web TRIPPER

季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

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    マガジン

    • 中山七里「特殊清掃人」

      中山七里さんによる連載小説です。毎週金曜日に最新話を公開する予定です。

    • 朝日新聞出版の文芸書

      • 42本

      書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

    • 李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」

      台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。

    • 高山羽根子「オブジェクタム/如何様」

      高山羽根子さんの朝日文庫『オブイジェクタム・如何様』に関する記事をまとめています。

    • 井上荒野「生皮」

      井上荒野さんの『生皮』に関する記事をまとめています。

    中山七里「特殊清掃人」

    中山七里さんによる連載小説です。毎週金曜日に最新話を公開する予定です。

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    • 19本

    同族が生物から静物へと変わる時の臭い。絶望と無情を嘔吐感とともに思い出させる臭いだ。――中山七里「特殊清掃人」第19回

    第1回から読む  川島は音楽センスに秀でていたこともあり、バンドのリーダーを任じていた。特に押し出しが強いタイプではなかったが、冷静な判断力と調整型の性格は、個性豊かなバンドメンバーを統率するのにうってつけの人材だった。  その川島が特殊清掃対象物件の住人だという。言い換えれば孤独のうちに死に、その後二週間ほど発見されなかったのだ。  馬鹿な。  川島瑠斗に限って、そんなことがあるはずがない。きっと何かの間違いだろう。  不安と恐怖を押し殺しながら、白井は依頼者の許

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    1

    心身とはよく言ったもので、肉体の疲労は精神の疲弊を呼び起こす――中山七里「特殊清掃人」第18回

    第1回から読む 三 絶望と希望       1  腐敗液と清掃に使用した捕虫網やタオル類を入れた専用容器を置くと、近くに立っていたゴミ処理場の職員が冷ややかな目でそれを見た。  冷ややかな視線に悪意はないと分かっていても、白井は緊張してしまう。体液の付着した廃棄物は全て感染性廃棄物となり、他のゴミと一緒にできない。専用容器に一切合財を放り込み、指定された場所に搬入し、中身ごと焼却処分される。徹底的な処理を施すのは二次感染・三次感染を防ぐためであり、法令にも定められてい

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    5

    親は子どもを産むかどうかを選択できるが、子どもの方は親を選べない。――中山七里「特殊清掃人」第17回

     第1回から読む  ダイニングの隣にある脱衣所から顔を出したのは飯窪麻里子だった。 「長々と立ち聞きするような真似をさせて悪かったね」 「いえ、五百旗頭さんの話を聞いていたらすごくショックを受けちゃって」 「伊根さんが家庭や家族に恵まれなかったって件かい」 「わたし時々勉強を教えてもらってたんですけど、そんな話一度も聞かされてなかったです」 「自ら進んで話したいような内容じゃないからなあ」  麻理子は頭を垂れて、束の間俯いていた。 「良ければ、伊根さんがどんな

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    4

    伊根さんの生き方を否定できる人間は誰もいません――中山七里「特殊清掃人」第16回

     第1回から読む       4  数日後、五百旗頭は伊根の部屋に形見分けを希望する三人を招き入れた。 「伊根欣二郎さんの遺した財産の見積りが出たので報告します。もっとも財産と言っても、預貯金や自社株は〈イネ・ライジング〉との共有財産であるとの認識であり、形見分けはこの部屋の中にある物品を対象とさせていただきます」  浜谷智美と石田未莉、そして矢野貴子の三人は納得顔で頷いてみせる。 「お三方が伊根さんとお付き合いがあったのはそれぞれご承知なので敢えて申し上げれば、ま

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    5

    朝日新聞出版の文芸書

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

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    • 42本

    恋愛小説が描かない結婚・離婚・非婚・事実婚…答えの出ないままに生きることのリアル!

     結婚ってなんだろう? 最初の結婚に失敗してウツを病んでから、私はそれをずっと考えていた。幸せな結婚は幻想だと言われて久しいが、それでも人は何かを夢見て結婚する。それはなぜなのだろう。この年になってあらためて周りを見回すと、仲むつまじい夫婦にはなかなかお目にかかれない。それでも連れ添っているのはなぜか。ほんとうに生活のためだけなのか。結婚には何か魔力のようなものがあるのではないか。その問いに答えを得たとき、それを小説に書きたいと思っていた。ゴールインするまでの恋愛小説ではなく

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    10

    【シリーズ最高傑作】北原亞以子さんの幻の名作長編が初の文庫化!『雪の夜のあと 慶次郎縁側日記』大矢博子氏による文庫解説を公開

       <本書が原作>     時代劇セレクション「慶次郎縁側日記2」(主演:高橋英樹)     NHK総合 毎週水曜日 午後3時10分~ 2022年8月放送予定     ※放送は変更になることがあります。  朝日文庫による「慶次郎縁側日記」シリーズ復刊企画、第3弾である。  ――と簡単に書いたが、実はこの『雪の夜のあと』の復刊は多くのファンが熱望していた、まさに快挙と言っていい出来事なのだ。私も復刊3作目が『雪の夜のあと』と聞いて思わず「ほんとうに?」と訊き返してしまったほ

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    高山羽根子著・単行本『如何様』大澤聡氏による書評「ポスト・トゥルースの彼岸」を特別掲載!

     1947年12月29日、1人の男が死んだ。ハン・ファン・メーヘレン、画家である。のち世界的にその名を知られることになる。ただし、フェルメールの精巧な贋作の制作者として。遡ること2年半前、ナチスの高官ヘルマン・ゲーリングらにオランダの名画を売り渡した罪で起訴され、世間はこのナチス協力者にバッシングを浴びせた。しかし、拘留中の本人の告白と法廷での長期におよぶ実演とによって、売却したのはじつは自身の手になる贋作だったことが判明。すると、憎きナチスに偽物を掴ませた男として、一転、英

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    4

    高山羽根子著・単行本『オブジェクタム』小川哲氏による書評「文学の美しさと儚さ」を特別掲載!

     高山さんがトリッパーで新作を書いたらしいと聞き、手にとってみると「オブジェクタム」というラテン語風の仰々しいタイトルだった。聞いたことのあるような、ないような不思議な言葉だったが、高山さんは美大を出てるから、オブジェとか出てくるのかな、といい加減な気分で読み始めた。そしたら本当にオブジェ的なものが出てきて驚いた。 《オブジェ》とはなんだろうか。もともとは「物体」や「客体」を表すフランス語だったが、シュルレアリスム以降は「非芸術的な物体を利用して制作された美術作品」という意

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    李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」

    台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。

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    • 3本

    小さい魚は催眠術をかける――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第3回

    第3回 小さい魚は催眠術をかける  子供時代はポケモンにハマっていたというのは前回書いた通りだが、アニメだけでなく、ゲームにもまた忠実なファンで、初代の『ポケットモンスター 赤』からやっていた。  中国語の吹き替えと字幕がついているアニメとは違い、ゲームはかなり難儀した。何しろキャラクターやポケモンの名前から、地名、技名、会話、アイテム名など、全部日本語なのだ。日本語といっても漢字があれば何とか意味を推測できるが、ゲームボーイなので平仮名と片仮名ばかりだ。そんな五里霧中の

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    サチコとポケモン――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第2回

    第2回 サチコとポケモン  私は平成元年生まれである。一九八九年、それは世界史的に転換点となる年だった。その年にベルリンの壁が崩壊し、鉄のカーテンが破られ、中国では天安門事件が起き、民主化運動が頓挫した。日本でも昭和天皇が崩御し、バブル経済の絶頂期の真っ只中で平成を迎え、日経平均株価が史上最高値を更新した。しかし当然ながら、自分が大変な年に生まれてきたということを知ったのは随分後のことだし、平成元年生まれにもかかわらず「平成」という言葉を知ったのも、平成が半分以上過ぎた後のこ

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    バレンタインの奇跡――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第1回

    第1回 バレンタインの奇跡  これ連載の第一回なり。まずは詩を二首――  十載苦吟窮鹿島、 十載 苦吟すれど 鹿島にて窮し、  一朝独舞進扶桑。 一朝 独り舞ひて 扶桑に進む。  漂漂浮芥帰何処、 漂々たる浮芥 何れの処にか帰らん、  四海八荒有故郷。 四海八荒に 故郷有らん。  未有白翁蒼浩筆、 未だ 白翁の 蒼浩たる筆有らず、  也無邱女冷繊魂。 また 邱女の 冷繊たる魂も無し。  孤琴偶得周郎顧、 孤琴 周郎の顧みるを 偶たま得たれば、  漢柱和絃道源究。 漢柱と

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    高山羽根子「オブジェクタム/如何様」

    高山羽根子さんの朝日文庫『オブイジェクタム・如何様』に関する記事をまとめています。

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    • 2本

    読まなきゃわからない高山羽根子の不思議な世界 『オブジェクタム/如何様』佐々木敦氏による文庫解説を特別公開!

     本書は、2018年刊行の『オブジェクタム』、2019年刊行の『如何様』の2冊の作品集を合本し、更にエッセイ「ホテル・マニラの熱と髪」を加えた文庫版である。高山は2009年に「うどん キツネつきの」で第1回創元SF短編賞を受賞、同名の短編集が2014年に刊行されており、『オブジェクタム』は2冊目の単著だった。その後、『居た場所』(2019年)と『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』(同)の2冊を挟んで『如何様』が刊行された。そして2020年に「首里の馬」で第163回芥川龍之介

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    芥川賞作家・高山羽根子『オブジェクタム/如何様』書評まとめ

    『オブジェクタム』評者・栗原裕一郎さん「小説新潮」(2018年4月12日号) 評者・倉本さおりさん「産経新聞」(2018年10月14日) 『如何様』評者・助川幸逸郎さん「産経新聞」(2020年1月19日) 評者・大竹昭子さん「小説新潮」(2020年1月30日号) 評者・宮部みゆきさん「読売新聞」(2020年2月16日) 評者・鴻巣友季子さん「毎日新聞」(2020年3月1日) 評者・間室道子さん「DAIKANYAMA T-SITE」 その他、「北海道新聞」「神戸新

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    井上荒野「生皮」

    井上荒野さんの『生皮』に関する記事をまとめています。

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    • 4本

    セクハラの実態を多面的に描き、各紙誌で大反響!文芸評論家・池上冬樹さんによる、井上荒野著『生皮』の書評を先行公開

    ■再生の光景 池上冬樹  副題を見たとき、少し論文めいて適当ではないと思ったのだが、「光景」が様々な視点から捉えられていて違和感がなくなった。「あるひとつ」の光景ではなく、「あるひとつの典型として」の光景であるかのような力ももつ。  動物病院の看護師の柴田咲歩は、夫にいえない秘密を抱えていた。生理がこないのを恐れていた。不倫したわけでも、夫を愛していないわけでもなく、妊娠をおそれていた。子供が好きなのに、子供を産みたくないのだ。なぜなら、自分の体がきらいだから。汚れている

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    佐久間文子 性暴力における被害者と加害者の視点「生皮」(井上荒野)

    性暴力における被害者と加害者の視点衝撃的なタイトルだ。 皮を剥がれ、血を流し続ける心の痛みがひりひりと伝わってくる。 本書は、文学の世界で起きた、ショッキングな性暴力を題材にしている。ショッキング、と書きながら矛盾するようだが、こういうことは実際にあちこちであっただろう、とも強く感じた。 動物病院の看護師として働く柴田咲歩は、7年前、カルチャーセンターの小説講座の講師だった月島光一からホテルに呼び出され、望まない性交を強いられた。 月島の講座から2人目の芥川賞の受賞者

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    【井上荒野著『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』書評】セクハラが起こる現場の空気を克明に描く問題作

    ■生皮を剥いで社会の膜を破る  恋愛、合意、セクハラ、レイプ。  同じ行為について、これほど違う言葉で表されることはそれほど多くないだろう。だからこそ、被害者がどれほどその苦しみを語っても、加害者や第三者は平気でこんな言葉を投げかける。  それくらいたいしたことないだろう――。  どうして被害を受けた者と加害者との間に、これほど大きな認識の溝ができるのか。 『生皮』は、この意識のずれに迫った小説である。芥川賞作家を送り出した小説講座の人気講師を、かつての受講者が性暴

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    【試し読み】井上荒野『生皮 ―あるセクシャルハラスメントの光景』 

    ※期間限定全文公開は終了しました。たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございました。好評につき、第1章のみ、引き続き試し読みとして公開を続けます。どうぞよろしくお願いいたします。 第一章 現在柴田咲歩  その記事はスポーツ新聞に載っていた。スポーツ新聞は、新患の飼い主が待合室で読んでいた。ワクチン接種のために雑種の子猫を連れてきた、二十代半ばくらいの女性だった。シャネルふうのツイードスーツにハイヒールという姿で、トートバッグから取り出したのがスポーツ新聞だったから、格

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