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川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」

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文学、映画、アニメ、漫画……でひときわ印象に残る「名台詞=パンチライン」。この台詞が心に引っかかる背景には、言語学的な理由があるのかもしれない。ひとつの台詞を引用し、そこに隠れた…
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最もフィジカルで最もプリミティブで、そして最もフェティッシュ(ドラマ『地面師たち』)――川添愛「パンチラインの言語学」第11回

 NETFLIXのドラマ『地面師たち』にハマっている。今ちょうど髪型がトヨエツ演じるハリソン山中の髪を少し長くしたぐらいの感じなので、サングラスをかけるたびにハリソンになりきって「地面師になりませんか……?」とつぶやいている。街を歩くと、辻本拓海の憂いを帯びた表情が頭に浮かび、ウ~ウァ~ワ~ワ~ンというカタカナでは表現しづらい石野卓球の音楽が脳内再生される。たぶん私と同じような人が、今(2024年9月現在)の日本には100万人ぐらいいると思う。  同作は、新庄耕の同名小説を大

なりたい自分になりたい(『違国日記』)――川添愛「パンチラインの言語学」第10回

 今回はヤマシタトモコの『違国日記』を取り上げる。ガッキー主演の実写映画も見ようと思ったが、この原稿の締め切り前に見られなさそうなので、取り上げるのはもっぱら原作漫画の方だ。  本作は、突然の事故で両親を亡くした15歳の少女・朝と、彼女の叔母である小説家・槙生との同居生活を描くものだ。槙生は姉(朝の亡き母)と折り合いが悪く、朝ともほとんど面識がなかったが、朝が両親の葬式で親戚中からたらい回しにされそうになっているのを見かねて、ほぼ勢いで彼女を引き取ることを決める。そのとき親戚

はこびるって何だよ!(『勇者ヨシヒコ』シリーズ)――川添愛「パンチラインの言語学」第9回

 最近、また『勇者ヨシヒコ』シリーズを見返している。数年ごとに『ヨシヒコ』を見たくなる時期があり、今がちょうどそれにあたるようだ。疲れすぎていて他に何も見たくないときでも、『ヨシヒコ』なら見られるし、見たら楽しめるという点で私にとってはたいへんありがたい作品だ。一話あたり30分という長さもちょうどいい。  見たことのない人のために説明すると、ストーリー上の設定は、故郷の村で勇者として選ばれた真面目な青年ヨシヒコ(山田孝之)が魔王の手から世界を救うために旅をする、というものだ。

Whatでは英語を話すのか?(『パルプ・フィクション』)――川添愛「パンチラインの言語学」第8回

 皆さんにとって、「これまでの人生で、見た回数が一番多い映画」は何だろうか? 私は『パルプ・フィクション』である。数えたことはないが、たぶん40回ぐらいは見ている。  初めて見たのは大学生のときだ。正直言って、一度目はあまり面白いと思えなかった。なんとなくクライム・サスペンスのつもりで見始めたが、ハラハラドキドキするような感じでもなく、登場人物たちはなんか本筋とは関係ないことをベラベラ喋ってるし、暴力シーンはやたらと怖いし、どちらかというと繰り返し見ることはないタイプの映画だ

「やっ……てますね」(『不適切にもほどがある! 』)――川添愛「パンチラインの言語学」第7回

 今回取り上げるのは、今年一月から三月にかけて放映された宮藤官九郎脚本の人気ドラマ『不適切にもほどがある!』だ。各所で話題になった本作、私も毎週楽しみに見ていた。謎のバス(実はタイムマシン)に乗って1986年から2024年にタイムスリップした中学体育教師、小川市郎(演・阿部サダヲ)が時代を飛びこえながら活躍し、昭和と令和のギャップを浮き彫りにするコメディだ。  昭和生まれの人間からすると懐かしいネタが満載で、市郎の娘でスケバンの純子(演・河合優実)が市郎に買ってきてもらったカ

偉い人にはそれがわからんのです(よ)(『機動戦士ガンダム』)――川添愛「パンチラインの言語学」第6回

 前回の予告どおり、今回も『機動戦士ガンダム』を取り上げる。前回はニュータイプの話でお茶を濁してしまい、言語学要素がいつにも増して薄めだった自覚はある。できれば今回もアムロとララァの謎会話のことや、ララァに「大佐、どいてください、邪魔です!」と言われてしまった可哀想なシャアの話とかをしたいものだが、そこをぐっとこらえて、もうちょっと言語学寄りに『ガンダム』のセリフを眺めてみたいと思う。  この作品の特徴の一つとして、一部のキャラのセリフの「芝居がかった感じ」が挙げられる。た

「あの鳥のこと、好きだったのかい?」(『機動戦士ガンダム』)――川添愛「パンチラインの言語学」第5回

 今回はアニメ『機動戦士ガンダム』を取り上げる。なぜだ。坊やだからさ……ではなくて、前回の連載でなにげなく「お子様ゆえのあやまち」というフレーズを書いたのが直接の理由だ。私の頭の中にあったのは、本作のメインキャラの一人「赤い彗星のシャア」のセリフ、「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえのあやまちというものを」なのだが、よく考えたらシャアがこれをどんな場面で言ったのかを完全に忘れていた。それで確認すべく第1話から見始めたら、頭がすっかり「ガンダム脳」になってしまった。  同

「今のあの子ではムリ」(『ガラスの仮面』)――川添愛「パンチラインの言語学」第4回

 前回の連載が公開される前、私が「南ちゃんは本当に恐ろしい子である」と書いた部分について、校閲の方から「(『ガラスの仮面』での)原文は『おそろしい子!』のようです」との参考情報をいただいた。私も当然『ガラスの仮面』を意識してそのように書いたわけだが、こんな小ネタにもかかわらず、元ネタにまで当たっていただいたことに驚いた。最終的には漢字表記の方が読みやすいと判断したため平仮名表記に直すことはしなかったが、その流れ(?)で『ガラスの仮面』を読み始めた。  まだ全巻は読めていない

「めざせカッちゃん甲子園」(『タッチ』)――川添愛「パンチラインの言語学」第3回

 前回の原稿を提出したとき、担当Uさんから「次は『タッチ』や『キン肉マン』はどうでしょう?」という提案があった。どうやらUさんはこの連載の主なターゲットを五十代と考えているようなので、こういうチョイスになっているのだろう。とりあえず今回は『タッチ』を取り上げることにする。  この作品を知らない、あるいは読んだことがない読者がいる可能性を考慮して、簡単に紹介しておく。本作にはメインキャラクターとして、上杉達也、上杉和也という双子の兄弟と、彼らの隣家に住む幼なじみで快活な少女、

「とびきり甘い人生」(『チャーリーとチョコレート工場』)――川添愛「パンチラインの言語学」第2回

 今回は『チャーリーとチョコレート工場』を取り上げる。これは私が「バレンタインシーズンだから」と気を利かせたがゆえのチョイスではなく、この連載2回目にして早くもどの作品を取り上げたらいいか分からなくなり、担当Uさんのおすすめに唯々諾々と従った結果だ。飲食店で「店長のおすすめ」ばかり注文する主体性のなさが露呈した。  この映画、実は未見だった。2005年の公開当時は、『おそ松くん』のイヤミを彷彿とさせるおかっぱ頭のジョニー・デップが不気味すぎて、見る気になれなかった。実際に見

「フラッシュ・ゴードンが来てる」(『テッド』)――川添愛「パンチラインの言語学」第1回

 今回からweb TRIPPERで連載をさせていただくことになった。皆さんもどういう連載なのかよく分からないと思うが俺も分からねえという状況だ。どうやら映画やアニメ、漫画などで印象に残る台詞(パンチライン)を言語学的に考察しなさい、という感じらしい。  たぶんこの依頼の本来の意図は、誰でも知ってる作品の誰でも知ってる台詞、たとえば『ワンピース』の「海賊王に おれはなる!!!!」とか、『スター・ウォーズ』の「ア~イ アム ユア ファ~ザ~(シュコォ〜 ←呼吸音)」とか、そういう