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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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記事一覧

恋愛小説が描かない結婚・離婚・非婚・事実婚…答えの出ないままに生きることのリアル!

 結婚ってなんだろう? 最初の結婚に失敗してウツを病んでから、私はそれをずっと考えていた。幸せな結婚は幻想だと言われて久しいが、それでも人は何かを夢見て結婚する。それはなぜなのだろう。この年になってあらためて周りを見回すと、仲むつまじい夫婦にはなかなかお目にかかれない。それでも連れ添っているのはなぜか。ほんとうに生活のためだけなのか。結婚には何か魔力のようなものがあるのではないか。その問いに答えを得たとき、それを小説に書きたいと思っていた。ゴールインするまでの恋愛小説ではなく

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【シリーズ最高傑作】北原亞以子さんの幻の名作長編が初の文庫化!『雪の夜のあと 慶次郎縁側日記』大矢博子氏による文庫解説を公開

   <本書が原作>     時代劇セレクション「慶次郎縁側日記2」(主演:高橋英樹)     NHK総合 毎週水曜日 午後3時10分~ 2022年8月放送予定     ※放送は変更になることがあります。  朝日文庫による「慶次郎縁側日記」シリーズ復刊企画、第3弾である。  ――と簡単に書いたが、実はこの『雪の夜のあと』の復刊は多くのファンが熱望していた、まさに快挙と言っていい出来事なのだ。私も復刊3作目が『雪の夜のあと』と聞いて思わず「ほんとうに?」と訊き返してしまったほ

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高山羽根子著・単行本『如何様』大澤聡氏による書評「ポスト・トゥルースの彼岸」を特別掲載!

 1947年12月29日、1人の男が死んだ。ハン・ファン・メーヘレン、画家である。のち世界的にその名を知られることになる。ただし、フェルメールの精巧な贋作の制作者として。遡ること2年半前、ナチスの高官ヘルマン・ゲーリングらにオランダの名画を売り渡した罪で起訴され、世間はこのナチス協力者にバッシングを浴びせた。しかし、拘留中の本人の告白と法廷での長期におよぶ実演とによって、売却したのはじつは自身の手になる贋作だったことが判明。すると、憎きナチスに偽物を掴ませた男として、一転、英

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高山羽根子著・単行本『オブジェクタム』小川哲氏による書評「文学の美しさと儚さ」を特別掲載!

 高山さんがトリッパーで新作を書いたらしいと聞き、手にとってみると「オブジェクタム」というラテン語風の仰々しいタイトルだった。聞いたことのあるような、ないような不思議な言葉だったが、高山さんは美大を出てるから、オブジェとか出てくるのかな、といい加減な気分で読み始めた。そしたら本当にオブジェ的なものが出てきて驚いた。 《オブジェ》とはなんだろうか。もともとは「物体」や「客体」を表すフランス語だったが、シュルレアリスム以降は「非芸術的な物体を利用して制作された美術作品」という意

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「せり場」で売られた少女たち 故・森崎和江の代表作『からゆきさん』本当の衝撃【文庫解説:文芸評論家・斎藤美奈子】

「からゆきさん」。漢字で書けば「唐行きさん」。そんな人たちがいたことを、この本ではじめて知った方もいるでしょう。 「からゆきさん」とは、もともとは江戸時代の末期から、明治、大正、昭和のはじめくらいまで、海をわたって外国(唐天竺)に働きにいく人を指す九州西部・北部の言葉でした(唐天竺とは中国とインドを意味しますが、遠い外国の別名でもあったので、「外国に行く」ことを「唐行き」と呼んだのです)。ですが、やがてそれは海外に売られた日本女性の総称に転じます。  からゆきさんの出身地

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梨木香歩が描く痛みから始まる“物語”『椿宿の辺りに』皮膚科学研究者・傳田光洋氏による文庫巻末エッセイを特別公開!

痛みから始まる「物語」の発見  痛みは孤独だ。  あるいは、痛みは自分が孤独であることに気づくきっかけになる。そして、それは自分だけの物語を見つける道を示す。  現代社会では会社員、公務員はもちろん、フリーランスの人でも、何かの組織に属したり関わったりしている場合が多い。そんなぼくたちの日常生活は、組織やマスメディア、インターネットなどが提供する「常識」に支えられている。その「常識」に逆らってばかりでは生活に不便が生じるし、むしろその「常識」に全てを委ねていた方が、大抵、楽

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福岡伸一が紡いだ新しい「ドリトル先生」誕生!『新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う』刊行記念随筆を公開

少年時代の夢がもたらした未来  思い続けていれば、かなう夢がある。少年時代の夢が、なんと還暦を迎えようとする頃に実現した。しかも、それが立て続けに起きた。私には、一生に一度でいいから、実際に行ってこの目で確かめたい場所があった。ひとつは、台湾の離れ小島、紅頭嶼(現在名、蘭嶼)、もうひとつは太平洋赤道直下のガラパゴス諸島である。どちらも絶海の孤島、といってよい。  小学校高学年のことだった。図鑑で、驚くほど優美な、大型のアゲハチョウの写真をみた。その名をコウトウキシタアゲハ

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※終了※【話題沸騰!】小川哲「君のクイズ」が単行本で10/7発売決定!試し読みを緊急公開

※試し読みは終了しました※  小川哲さんの小説「君のクイズ」が異例の反響です。「小説トリッパー」2022年夏季号に一挙掲載後、SNSを中心に各方面から熱い感想が届いています。クイズプレーヤーを主人公にした本作は、小説好きの方だけでなくクイズ好きの方にも興味をもって読んでいただけているようです。そんな話題沸騰の本作ですが、10月7日に書籍として刊行することが決定しました。単行本発売の情報解禁記念として、作品の約1/4を、12日間限定で一部先行公開いたします。一段落目からすでに面

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読まなきゃわからない高山羽根子の不思議な世界 『オブジェクタム/如何様』佐々木敦氏による文庫解説を特別公開!

 本書は、2018年刊行の『オブジェクタム』、2019年刊行の『如何様』の2冊の作品集を合本し、更にエッセイ「ホテル・マニラの熱と髪」を加えた文庫版である。高山は2009年に「うどん キツネつきの」で第1回創元SF短編賞を受賞、同名の短編集が2014年に刊行されており、『オブジェクタム』は2冊目の単著だった。その後、『居た場所』(2019年)と『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』(同)の2冊を挟んで『如何様』が刊行された。そして2020年に「首里の馬」で第163回芥川龍之介

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「こうあるべき」をぶっ飛ばす!柚木麻子らしさあふれるエンタメ小説『マジカルグランマ』宇垣美里さんによる文庫解説を特別公開!

 私の記憶の中の祖母はいつだってゴージャスだ。海外で仕立てたオートクチュールのスーツを身に纏い、お気に入りのネックレスはゴールドのスカラベ(黄金虫、というかフンコロガシ)。その年代にしてはスラリと背が高く、しゃなりしゃなりと歩くたびに黒々としたボリュームのあるショートカットがふわふわとたなびいていた。いつだって祖父のことが一番大好きで、「パパぁ~」と甘えた声で逐一相談する姿は私よりよっぽど少女然としていて、呆れを通り越して笑ってしまうくらい可愛らしかった。私が父の持っていたパ

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芥川賞作家・高山羽根子『オブジェクタム/如何様』書評まとめ

『オブジェクタム』評者・栗原裕一郎さん「小説新潮」(2018年4月12日号) 評者・倉本さおりさん「産経新聞」(2018年10月14日) 『如何様』評者・助川幸逸郎さん「産経新聞」(2020年1月19日) 評者・大竹昭子さん「小説新潮」(2020年1月30日号) 評者・宮部みゆきさん「読売新聞」(2020年2月16日) 評者・鴻巣友季子さん「毎日新聞」(2020年3月1日) 評者・間室道子さん「DAIKANYAMA T-SITE」 その他、「北海道新聞」「神戸新

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【待望のシリーズ復刊】北原亞以子による人情時代小説の金字塔『傷 慶次郎縁側日記』 菊池仁氏の文庫解説を特別公開!

    <本書が原作>     時代劇セレクション「慶次郎縁側日記」(主演:高橋英樹)     NHK総合 毎週水曜日 午後3時10分から放送中     ※放送予定は変更になることがあります。  シリーズものとしては、池波正太郎「鬼平犯科帳」と比肩しうる面白さと人気を博した北原亞以子「慶次郎縁側日記」の待望の再刊が始まる。本書はその記念すべき第1巻である。  作者は重い病で病床にありながらも、旺盛な筆力を示していたが、2013年に75歳で急逝した。まずプロフィールを紹介す

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セクハラの実態を多面的に描き、各紙誌で大反響!文芸評論家・池上冬樹さんによる、井上荒野著『生皮』の書評を先行公開

■再生の光景 池上冬樹  副題を見たとき、少し論文めいて適当ではないと思ったのだが、「光景」が様々な視点から捉えられていて違和感がなくなった。「あるひとつ」の光景ではなく、「あるひとつの典型として」の光景であるかのような力ももつ。  動物病院の看護師の柴田咲歩は、夫にいえない秘密を抱えていた。生理がこないのを恐れていた。不倫したわけでも、夫を愛していないわけでもなく、妊娠をおそれていた。子供が好きなのに、子供を産みたくないのだ。なぜなら、自分の体がきらいだから。汚れている

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宇江佐真理が描いた“男装のおんな通詞”激動の生涯『お柳、一途 アラミスと呼ばれた女』高橋敏夫氏による文庫解説を公開!

激動する時代に、人の思いと生き方の一途さを問う 「お柳、一途」とは、なんともすばらしいタイトルだ。  主人公であるお柳(後に通詞の田所柳太郎で愛称アラミス)のつよく変わらぬ思いと、ひたむきな生き方をみごとに凝縮した言葉なのはもちろんだが、それにとどまらない。  お柳が「一途」なら、お柳と思いを交わすもう一人の主人公、榎本釜次郎(榎本武揚)の思いと生き方も一途である。お柳の父でオランダ通詞(通訳)の平兵衛や、お柳の友でキリシタンのお玉も一途である。  また、釜次郎をとり

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