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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッ…

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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

マガジン

  • 朝日新聞出版の文芸書

    • 236本

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

  • 北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』

    平成を大法する大ベストセラー作家・佐伯泰英。その膨大な著作をすべて読破してレポート。読者をひきつけてやまない魅力を全力で伝えます!

  • 鶴谷香央理:連載コミック「傲慢と善良」(原作・辻村深月)

    【単行本第1巻、9月13日発売!!】 婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。彼女はなぜ姿を消したのか。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる――。 現代社会の生きづらさを恐るべき解像度で描き、多くの共感を呼んだ、2023年最大のベストセラー小説『傲慢と善良』を、名手・鶴谷香央理がコミカライズ!! 【毎月20日 11時更新予定】 小説公式サイトはこちら https://publications.asahi.com/feature/gouman/

  • 年森瑛:連載エッセイ「バッド入っても腹は減る」

    パスタを茹でながら、キャベツを煮込みながら、一冊の本をじっくり読む――。いちばん読書がはかどるのはキッチンだ。いま再注目の新人作家による、おいしい読書日記連載スタート。毎月15日更新予定。

  • 川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」

    文学、映画、アニメ、漫画……でひときわ印象に残る「名台詞=パンチライン」。この台詞が心に引っかかる背景には、言語学的な理由があるのかもしれない。ひとつの台詞を引用し、そこに隠れた言語学的魅力を、気鋭の言語学者・川添愛氏が解説する連載がスタート! 毎月10日に配信予定。

朝日新聞出版の文芸書

書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

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  • 236本

なぜ江藤淳の「喪失」は書き換えられなければならなかったのか?/佐々木敦著『成熟の喪失』西村紗知さんによる書評を特別公開!

成熟論が成熟する方法 本書は佐々木敦が「日本的成熟」を世に問うた仕事で、メインの対象は庵野秀明監督『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と江藤淳『成熟と喪失』である。著者は、『ラブ&ポップ』『キューティーハニー』といった実写作品から、「エヴァ」以降の「シン」シリーズに至るまでの庵野監督作品を通じ、主人公の「成熟」の史的分析に取り組んでいる。キーワードは「他者」「公と私」である。例えば、『シン・ゴジラ』で描かれているのは、「自信と確信を持って積極的に「公」の一部になることで自己実現を

本当の“共犯者”はいったい誰なのか? 真保裕一『共犯の畔』池上冬樹さんによる書評を特別公開

“畔”とは何か? 最後の最後に読者に激しく突きつけられる 真保裕一は何を読んでも面白い。直木賞をとってもおかしくないし、ベテラン作家対象の柴田錬三郎賞をとってもおかしくない。  たとえば、今年3月に出た『魂の歌が聞こえるか』(講談社)もそう。音楽ディレクターが無名バンドを世に送り出すという、真保裕一得意の職業小説でありながら、バンドのメンバーに秘密をもたせて、ミステリに仕立てているからたまらない。新人発掘とともにベテランの復活というストーリーも並行させ、そこにいくつものひね

『納税、のち、ヘラクレスメス のべつ考える日々』発売!! 巻末収録の品田遊さん×古賀及子さん対談「日記を毎日書くふたり」冒頭公開

●対談 品田遊×古賀及子 日記を毎日書くふたり目的なく日記を毎日投稿しているのって怖いですよね ●古賀及子(以下、古賀) 日記の本を出してから、すっかり日記枠の人になってしまいました。品田さんは、そもそもどうして日記を書き始めたんですか? ●品田遊(以下、品田) Twitterに140字以内で自分の考えを書くことに自分が慣れ過ぎてしまっているなと思ったんです。拡散に直結しないような場所で、画用紙に描くような散文を好き勝手に書きたくて始めました。最初は不定期で書こうかなと思

第10回林芙美子文学賞大賞、大原鉄平氏の受賞後第一作「八月のセノーテ」が「小説トリッパー」24年秋季号に早くも掲載!冒頭部分を特別公開

「八月のセノーテ」 この街は少しずつ沈んでいるらしい。  森本仁寡はその話を同級生のりょうから聞いた。りょうは塾でもトップクラスの成績で、下らない噂話に流されるタイプではなかったので、きっとその話は本当だろうと仁寡は思った。この街は少しずつ沈んでいる。 「年に何ミリだか、何センチだか、知んないけどね」  りょうは真新しい赤色の自転車に飛び乗るようにまたがり、ペダルに足をかけ、仁寡を振り返って言った。 「全部沈んじゃったら、あんたはどうする?」  日が傾きつつある放課後、りょう

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』

平成を大法する大ベストセラー作家・佐伯泰英。その膨大な著作をすべて読破してレポート。読者をひきつけてやまない魅力を全力で伝えます!

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  • 19本

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第21回

第10峰『古着屋総兵衛影始末』『新・古着屋総兵衛』其の壱 家康の命を受けた一族が江戸を守り、海を攻める 巧みな設定で全11巻を駆け抜ける『古着屋総兵衛影始末』 表の貌は老舗の主、裏の貌は江戸の諜者 『古着屋総兵衛』シリーズは、全11巻の『古着屋総兵衛影始末』、全18巻の『新・古着屋総兵衛』からなるアクション連山。佐伯作品の中では物語の設定が強固で登山もしやすいが、こぢんまりとまとまるのではなく、その枠にとどまらない自由奔放さを併せ持つ個性派時代小説でもある。『新・古着

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第20回

第9峰『空也十番勝負』其の弐 〝十番〟と数を限定したのは、書き過ぎ禁止令だった⁉  剣術小説のタイトルに十番勝負とついていたら、読者が想像するのは巻ごとに強敵が現れ、迫りくるピンチをしのいで相手を倒すパターンではないだろうか。流派の違いで闘い方を変えたり、相手の得意技に一度は傷を負いながらもかろうじて勝ちを収め、つぎの強敵を求めて旅を続けていく。そして、最終巻で最強の相手にたどりつき10番勝負が成就する筋書きが王道。連作小説としてまとまりやすいし、読者も読みやすいように思

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第19回

第9峰『空也十番勝負』 どうにも止まらない! 執筆欲と読書欲の共鳴で新山が隆起 10代の若武者を主役に据えた、元気ハツラツの磐音続編 年齢を意識し、〝十番”に限定。コンパクトな物語を志すも……  リアルタイムで読んだわけではないので、『居眠り磐音 江戸双紙』が全51巻で終わったときの読者の反応は知らないが、新刊が出るたびに読み継ぎ、足掛け15年間も同作品を追いかけた読者の胸中は達成感に満たされただろうと想像できる。  人気があるから長編シリーズになる。その一方で、通

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第18回

第8峰『居眠り磐音 江戸双紙』其の弐 全読者の胸を熱くさせる神回の第3巻、珠玉の第16巻 『居眠り磐音 江戸双紙』が大長編でありながら尻すぼみにならずに人気を保ち、傑作と称される理由として挙げておきたいのは、緩急の使い分けが見事にはまっている点だ。とりわけ前半がすごくて、急展開のオープニングから一転して静かになったかと思いきや、物語の骨格を形成するのと同時進行で感情を揺さぶられるドラマがピークを目指して前にせり出してくる。  大長編である。しかも、小さな事件をていねいに

鶴谷香央理:連載コミック「傲慢と善良」(原作・辻村深月)

【単行本第1巻、9月13日発売!!】 婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。彼女はなぜ姿を消したのか。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる――。 現代社会の生きづらさを恐るべき解像度で描き、多くの共感を呼んだ、2023年最大のベストセラー小説『傲慢と善良』を、名手・鶴谷香央理がコミカライズ!! 【毎月20日 11時更新予定】 小説公式サイトはこちら https://publications.asahi.com/feature/gouman/

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  • 3本

鶴谷香央理:『傲慢と善良』第6話

鶴谷香央理:『傲慢と善良』第1話

鶴谷香央理:『傲慢と善良』第2話

年森瑛:連載エッセイ「バッド入っても腹は減る」

パスタを茹でながら、キャベツを煮込みながら、一冊の本をじっくり読む――。いちばん読書がはかどるのはキッチンだ。いま再注目の新人作家による、おいしい読書日記連載スタート。毎月15日更新予定。

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  • 8本

年森瑛「バッド入っても腹は減る」第8回

「今度ちいちゃんと焼肉行くんだけど年森は食べれたっけ?」 「食べれないけど雰囲気は味わいたい」 「おけ! いこうず!」  というわけで中学からの友人であるちいちゃん、ユウと焼肉に行った。好きなの食べなと言われたので、二人が焼いているそばから興味をひかれた肉だけもらった。帰りに公園でたむろしていたらゲリラ豪雨に見舞われ、あまりのずぶ濡れ具合に爆笑しながら別れた。横断歩道の向こうで「気をつけて帰んな~!」と叫んでいる二人の姿は雨滴にほとんどかき消されて、でも笑っている声だった。

年森瑛「バッド入っても腹は減る」第7回

 クロネコヤマトの配達通知が届いたので玄関脇のポストを確認しに行くと、開きっぱなしのフタから郵便物がいくつも飛び出ていた。無理矢理突っ込まれた分厚いゆうパックとメルカリの箱、スポーツジムのチラシ、それから奥で丸まっていた都知事選の広報誌を引っこ抜く。ゆうパックは担当さんからの献本だった。  というわけで、いただいた『私の身体を生きる』をさっそく読む。これは女性として生きる17名の書き手が自らの身体について語るリレーエッセイ集で、『文學界』で不定期連載していた頃から追いかけてい

年森瑛「バッド入っても腹は減る」第6回

 食事が苦手だ。  理由はいくつかあって、まず基本的に胃が弱い。冷たい牛乳を飲めばたちまち吐き気を催し、ケンタッキーを食べれば下痢をする。ややこしいことにコンディションがまちまちなので、おかわりできる日もあれば半分以上残す日もある。  偏食でもあるため「食べ物みのあるもの」を食べられない時期が定期的に訪れる。「食べ物みのあるもの」とは米・肉魚・野菜のような一般的な食卓に出されるすべてを指す。先週はパルムのロイヤルミルクティー味だけ食べていた。そして腹を下した。当然である。その

年森瑛「バッド入っても腹は減る」第5回

 年度末の記憶がない。  ただでさえ職場の繁忙期だというのに確定申告も重なり、さらに医療費を稼ぐため短編の依頼まで引き受けてしまったため、ここ数ヶ月は土日返上で働き詰めだった。同じく兼業作家で年中激務のサハラさんと毎週末に通話していなければとっくにメンタルは崩壊していただろう。「自分へのご褒美で金曜夜にナゲットを山盛り買って家で食べようとしたらソースがついていなくて、だけど取りに帰る気力もないから結局ケチャップで食べたんですよ」というような、週明けにわざわざ同僚たちに語るほど

川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」

文学、映画、アニメ、漫画……でひときわ印象に残る「名台詞=パンチライン」。この台詞が心に引っかかる背景には、言語学的な理由があるのかもしれない。ひとつの台詞を引用し、そこに隠れた言語学的魅力を、気鋭の言語学者・川添愛氏が解説する連載がスタート! 毎月10日に配信予定。

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  • 9本

はこびるって何だよ!(『勇者ヨシヒコ』シリーズ)――川添愛「パンチラインの言語学」第9回

 最近、また『勇者ヨシヒコ』シリーズを見返している。数年ごとに『ヨシヒコ』を見たくなる時期があり、今がちょうどそれにあたるようだ。疲れすぎていて他に何も見たくないときでも、『ヨシヒコ』なら見られるし、見たら楽しめるという点で私にとってはたいへんありがたい作品だ。一話あたり30分という長さもちょうどいい。  見たことのない人のために説明すると、ストーリー上の設定は、故郷の村で勇者として選ばれた真面目な青年ヨシヒコ(山田孝之)が魔王の手から世界を救うために旅をする、というものだ。

Whatでは英語を話すのか?(『パルプ・フィクション』)――川添愛「パンチラインの言語学」第8回

 皆さんにとって、「これまでの人生で、見た回数が一番多い映画」は何だろうか? 私は『パルプ・フィクション』である。数えたことはないが、たぶん40回ぐらいは見ている。  初めて見たのは大学生のときだ。正直言って、一度目はあまり面白いと思えなかった。なんとなくクライム・サスペンスのつもりで見始めたが、ハラハラドキドキするような感じでもなく、登場人物たちはなんか本筋とは関係ないことをベラベラ喋ってるし、暴力シーンはやたらと怖いし、どちらかというと繰り返し見ることはないタイプの映画だ

「やっ……てますね」(『不適切にもほどがある! 』)――川添愛「パンチラインの言語学」第7回

 今回取り上げるのは、今年一月から三月にかけて放映された宮藤官九郎脚本の人気ドラマ『不適切にもほどがある!』だ。各所で話題になった本作、私も毎週楽しみに見ていた。謎のバス(実はタイムマシン)に乗って1986年から2024年にタイムスリップした中学体育教師、小川市郎(演・阿部サダヲ)が時代を飛びこえながら活躍し、昭和と令和のギャップを浮き彫りにするコメディだ。  昭和生まれの人間からすると懐かしいネタが満載で、市郎の娘でスケバンの純子(演・河合優実)が市郎に買ってきてもらったカ

偉い人にはそれがわからんのです(よ)(『機動戦士ガンダム』)――川添愛「パンチラインの言語学」第6回

 前回の予告どおり、今回も『機動戦士ガンダム』を取り上げる。前回はニュータイプの話でお茶を濁してしまい、言語学要素がいつにも増して薄めだった自覚はある。できれば今回もアムロとララァの謎会話のことや、ララァに「大佐、どいてください、邪魔です!」と言われてしまった可哀想なシャアの話とかをしたいものだが、そこをぐっとこらえて、もうちょっと言語学寄りに『ガンダム』のセリフを眺めてみたいと思う。  この作品の特徴の一つとして、一部のキャラのセリフの「芝居がかった感じ」が挙げられる。た