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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

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    記事一覧

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第17回

    十七  けたたましいベルの音がした。  目覚ましだ。  音からするに、最終兵器として購入…

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    1日前
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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第16回

    十六 「で、今夜は何があったの? まあ、言いたくなけりゃ、言わなくていいけど」  美加絵…

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    8日前
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    破談屋 深町秋生

             1    葛尾静佳巡査部長の瞼が重くなった。  ひどい睡魔に襲われて意…

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第15回

    十五  即妙体の自在を得た観月は、すでに吹き流れる風も同じだった。 「さっさと済ませるわ…

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    2週間前
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    凡人なりの努力――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第10回

    第10回 凡人なりの努力  私は語学の天才ではない。日本語を第二言語として習得し、小説を書…

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第14回

    十四  翌日も、ジュンナは通常通りに出勤してきた。ただ、伊橋敬一とキミカは、ともにこの日…

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    3週間前
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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第17回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第17回

    十七

     けたたましいベルの音がした。

     目覚ましだ。

     音からするに、最終兵器として購入した三つ目に間違いない。

     と、この朝は薄ぼんやり思考することなく、すぐに理解した。熟睡には程遠い、浅い眠りだったようだ。

     夕べというか、もうこの日の早朝になるが、〈Bar グレイト・リヴァー〉を出たのが大体、午前二時半くらいだった。

     美加絵に付き合い、観月は六杯ほどカクテルを吞んだ。

     三杯

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第16回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第16回

    十六

    「で、今夜は何があったの? まあ、言いたくなけりゃ、言わなくていいけど」

     美加絵は、自分のコーヒーカップを両手で包むようにしながら言った。

    「何がってほどではないんですけど。ちょっとした行き違いって言うか」

    「ちょっとって、あんな大立ち回りで?」

    「はあ」

    「へえ。ああ。でも、現実に見せられたんだものね。観月ちゃんなら有りか。――あなた、ビックリするくらい強いのね」

    「そうで

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    破談屋 深町秋生

    破談屋 深町秋生

     

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     葛尾静佳巡査部長の瞼が重くなった。

     ひどい睡魔に襲われて意識が遠のく。視界が暗くなったところで、運転席の的場公平に肩を揺さぶられた。

    「葛尾さん、ダメッす。寝だらダメッす」

    「固えごど言うなや。少しだけ眠らせてけろ。五分ぐらいでいいがらよ⋯⋯」

    「ダメですって。死んじまうべや」

     的場に肩を激しく揺さぶられ、さらに平手で頰を打たれる。

     彼は軽く打っ

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第15回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第15回

    十五

     即妙体の自在を得た観月は、すでに吹き流れる風も同じだった。

    「さっさと済ませるわよ。時間が勿体ないから」

    「こっ」

     リーダーの目に血が上った。怒気が溢れるようだった。

    「このアマッ。言い――」

     続く言葉を観月は待たなかった。待ってやる義理もない。

    「やがったなっ」

     唾と一緒に吐かれる言葉を、観月はリーダーの後ろで聞いた。

    「お生憎様」

     リーダーに、いや、立ち並ぶ

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    凡人なりの努力――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第10回

    凡人なりの努力――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第10回

    第10回 凡人なりの努力

     私は語学の天才ではない。日本語を第二言語として習得し、小説を書き、芥川賞まで取ったという私の経歴を知ると、私に「天才」というレッテルを貼りたがる人たちもいるが、それはたぶん、間違いだ。常人にはできないようなことを成し遂げた人間を「天才」と表現することで、人々は安心する。自分の出来が悪いのではない、あの人たちが異常に出来がよかったのだ、というふうに。しかし「天才」という

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第14回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第14回

    十四

     翌日も、ジュンナは通常通りに出勤してきた。ただ、伊橋敬一とキミカは、ともにこの日も出勤しなかった。

     どうも、前夜の一件から観月は二人の動向が気になってしまった。

     田沢副店長に確認したが、どちらも連絡が取れないという。

    「ミズキちゃん。何か知ってるの」

     そう聞かれたが、この段階では取り敢えず空っ惚けた。

     知っているかと聞かれれば知らなくはないが、トラブルとしてはどこにでも

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