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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

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  • 朝日新聞出版の文芸書

    • 194本

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

  • 貫井徳郎『ひとつの祖国』

    2024年5月7日発売の貫井徳郎さん『ひとつの祖国』に関する記事をまとめています。 彫刻 金巻芳俊「相対アンビバレンツ」    @FUMA Contemporary Tokyo|文京アート

  • 麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』

    都内で連続猟奇殺人事件発生! 警察小説の旗手・麻見和史さんによる、新シリーズ始動。

  • 上坂あゆ美:連載エッセイ、短歌「人には人の呪いと言葉」

    喉につかえてしまった魚の小骨のように、あるいは撤去できていない不発弾のように、自分の中でのみ込みきれていない思い出や気持ちなどありませんか。あなたの「人生の呪い」に、歌人・上坂あゆ美が短歌と、エッセイでこたえます。

  • 李琴峰:連載エッセイ「日本語からの祝福、日本語への祝福」

    台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。

記事一覧

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第8回

第二章 奪われた光 1  四月十六日、午前七時十五分。  身支度を整えたあと、尾崎は深川…

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1か月前
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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第7回

7  午後八時から夜の捜査会議が開かれることになっている。  尾崎と広瀬は七時前に捜査本…

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1か月前
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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第6回

6  安川がパチンコ店に戻っていくのを見送ってから、尾崎は広瀬を見つめた。 「どういうつ…

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1か月前
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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第5回

5  西葛西駅から電車に乗り、都心部へ向かう。  車内は思ったよりも混んでいた。ドアのそ…

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1か月前
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校正者さんは欠かせない存在【クリキャベ編集日記-その7- 編集者K・校正編】

前回のせやま南天さんの日記(その6)はこちら 前回の編集者Kの日記(その5)はこちら 校正者…

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1か月前
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いつかの山下公園 伊兼源太郎                   …

1  あれは……。三枝貴明は瞬きを止めた。  普段はしない黒縁眼鏡をかけ、生えていないはず…

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1か月前
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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第8回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第8回

第二章 奪われた光



 四月十六日、午前七時十五分。

 身支度を整えたあと、尾崎は深川署の講堂に入っていった。

 捜査本部にはすでに二十名ほどの刑事たちが集まっていた。捜査本部が設置されてから二日目の今日、やるべきことは山ほどある。それらを整理し、段取りを考え、いかに効率よく捜査を進めるか、みな真剣に計画を立てているのだ。

 広瀬はまだ出てきていない。それを知って、なぜだか尾崎はほっと

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第7回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第7回


 午後八時から夜の捜査会議が開かれることになっている。

 尾崎と広瀬は七時前に捜査本部へ戻り、報告のための情報をまとめていった。それぞれメモ帳を見て重要な項目を抜き出し、自分の考えを述べて意見を一致させておく。コンビの間で言うことが違っていては、のちに幹部から突っ込まれる原因になる。また、ふたりが別の方向へ進もうとしていたら、明日以降の捜査に支障が出てしまうだろう。

 報告内容がまとまった

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第6回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第6回


 安川がパチンコ店に戻っていくのを見送ってから、尾崎は広瀬を見つめた。

「どういうつもりだ。さっきのは明らかにやりすぎだぞ」

 責める調子で尾崎が言うと、彼女は不思議そうな顔をした。

「そうでしょうか? 私は捜査上の秘密を明かしたりしていませんし、問題はなかったと思っていますが」

「昨日今日入った新米じゃないんだから、君にもわかるはずだ。助けを求めた人間を警察が守れないなんて、そんな話

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第5回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第5回


 西葛西駅から電車に乗り、都心部へ向かう。

 車内は思ったよりも混んでいた。ドアのそばに立ったまま、尾崎は流れる風景を見ていた。

 東京メトロ・東西線の電車は西船橋から西葛西まで、高架の上を走っている。そしてその先、南砂町駅の手前から地下に潜る形になる。なぜかというと、西葛西と南砂町の間には荒川があるからだ。川の下を掘り抜くのは難しいから、建設当時そのように設計されたのではないだろうか。

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校正者さんは欠かせない存在【クリキャベ編集日記-その7- 編集者K・校正編】

校正者さんは欠かせない存在【クリキャベ編集日記-その7- 編集者K・校正編】

前回のせやま南天さんの日記(その6)はこちら
前回の編集者Kの日記(その5)はこちら

校正者さんは欠かせない存在
年が明けた2024年1月。
改稿を終え、入稿し、ついに初校ゲラになった『クリキャベ』を、校正者さんのもとへお届けしました。

そして、校正を終え、
校正者さんによって一字一字チェックしてもらったゲラを
著者のせやまさんにお届けします。

編集者は、著者に渡すだけ……
のように見えます

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いつかの山下公園 伊兼源太郎                                            

いつかの山下公園 伊兼源太郎                              

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 あれは……。三枝貴明は瞬きを止めた。
 普段はしない黒縁眼鏡をかけ、生えていないはずの顎髭を蓄えているが、同じ職場で一つ下の後輩――谷澤雅史を見間違えはしない。人間は不特定多数の集団から見知った顔を瞬時に見つけ出す習性があり、刑事はその能力を日々磨いている。
 変装――。
 三枝はそれとなく周りを見回した。午後二時半、山下公園に近い高級ホテル『横浜グランドメゾンホテル』の喫茶ラウンジは、多

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