書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
2023年3月7日発売の村井理子さん『ふたご母戦記』に関する記事をまとめています。
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鈴峯紅也さんの人気シリーズ「警視庁監察官Q」の主人公・小田垣観月の学生時代を描いたスピンオフシリーズです。11月24日より、毎週木曜日に最新回を掲載予定です。
名手による警察小説をお楽しみください。
2023年1月10日発売の朝比奈秋さん『植物少女』に関する記事をまとめています。
十三 翌週の月曜日になった。二十五日だ。 ついでに言うなら友引になる。松子ではなく、…
十二 同じ日の、夜だった。八日目の月が西の空にあった。 この夜、観月はさすがに〈蝶天…
十一 真紀たちとの集合場所は、本郷通りの東大赤門前だった。 観月は六分で辿り着いた。…
十 「ああ。お陽様が気持ちいい。多分」 観月はこの日、〈四海舗〉にいた。件の中庭の、半…
第9回 美しき数式――私的日本語文法論(後編) 「て形」を習得したのは高校時代だった。中…
2023年2月23日 17:00
十三 翌週の月曜日になった。二十五日だ。 ついでに言うなら友引になる。松子ではなく、これはこの朝にドミトリーの竹子に言われた。〈蝶天〉でのアルバイトの日だったが、観月はこの日、やむを得ぬ事情で出勤が少し遅くなった。 通常なら観月は、午後八時オープンの一時間前までに必ず入ることにしていた。 マッシュボブの髪もそのまま、場合に依っては手櫛を掛けるだけで、化粧も申し訳程度に口紅を引く
2023年2月16日 17:00
十二 同じ日の、夜だった。八日目の月が西の空にあった。 この夜、観月はさすがに〈蝶天〉に出勤する気はなかった。月曜から四日間を出勤するという話になっていたし、サロンの打ち合わせがあったからだ。 別にその後に真紀や穂乃果を始めとする九人とどこかで吞むとか、そういう約束があったわけではない。 それぞれが各自、〈生J〉との触れ合いを一人で噛み締める。堪能する。反芻する。 これが実は、
2023年2月9日 17:00
十一 真紀たちとの集合場所は、本郷通りの東大赤門前だった。 観月は六分で辿り着いた。「ごめん。本当にごめん」 赤門の前には、腕組みで仁王立ちの真紀の他に、〈打ち合わせ枠〉一杯の八人がいた。 今回は四年生が四人で三年生が三人、二年生が観月と真紀の二人で、一年生は杉下穂乃果の一人だけだった。 観月を除き、これが今回の、くじ運のいいメンバーだった。 学年と人数が偶然にもシンク
2023年2月2日 17:00
十「ああ。お陽様が気持ちいい。多分」 観月はこの日、〈四海舗〉にいた。件の中庭の、半分ずつが陽と影に染まる円卓の奥の椅子だ。 午前に来て、温かい桂花茶を貰い、少し眠った。 いや、たいがい眠っていたか。 秋晴れの、いい天気だった。午前の陽光に包まれ、風に頬を撫でられ、それで落ちた。 胸を広げ、大きく腕を広げ、背凭れに寄せ掛けていた背中が痛い。 少し固まってもいるか。そのく
2023年2月1日 12:00
第9回 美しき数式――私的日本語文法論(後編)「て形」を習得したのは高校時代だった。中学を卒業した後、私は田舎を離れ、地方都市の高校に入学した。それに伴って、家を借りて一人暮らしを始めた。それは初めての都会暮らしで、四畳半程度の狭い部屋、バスもトイレも共用という快適とはとても言えない環境だったが、それでも、田舎とは全く異なる都会の華やかさと賑やかさに、私はすぐ惹きつけられた。都会は機会と選択肢