web TRIPPER

季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

web TRIPPER

季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

    マガジン

    • 朝日新聞出版の文芸書

      • 98本

      書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

    • 村井理子「ふたご母戦記」

      • 3本

      2023年3月7日発売の村井理子さん『ふたご母戦記』に関する記事をまとめています。

    • 鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」

      鈴峯紅也さんの人気シリーズ「警視庁監察官Q」の主人公・小田垣観月の学生時代を描いたスピンオフシリーズです。11月24日より、毎週木曜日に最新回を掲載予定です。

    • 警察短篇小説競作

      名手による警察小説をお楽しみください。

    • 朝比奈秋『植物少女』

      2023年1月10日発売の朝比奈秋さん『植物少女』に関する記事をまとめています。

    記事一覧

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第13回

    十三  翌週の月曜日になった。二十五日だ。  ついでに言うなら友引になる。松子ではなく、…

    web TRIPPER
    4週間前
    0

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第12回

    十二  同じ日の、夜だった。八日目の月が西の空にあった。  この夜、観月はさすがに〈蝶天…

    web TRIPPER
    1か月前
    2

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第11回

    十一  真紀たちとの集合場所は、本郷通りの東大赤門前だった。  観月は六分で辿り着いた。…

    web TRIPPER
    1か月前
    0

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第10回

    十 「ああ。お陽様が気持ちいい。多分」  観月はこの日、〈四海舗〉にいた。件の中庭の、半…

    web TRIPPER
    1か月前
    0

    美しき数式――私的日本語文法論(後編)――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝…

    第9回 美しき数式――私的日本語文法論(後編) 「て形」を習得したのは高校時代だった。中…

    web TRIPPER
    1か月前
    0
    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第13回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第13回

    十三

     翌週の月曜日になった。二十五日だ。

     ついでに言うなら友引になる。松子ではなく、これはこの朝にドミトリーの竹子に言われた。

    〈蝶天〉でのアルバイトの日だったが、観月はこの日、やむを得ぬ事情で出勤が少し遅くなった。

     通常なら観月は、午後八時オープンの一時間前までに必ず入ることにしていた。

     マッシュボブの髪もそのまま、場合に依っては手櫛を掛けるだけで、化粧も申し訳程度に口紅を引く

    もっとみる
    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第12回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第12回

    十二

     同じ日の、夜だった。八日目の月が西の空にあった。

     この夜、観月はさすがに〈蝶天〉に出勤する気はなかった。月曜から四日間を出勤するという話になっていたし、サロンの打ち合わせがあったからだ。

     別にその後に真紀や穂乃果を始めとする九人とどこかで吞むとか、そういう約束があったわけではない。

     それぞれが各自、〈生J〉との触れ合いを一人で噛み締める。堪能する。反芻する。

     これが実は、

    もっとみる
    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第11回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第11回

    十一

     真紀たちとの集合場所は、本郷通りの東大赤門前だった。

     観月は六分で辿り着いた。

    「ごめん。本当にごめん」

     赤門の前には、腕組みで仁王立ちの真紀の他に、〈打ち合わせ枠〉一杯の八人がいた。

     今回は四年生が四人で三年生が三人、二年生が観月と真紀の二人で、一年生は杉下穂乃果の一人だけだった。

     観月を除き、これが今回の、くじ運のいいメンバーだった。

     学年と人数が偶然にもシンク

    もっとみる
    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第10回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第10回



    「ああ。お陽様が気持ちいい。多分」

     観月はこの日、〈四海舗〉にいた。件の中庭の、半分ずつが陽と影に染まる円卓の奥の椅子だ。

     午前に来て、温かい桂花茶を貰い、少し眠った。

     いや、たいがい眠っていたか。

     秋晴れの、いい天気だった。午前の陽光に包まれ、風に頬を撫でられ、それで落ちた。

     胸を広げ、大きく腕を広げ、背凭れに寄せ掛けていた背中が痛い。

     少し固まってもいるか。そのく

    もっとみる
    美しき数式――私的日本語文法論(後編)――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第9回

    美しき数式――私的日本語文法論(後編)――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第9回

    第9回 美しき数式――私的日本語文法論(後編)

    「て形」を習得したのは高校時代だった。中学を卒業した後、私は田舎を離れ、地方都市の高校に入学した。それに伴って、家を借りて一人暮らしを始めた。それは初めての都会暮らしで、四畳半程度の狭い部屋、バスもトイレも共用という快適とはとても言えない環境だったが、それでも、田舎とは全く異なる都会の華やかさと賑やかさに、私はすぐ惹きつけられた。都会は機会と選択肢

    もっとみる