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リアルな心理描写と驚愕のラストに震撼する『悪い女 藤堂玲花、仮面の日々』/大矢博子氏による解説を期間限定で特別掲載!
本書は2014年に刊行された『ダナスの幻影』を大幅加筆修正のうえ改題・文庫化したものである。ノンシリーズとしてはデビュー作以来の2作目。近年の吉川英梨の活躍に慣れた読者からすると異色作と言ってもいいこの作品を、ようやく文庫でお届けできることを嬉しく思う。 吉川英梨は2008年、第3回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞した『私の結婚に関する予言38』(宝島社文庫)でデビュー。ブレイクのきっかけとなったのは2011年、デビュー2作目として出された『アゲハ

【書店員さんからの感想続々!】素晴らしい読後感に出会える小説だった――宮内悠介さん『ラウリ・クースクを探して』感想まとめ
コンピュータープログラムに魅せられたラウリ。プログラムだけが彼の友達だった。孤独だったラウリに生涯忘れられない時、切っても切れない友情が輝き出す。国の体制に翻弄されながらも心には確かに彼女、彼らとのつながりが存在した。自分の真の気持ちと彼らの気持ちはすれ違い、途中歯がゆさでいっぱいになった。 読み終わり、こんな人とのつながりがあってほしい。こんな友情があってよかったと心から思った。 わたしの正体を知った時、心が震えて、胸がいっぱいになった。 (ジュンク堂書店滋賀草津店

宮内悠介さんがコンピュータ・プログラミングを通して描く物語/『ラウリ・クースクを探して』刊行記念エッセイ特別公開
小学生のころ、父の仕事の関係でアメリカにいて、夏休みのたびに一時帰国していた。祖父母の家に泊めてもらい、その近くに住んでいた従兄弟に遊んでもらった。これが、二週間くらいのことであったのか、一ヵ月くらいのことであったのかは、もう記憶にない。ただ、この一時帰国がとても楽しみであったことはよく覚えている。八〇年代の終わりごろのことで、まだ景気がよく、存命だった祖父が車を運転して皆を伊豆につれて行ったりした。池袋のサンシャインシティが好きだった。どこもかしこも明るくて、日本という国

「笑いあり涙あり感動あり!短編集ならではの醍醐味」書評ライターの松井ゆかりさんが、大好評の森絵都さん最新刊『獣の夜』をレビュー!
森絵都作品の魅力はいくつも列挙できるが、思わず笑ってしまうユーモアというのも間違いなく筆頭にカウントされる要素のひとつだ。本書でそれがとりわけ顕著に感じられるのは、表題作であろうか。主人公の紗弓が夜の約束に備えて仕事を片づけていたところに、一本の電話が入った。予期せぬ頼みごとをしてきたのは、大学時代に同じサークルだった泰介だ。夜の約束というのはやはりサークル仲間で現在は泰介の妻となっている美也のサプライズ誕生会のことなのだが、泰介は自分が彼女をパーティー会場に連れて行くはず

「容赦はないが愛はある」とは一体どういうことなのか? 話題の作家・阿部暁子さんが、作品が大好きという森絵都さん最新刊『獣の夜』について綴ります
私は森絵都さんほど、やさしい物語を書く人はいないと思っている。ただ、そのやさしさは、甘さや手加減とは無縁のものだ。 本作には7編の短編が収録されている。「雨の中で踊る」は、コロナ禍のさなかにリフレッシュ休暇を取らされた男性が「フットマッサージでも行ってきたら」と妻に送り出される(追い出される)ところから始まり、海パンと海と“セッション”によってこんな場所まで到達するのかと物語の怒涛の広がりに圧倒される。「Dahlia」はわずか5ページのディストピア小説、そこに凝縮された
李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」
台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。