web TRIPPER

季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

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マガジン

  • 川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」

    14本

    文学、映画、アニメ、漫画……でひときわ印象に残る「名台詞=パンチライン」。この台詞が心に引っかかる背景には、言語学的な理由があるのかもしれない。ひとつの台詞を引用し、そこに隠れた言語学的魅力を、気鋭の言語学者・川添愛氏が解説する連載がスタート! 毎月10日に配信予定。

  • 朝日新聞出版の文芸書

    269本

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

  • ジェーン・スー 伊藤亜和:往復書簡 日々の音沙汰

    7本

    作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストのジェーン・スーさんと文筆家・モデルの伊藤亜和さんによる往復書簡。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を転載します。毎月第2火曜日に伊藤亜和さんのお便り、第4火曜日にジェーン・スーさんのお便りを公開予定です。

  • 警察短篇小説競作

    7本

    2025年2月7日(金)に朝日文庫より『警官の標 警察小説アンソロジー』(https://publications.asahi.com/product/25217.html)として刊行されました。

  • 上坂あゆ美:連載エッセイ、短歌「人には人の呪いと言葉」

    10本

    喉につかえてしまった魚の小骨のように、あるいは撤去できていない不発弾のように、自分の中でのみ込みきれていない思い出や気持ちなどありませんか。あなたの「人生の呪い」に、歌人・上坂あゆ美が短歌と、エッセイでこたえます。

記事一覧

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第11回

吉川英梨『新人女警』第8回

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第8回

「出たー! クラウザーさんの○○だー!」(『デトロイト・メタル・シティ』)――川添愛「パンチラインの言語学」第14回

【桐野夏生著『砂に埋もれる犬』文庫解説】

“母娘問題”隔月連続刊行のラストを飾る『さよなら、お母さん 墓守娘が決断する時』。山崎孝明氏による解説「宣伝と愛」を特別掲載!

往復書簡 日々の音沙汰 ー第7回「『人間・椎名林檎』に会う」(伊藤亜和)ー

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第7回

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第10回

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第9回

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第8回

吉川英梨『新人女警』第7回

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第6回

上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第10回

【榎本憲男著『アガラ』書評】考えろ! 祝福される未来のために

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第5回

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第11回

21  大学入試センター試験が終わると、東大駒場キャンパスにはいよいよ、定期試験の風が吹き荒れる。  サークルの部室が詰まったキャンパスプラザには二月三日の最終試験日が終わるまで、阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれる。  大げさではなく、これは例年のことらしい。  今年二年生の観月は大昔のことは知らないが、言われればたしかにそうだろうと思う。  去年は試験後半になってA棟から、 ――終わらねえよ。馬鹿野郎っ。  という早川真紀の声が聞こえ、今年は試験が始まってまだ五日目

吉川英梨『新人女警』第8回

第三章 八王子心霊    六月二十四日、エミは日勤で朝の八時前に八王子駅北口交番に到着した。夜勤だった源田は不機嫌そうな顔で立番している。エミはにたりと笑った。 「特異動向なし?」  源田は憮然と挙手の敬礼をした。エミは荷物をロッカーに押し込んで日報を捲る。 「なんにもなかったんですねー」 「東京都多摩地域一治安が悪いと言われる八王子も、平和になったもんだ」  エミはクスクス笑ってしまう。昨夜の休憩中に源田が一席ぶっていたのを思い出す。 〝六月二十三日は八王子城落城の日なんだ

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第8回

 シュウを自分のもとに引き止めておけたのは、それほど長い時間ではなかった。  そして、これで最後にしようと思っていたのに、やっぱりまた行ってしまう。あの場所がなくなったら、リリはどこへ行けばいいのか、わからないからだ。  自分が、自分らしくいられるところ。  それがあの店ではないことはわかっていても、次の場所が見つけられないリリは、それからも金を作っては、シュウに会いに行った。でも、行く回数も使える金額も少なくなっていくと、どんどん雑な対応をされた。  シュウに大切に

「出たー! クラウザーさんの○○だー!」(『デトロイト・メタル・シティ』)――川添愛「パンチラインの言語学」第14回

 前回の『スクール・オブ・ロック』に続き、今回もロックを題材にした作品を取り上げる。若杉公徳のギャグ漫画『デトロイト・メタル・シティ』である。  松山ケンイチ主演で映画化されたヒット作なので、知っている人も多いと思う。主人公は、インディーズシーンで絶大な人気を誇るデスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」(略称DMC)のボーカル兼ギタリスト、ヨハネ・クラウザーⅡ世。金髪のウィッグに顔面白塗りという出で立ちで、高度な演奏と「幼い頃に両親を殺した」などの悪魔的な伝説により、

【桐野夏生著『砂に埋もれる犬』文庫解説】

解説 二〇一〇年前後、家を持たないシングルマザーが子どもを連れて男性の元を転々とした挙句、子どもを亡くすという事件が続発した。リーマンショック後のこの時期、シングルマザーと子どもの貧困が表面化。国と行政は、居所不明の子どもを探すよう通達を出し、死後数年経って子どもが見つかり、親が逮捕されるといったことも起きた。  拙著『ルポ 虐待』(ちくま新書)もまた、こうした事件の一つを扱った。二〇一〇年に大阪市西区の風俗店の寮のマンションで三歳の女児と一歳の男児が亡くなった。二十三歳の母

“母娘問題”隔月連続刊行のラストを飾る『さよなら、お母さん 墓守娘が決断する時』。山崎孝明氏による解説「宣伝と愛」を特別掲載!

 私は信田と同じ臨床心理士・公認心理師である。ふつうの言葉で言うとカウンセラーだ。本解説は、カウンセラーの後輩という立場から、本書と信田について解説することとする。  信田さよ子は、半世紀にわたってカウンセラーを生業としてきた、心理業界のレジェンドである。長年まともにカウンセリングの実践を続けながら(あえてこう書くのは、臨床心理士や公認心理師という肩書で物を書いているにもかかわらず、ろくに実践をしていない者も少なくないからだ)、数多くの著作を残してもいる。心理職の枠を超え、

往復書簡 日々の音沙汰 ー第7回「『人間・椎名林檎』に会う」(伊藤亜和)ー

■前回のジェーン・スーさんからのお手紙はこちら ✉ ジェーン・スーさま ← 伊藤亜和 いかがお過ごしでしょうか。12月もまもなく中旬に差し掛かります。月並みな感想ですが、今年(2024年)もあっという間でした。今年、私は10年以上前から好きだったアニメのキャラクターの設定年齢を超えてしまいました。ずっと年上のお兄さんだった彼が、ついに年下の男になってしまった。いよいよ私も腹を括って「大人の女」というものをやっていかなければならないのかと思い、まずはこの冬を健康に乗り越えるた

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第7回

『シリウス学園』のドアの前に立ったリリは、見慣れた張り紙に笑いが零れた。 『18歳未満の方の夜八時以降の入店はお断りいたします』と書かれているからだ。 「噓ばっかり」  客の多くは10代の、それも明らかに中学生や高校生とわかる女子たちだ。リリは早めに帰るが、それでも夜十時までいたことはある。最初に身分証明書の提示はしているから、アルコールを自分で飲むための注文はできないが、キャストに贈る形なら話は別だ。それが結局、自分の口に入ったとしても誰も止めない。  ドアを開ける

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第10回

19  木曜日、夜の9時半過ぎのことになる。  観月の姿は銀座裏の〈Bar 長江〉に向かう隘路に見られた。  ようやく、オープンを迎えたということだった。  この日は、玲の家庭教師の日だった。  受験態勢に入った玲の中学校が午前授業ということで、2時から6時の予定だった。  観月は大井町に向かい、駅の改札を1時半過ぎに出た。  順調にして、問題は何もなかった。今のところなんのアクシデントもなく、観月が遅刻したことはなかった。  玲にしても平日の学校と、毎週末の

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第9回

17  けたたましい音がした。最終兵器として購入した3つ目の目覚ましだ。  ただし、3つ目であってこの朝だけは、入れ替えたから1つ目だ。1つ目として盛大に鳴った。  その目覚ましで起きる。つまり、諄いようだが、1つ目だ。  携帯が鳴って15分。それくらいしか〈寝坊〉はしていない。普段からすれば、〈寝坊〉などしなかったに等しいくらいだ。  ベッドの上で大きく伸びをする。  実に清々しい朝だった。  そんな朝にけたたましい目覚まし音は無粋な気がした。  あの最終兵

鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第8回

15  大井町を離れた観月は、急ぎその足で〈蝶天〉に出勤した。  駆け込みの到着は6時59分だった。 「セーフ」 「何がセーフだね」  と、ミーティングを始める直前の児玉が怪訝な顔をする。  なんでもありませんと惚けて、バーカウンターの1番手前のスツールに腰掛ける。  カウンターの上に置かれた、〈本日のスイーツ〉のケースに手を伸ばす。 「まっ」  思わず声になった。  この日のスイーツは、春先取りの梅が香る、本わらび粉と白加賀梅を使った目にも鮮やかな梅わらび

吉川英梨『新人女警』第7回

 午前一時、西放射線ユーロード沿いにあるドンキー・ホープは地元のヤンキーや夜の商売の人々でにぎわっていた。アニメのコスプレをした若い女の子たちが通り沿いでしゃべりながら韓国のお菓子を食べ比べしている。傍らにキャバクラ店のチラシを放置していた。髪の色を派手に染めた少年たちがナンパしている。軽くあしらわれているが、少年たちはあきらめず食らいついている。八王子の男子は元気だ。  エミと間中はカップルを装いながら、人ごみを縫って歩くRの背中を追った。彼は足早ではあるが、何度もこちらを

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第6回

第2章 リリ 16歳 「あれ? 久しぶりだね」  リリが新宿に姿を現したのは1か月ぶりのことだ。だから、久しぶりと言われることには疑問はない。ただ、親しそうに話しかけてきている少女の名前が思い出せず「そうだね」と返事をしながら、リリの頭はフル回転していた。  レナ……ではない。エリ……でもない、と思ったところで、エナだったことを思い出した。 「エナも来てたんだ」 「まあね。お互い、タイミング合わなかったみたいだね」  エナが普段何をしているか、リリにはわからない。

上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第10回

 三浦さん、こんにちは。    三浦さんの本気の呪いをいただいておきながら申し訳ないんですが、いったん私の呪いの話を聞いてもらえませんか。    歌人としてデビューして間もない頃、とある出版社から執筆の依頼を受けました。編集者は「上坂さんはがっつり社会人経験がある方なので、仕事を通じて感じた言葉の違和感、みたいな連載をしていただきたいのです」と。打ち合わせは大変盛り上がり、後日、第1回目の原稿を書いて送りました。会社生活で感じた違和感について、なぜそうなったのか徹底的に分析し

【榎本憲男著『アガラ』書評】考えろ! 祝福される未来のために

考えろ! 祝福される未来のために たとえば。  ある日突然、街頭インタビューなどで、「今この国の未来について、どんな展望を抱いてますか?」と問われたとして。明確なビジョンを言葉にできる人は、どの程度の割合で存在するのだろう。  個人的には、自分の五年後、家族の十年後でさえ予定は未定でしかなく、計画どおりに進む未来が想像できない。ましてや国や世界の将来など、自分が考えたところでどうなるものでもないし、という思いが根強くある。  興味がないわけではない。夫婦別姓も教育費の無償化も

桜井美奈『復讐の準備が整いました』第5回

 梅雨になって、雨が降るようになると、肌寒さを感じる日が続いた。  漫研部の部室にもエアコンは設置してあるが、学校では使用期間が決まっている。冷房は6月の第3週から9月いっぱい。暖房は11月から3月までだ。  6月になったばかりとあって、冷房も暖房も使えない。降り続く雨は室内に湿気をもたらし、漫画用の原稿用紙も、心なしかふやけていた。 「うわっ、この部屋寒いわ」  部室のドアを開けるなり、本沢は寒い、寒いと繰り返す。 「じゃあ先生、暖房のスイッチ押してください」