぶ「エキナカ書店」に群ようこさんの『たべる生活』(朝日文庫)が参加しています。  対象期間は2024年9月1日(日)から9月30日(月)まで! 『BOOK COMPASS』『BOOK EXPRESS』『bookstudio』『Books Kiosk』など、計21店舗で開催。各店でのお買い上げ数の他、公式X(https://x.com/ekinakashoten)での「いいね」のSNS票で大賞が決定されます。是非、下記ポストへの

孤高にして偏狭な江戸随一の戯作者を描いた、杉本苑子さんの歴史巨篇『滝沢馬琴』/文芸評論家・細谷正充さんによる文庫解説を公開

 歴史小説には、主人公である実在人物の名前をタイトルにした作品が、少なからずある。吉川英治の『宮本武蔵』、山岡荘八の『徳川家康』、北方謙三の『楠木正成』、宮城谷昌光の『諸葛亮』などなど、過去から現在まで、物語の主人公である実在人物の名前を、ドンとタイトルにした作品が、連綿と書かれているのだ。  では、なぜ歴史小説に、このような人名タイトルがあるのだろうか。大きな理由は、読者の興味を強く惹けることだ。名前を見ただけで、どのような人物かある程度は分かる。その人物をどのように料理

「老いて死ぬ、その周辺」若竹千佐子さんの書評を特別公開

老いて死ぬ、その周辺 「ああ~ああああああ」  たまに一人旅に出ることがある。  このあいだも青森、五所川原から金木に向かう弘南バスに乗っていた。中途半端な時間だったせいか、バスの中は私と病院帰りらしいおじいさんとほぼ貸し切り状態だった。このおじいさん、冒頭のような長いあくびを連発した。ほんとうにひっきりなしに。  旅の空で揺られ揺られて聞く他人のあくび。それがどうしても、飽きた、俺はほとほと飽きてしまったんだよう、生きるのがさほんとにさぁ、のように聞こえた。おじいさ

ダ・ヴィンチ・恐山こと品田遊さんウロマガ本第2弾発売決定!!! 『キリンに雷が落ちてどうする』より「はじめに」を特別に公開!

はじめに(『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』より) 「手拍子」が嫌いだ。  コンサートで楽曲が盛り上がってくると、どこかから手拍子の音がする。聴こえてきたな、と思ったときにはもう遅い。破裂音はパンデミックのように拡大し、またたくまに本来の演奏をかき消さんばかりの勢いになる。  手拍子は、客席の誰かが手を叩き始めたのを聴いて「そういうものなのか」と思った人により発生する、なし崩しのムーブメントである。拍手という発信の形をとっているが、受動性の塊だ。そこで手拍子をし

斎藤美奈子さん『あなたの代わりに読みました』書評まとめ

■インタビュー「斎藤美奈子さん書評集『あなたの代わりに読みました』 明日への糧、忙しい読者に寄り添い」(朝日新聞) ■書評「価値を見つける誠実さ」(東京新聞、[評]豊崎由美さん) 「夏休みシーズンの読む本に迷ったら「本を紹介する本」……言葉の巧みな江國香織さんの書評、論理が巧みな斎藤美奈子さん」(読売新聞、[評]待田晋哉さん) 日刊ゲンダイ 「膨大な読書量に基づく思考と言葉を多角的に積み上げた「知」の仕事」(サンデー毎日、[評]武田砂鉄さん) ■試し読み 「10年間

人を殺める道具であるはずの刀に魅いられる心理を細やかに描き分ける/山本兼一著『黄金の太刀』清原康正氏による解説を特別掲載!

 山本兼一は日本刀が持つ魅力を物語の中で存分に表現し得る作家である。江戸時代前期の刀鍛冶・虎徹の情熱と創意工夫、波瀾と葛藤のさまをたどった長編『いっしん虎徹』、幕末期に四谷正宗と称賛された名刀工「山浦環正行 源清麿」の鍛刀に魅せられた生涯を描き上げた長編『おれは清麿』、幕末期の京都で道具屋を営む若夫婦の京商人としての心意気を描いた連作シリーズ「とびきり屋見立て帖」の『千両花嫁』などには、日本刀に関する情報が満載されており、熱い鉄を打つ鎚の音、燃え上がる炎、飛び散る火花の強さな

『男装の天才琵琶師 鶴田錦史の生涯』の著者・佐宮圭さんが刊行エッセイで明かした、ノンフィクションの裏側

ジェンダーの呪縛も固定観念の壁も突破する 「鶴田錦史」をご存知の方は少ないと思います。私も伝記の執筆を依頼されるまで知りませんでした。  半年前の2024年2月6日、世界的指揮者の小澤征爾さんが亡くなられました。彼の名を初めて広く世界に知らしめたのは、1967年11月、ニューヨーク・フィルハーモニックの創立125周年記念公演での『ノヴェンバー・ステップス』の初演。32歳の若きマエストロは、30代半ばの新進気鋭の作曲家・武満徹の難解な現代曲を見事に指揮して、大きな成功を収め

『中野「薬師湯」雑記帳』著者・上田健次さんの執筆裏話を特別公開!

「薬師湯」を通じて、心は昭和の中野を彷徨った  朝日新聞出版に勤めるK氏からの執筆依頼は、秋の終わりにやってきた。紹介はデビュー作を担当してもらって以来、ずっと世話になっているS社の編集者A氏だった。 「上田さんに連絡を取りたいという他社様の編集者がいらっしゃるのですが、いかがいたしましょう」  その相談に、私は少なからず驚きを覚えた。業界として共同歩調で当たらなければならない分野ならさておき、駆け出しとはいえ、シリーズものを執筆させている作家に、他社で書く機会を与える

ニッポンの思想と批評の奔流を追いながら、いま必要とされる生き方のモデルを刷新/「大人」になれない男たちを「成熟」の呪縛から解き放つ――佐々木敦さんによる刊行記念エッセイ「『日本的成熟』とは何か」を特別公開!

「日本的成熟」とは何か 去る七月八日に齢六十を迎えてしまった。還暦である。まだまだ若いつもりでいたのに、とかではないが、でもなんだか騙されたような気分だ。二十代前半からプロの物書きになり、気づけばあれこれやりながら三十五年もの月日が流れていた。芸術文化の複数の分野にまたがって仕事をしてきたので、著書の数もそれなりに多い。もう何冊目になるのか自分でもわからない(数えたことがない)が、このほど偶然にも「還暦記念出版」とでもいうべき新著を上梓した。『成熟の喪失 庵野秀明と〝父〟の崩

【祝・芥川賞受賞】朝比奈秋さんデビュー作が文庫化! 井上荒野さんによる文庫解説公開

 林芙美子文学賞の選考委員として、2021年の最終候補作であった「塩の道」をはじめて読んだときの興奮を、まだ覚えている。選評では「生と死の手触りが生々しく迫って来て」「エピソードの作りかたがうまく、過不足もなかった」と書いた。これらのことは後で詳述するとして、そのときにはマイナス点として「情景描写が並べられるだけで主人公の心がどこにも動いていかない」ということも指摘していた。だが今、あらためて、「私の盲端」と「塩の道」を続けて読んでみると、「マイナス点」の印象は裏返しになる。

学校で巻き起こった謎に迫る『学園ミステリーアンソロジー 放課後推理大全』/編者・大矢博子氏による解説を特別掲載!

 何気ない、それでいて輝かしい青春の舞台となる「学校」。『学園ミステリーアンソロジー 放課後推理大全』(朝日文庫)は、そんな学校で発生した不可解な事件を取り巻く物語を編んだ短編集。日常の中で起きた些細な異変から、人の生死にかかわる不穏な事件まで、バラエティ豊かな作品が勢揃い。城平京、友井羊、初野晴、米澤穂信、有栖川有栖、金城一紀、栗本薫各氏7名の力作を収録しています。  本作の刊行にあたり、数多くの時代小説やミステリーのアンソロジーを手掛けてきた編者・大矢博子氏による解説全

【試し読み】『銀座「四宝堂」文房具店』著者による、涙あふれる最新作『中野「薬師湯」雑記帳』の序章と第一話「春」を全文公開!

序 東京行きの中央線快速は高架の上を走っている。そのお陰で窓の外には遥か彼方まで建物で埋め尽くされた景色が広がり、地理で習った関東平野を実感させる。  窓に額を押し付けて見呆けている僕は、どこから見ても田舎者丸出しだろう。でも、そんなことが気にならないぐらいに車窓からの眺めは素晴らしい。  本当は呑気に景色を楽しんでいる場合ではない。もう少し焦らなければならないはずだ。けれども、僕は「なんとかなる」と心の底で思い込んでいた。後々になって分かることだけれど、この直感は当たっ

【『ひとつの祖国』と貫井徳郎論】この世界の表と裏/千街晶之氏による評論を公開

この世界の表と裏――『ひとつの祖国』と貫井徳郎論 フィクションの世界には、「分断日本」ものと呼ばれるサブジャンルが存在している。第二次世界大戦などの戦乱・内戦を契機として、日本が二つの国家に分断されるという設定の物語を指す。古くは、第二次世界大戦後に東西陣営により南北に分断された東京を舞台にした藤本泉の短篇「ひきさかれた街」(1972年)を先駆とし、1990年代には架空戦記ブームに乗って、豊田有恒の『日本分断』(1995年)、矢作俊彦の『あ・じゃ・ぱん』(1997年)といった