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ディストピア的現代で、どうやって「希望」や「私」、そして「言葉」を取り戻すのか/藤井義允による文芸評論『擬人化する人間 脱人間主義的文学プログラム』より「はじめに」公開
はじめに――人間ではない「私」 自分の存在の希薄さを常に感じながら生きてきた。 感情も、感覚も、何もかも。僕の中にあるものは、まるで全て作りもののようではないか。そんな違和感を持って過ごしていた。 しかし厄介なことに、それでも悲しみや怒りや嬉しさというような人間的な感情は確然と存在しており、矛盾する二つの感覚を抱えていた。 つまり「人間」らしさを持った「人間」ではないもの――「人擬き」の感覚が僕にはある。 一般的にイメージされる「人間」とは離れた場所に存在
一冊完結のはずが…「編集K氏が、乗せるのがとても上手なのだ」/時代小説の旗手・佐々木裕一さんが明かす「斬! 江戸の用心棒」シリーズ化裏話
読む時代劇 昭和の時代劇スターに魅了されて『斬! 江戸の用心棒』という題名を見ると、昭和スターによる時代劇を連想される読者が多いかと思う。まさに私は、スターが出てくるような読む時代劇を書きたかった。 『斬! 江戸の用心棒』は当初、仇討ち物として、1冊で完結するつもりで書かせていただいた。ところが、出版した時には、シリーズになっていた。編集K氏が、乗せるのがとても上手なのだ。会えば、書きます、と言ってしまう。それでも、スケジュールの関係で2巻までは5年も間が空いてしまった。そ
最もフィジカルで最もプリミティブで、そして最もフェティッシュ(ドラマ『地面師たち』)――川添愛「パンチラインの言語学」第11回
NETFLIXのドラマ『地面師たち』にハマっている。今ちょうど髪型がトヨエツ演じるハリソン山中の髪を少し長くしたぐらいの感じなので、サングラスをかけるたびにハリソンになりきって「地面師になりませんか……?」とつぶやいている。街を歩くと、辻本拓海の憂いを帯びた表情が頭に浮かび、ウ~ウァ~ワ~ワ~ンというカタカナでは表現しづらい石野卓球の音楽が脳内再生される。たぶん私と同じような人が、今(2024年9月現在)の日本には100万人ぐらいいると思う。 同作は、新庄耕の同名小説を大
『源氏物語』が面白いだけでなく悲しみにも効く理由を、「こころ」の言葉に照準を絞り解きほぐした帚木蓬生さんの『源氏物語のこころ』/尾崎真理子さんによる書評公開
悲しみに効く、言葉の妙薬として『源氏物語』ばかりは、既成の現代語訳を読み通せば、それで終わりとはならない。全体の筋を頭に置くのはその世界への参加最低条件であって、そこからが面白いのだ。 幾種かの解説書に目を通して、一応の知識を得たつもりでも、十年、二十年に一度は必ず、『源氏』絡みの話題作が現れるのもこの作品の特別さ。しかも、社会の風潮や研究の進展によって、これほど評価や解釈が変わり続けてきた物語もないから、ブームのたびに新たな知識を得る楽しみも生じる。大河ドラマ「光る君へ