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李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」

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台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。
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小さい魚は催眠術をかける――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第3回

小さい魚は催眠術をかける――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第3回

第3回 小さい魚は催眠術をかける

 子供時代はポケモンにハマっていたというのは前回書いた通りだが、アニメだけでなく、ゲームにもまた忠実なファンで、初代の『ポケットモンスター 赤』からやっていた。

 中国語の吹き替えと字幕がついているアニメとは違い、ゲームはかなり難儀した。何しろキャラクターやポケモンの名前から、地名、技名、会話、アイテム名など、全部日本語なのだ。日本語といっても漢字があれば何と

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サチコとポケモン――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第2回

サチコとポケモン――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第2回

第2回 サチコとポケモン
 私は平成元年生まれである。一九八九年、それは世界史的に転換点となる年だった。その年にベルリンの壁が崩壊し、鉄のカーテンが破られ、中国では天安門事件が起き、民主化運動が頓挫した。日本でも昭和天皇が崩御し、バブル経済の絶頂期の真っ只中で平成を迎え、日経平均株価が史上最高値を更新した。しかし当然ながら、自分が大変な年に生まれてきたということを知ったのは随分後のことだし、平成元

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バレンタインの奇跡――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第1回

バレンタインの奇跡――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第1回

第1回 バレンタインの奇跡

 これ連載の第一回なり。まずは詩を二首――

 十載苦吟窮鹿島、 十載 苦吟すれど 鹿島にて窮し、
 一朝独舞進扶桑。 一朝 独り舞ひて 扶桑に進む。
 漂漂浮芥帰何処、 漂々たる浮芥 何れの処にか帰らん、
 四海八荒有故郷。 四海八荒に 故郷有らん。

 未有白翁蒼浩筆、 未だ 白翁の 蒼浩たる筆有らず、
 也無邱女冷繊魂。 また 邱女の 冷繊たる魂も無し。
 孤琴

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