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小説にはりめぐらされた、ドイツと日本の歴史、名作の読み直しを鮮やかに読み解く/多和田葉子さん著『白鶴亮翅』 早稲田大学文学学術院准教授・岩川ありささんによる書評を公開!
隣人小説そして魔女小説 多和田葉子の最新作『白鶴亮翅』は、「朝日新聞」(2022年年2月1日から8月14日)に連載された、初の新聞小説である。私はこの小説を隣人小説として読んだ。 ベルリンのある地区に引っ越してきたばかりの翻訳者・美砂は、コーヒーを飲もうとするが、煎れるための道具がどのダンボール箱にあるのかわからない。気分転換に散歩でもしようと出た裏庭でめぐりあったのが隣に住むMさんだ。勘が鋭く、優しいMさんとの、コーヒーをめぐる不思議な意思疎通がきっかけで、その日、

「水曜どうでしょう」D・藤村忠寿さんが、自身の新刊ではなく「日本のサッカー」について熱く語る/『人の波に乗らない』刊行記念エッセイ
王道でないからこそ サッカーについて語ります。でも私はサッカー経験がありません。現在57歳。北海道テレビに勤務するサラリーマンです。「ローカル局制作のバラエティー番組としては異例のヒットを飛ばし、大泉洋を生み出した」と言われている『水曜どうでしょう』という番組のディレクターを務めてきました。あくまでも「異例」と称されているわけで、それは世間的には「王道ではない」ということです。では始めましょう。 まずはサッカーのルールについて。「ゴールキーパー以外は基本、手を使っては

亡き鷺沢萌さんに励まされ書き上げた、深沢潮さん渾身の大作! 朝鮮王朝最後の皇太子妃・梨本宮方子と、韓国独立運動家と恋に落ちたマサの数奇な運命を描く、『李の花は散っても』刊行記念エッセイ
あなたに励まされて 最初の単行本『ハンサラン 愛する人びと』(新潮社・新潮文庫化の際に『縁を結うひと』と改題)が世に出て10年が経ち、この春13冊目の小説『李の花は散っても』を刊行する運びになった。デビュー作が、自分の属性でもある在日コリアンのことを描いた短編集だったことから、在日作家と呼ばれることもあり、実際、在日コリアンを描いた作品もいくつか書いてきた。作品のみならず、積極的にヘイトスピーチや日韓によこたわるさまざまな事象について発言することもある。 作家としてのこの

「戦国時代はグローバル化の大波の影響を抜きに語れない」朝日文庫『徳川家康の大坂城包囲網』著者・安部龍太郎氏が新たに書き下ろした“まえがき”を特別公開!
関ヶ原から大坂の陣へ 本書のあとがきに2008年11月とある。もう15年も前のことだ。それなのにこうして再版していただくのは大変有難く、感謝にたえない。 久々に読み返して驚いたのは、あとがきの中で将来の自分へ宿題を出していることだ。当時は「真相は謎のベールにつつまれたままである」と感じていたことが、その後の調査や小説の執筆によって少しずつ分るようになってきた。 再版に当たって加筆を求められたので、そのことについて仮説(新説)をまじえて記してみたい。 関ヶ原の戦

「軍人としての努め、キリスト教徒としての信心、科学者としての信念は共存しうるのか?」鴻巣友季子さんによる、池澤夏樹著『また会う日まで』書評
軍人と天文学者とキリスト教徒の共存? 秋吉利雄は1982年(明治25)に生まれ、少将にまで昇級した海軍軍人であり、敬虔なキリスト教徒であり、優れた天文学者でもあった。この本作の主人公であり語り手は、(著者)池澤夏樹の父方の大伯父にあたる実在の人物だ。 本作は利雄の個人的な回想録であり、しかし同時に、日本の明治末期から第二次大戦終戦後までの近代日本を描く壮大な歴史年代記でもある。そこにはさまざまな戦いと対立があるが、最も大きいのは個人の思想信念と国家共同体のそれだろう。

【試し読み】忙しい日々を乗り切る、時間管理・効率化とは? 共感必至の子育てエッセイ!村井理子『ふたご母戦記』/苦手なことは捨てて「楽して上等」
■第3回/「感情的な親」にならない方法 苦手なことは捨てて「楽して上等」 翻訳をして、原稿を書いて、双子を育てて、そのうえ大型犬もいて、高齢者の介護もして一体どうやって時間のやり繰りをしているの!?と聞かれることが頻繁にある。特に最近は増えてきたかもしれない。傍から見ると、悠々と乗り越えているように見えるのかもしれない。自分では四苦八苦しながら毎日をどうにか生きていると思うのだが、もしやその四苦八苦が伝わっていないのか……いや、四苦八苦を上手に隠しきれているのだろうか。そう