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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第7回



 午後八時から夜の捜査会議が開かれることになっている。

 尾崎と広瀬は七時前に捜査本部へ戻り、報告のための情報をまとめていった。それぞれメモ帳を見て重要な項目を抜き出し、自分の考えを述べて意見を一致させておく。コンビの間で言うことが違っていては、のちに幹部から突っ込まれる原因になる。また、ふたりが別の方向へ進もうとしていたら、明日以降の捜査に支障が出てしまうだろう。

 報告内容がまとまったので、打ち合わせを終わりにした。

 広瀬はもう少し考えることがあると言って、自分のスマホを操作し始めた。

 会議が始まるまで、まだ二十分ほどある。尾崎は部屋の後方に行き、ワゴンの上の紙コップを手に取った。電気ポットが用意してあるので、そのお湯でインスタントコーヒーを淹れる。

 窓際に佇んで、ひとりコーヒーを飲んだ。

 ガラス窓の外には、署の向かい側にある木場公園が見えた。土地はかなり広くて、ドッグランやバーベキュー広場などもある。日が暮れてすでに辺りは暗くなっているが、園内にはまだ人の気配があった。さすがに子供はもういないだろうが、犬の散歩をする飼い主や、ジョギングをする男女などが見える。

「どうしたんですか、尾崎さん。考え事?」

 声をかけられ、尾崎はうしろを振り返った。

 がっちりした体形の男性が笑みを浮かべていた。丸顔で髪が短く、額にほくろがあって、なんとなく大仏を連想させる。小田均、三十五歳だ。同じ深川署の刑事だが、尾崎とは別の菊池班に所属している。年齢が近いので、尾崎としても親しみを感じる後輩だった。

「捜査の最中だぞ。誰だって事件のことを考えるだろう?」尾崎は顔をしかめる。

「そりゃそうですが、なんていうのかな、いつにも増して真剣そうだから」

「あんな遺体を見れば真剣にもなるさ。小田は現場に行かなかったのか?」

「別件でばたばたしてましてね。捜査本部が設置されてからの参加です。遺体は写真で見ただけでして……」

「現場を見なくてよかったと思うよ。いろいろな事件を捜査してきたが、あれほど悪意に満ちた殺害方法は初めてだ」

 事件現場の様子が頭に浮かんだ。恨みがあったことはたしかだろう。だが犯人の労力は相当なものだった。わざわざ地面に人ひとり分の穴を掘っておき、そこに被害者を生きたまま埋め、シュノーケルでかろうじて呼吸をさせた。それだけでも常軌を逸しているのに、奴は非情にも水責めを行ったのだ。

 いったいどれだけの悪意があれば、そんな殺害方法を思いつくのだろう。誰かに目撃されるリスクがあったのに、犯人は自分の考えた異様な計画を実行した。奴は何かに取り憑かれ、人としての理性や情を失っているのではないだろうか。

「あれ、紅茶はないんだっけ?」

 別の男性が近づいてきて、ワゴンを覗き込んだ。濃いグレーのスーツを着ている。整髪料で髪をきっちり整える几帳面さは、以前からずっと変わらない。眼鏡をかけているのだが、楕円形のフレームが特徴的だ。

 同じ深川署に所属する、菊池信吾班長だった。菊池は四十八歳のベテランだ。現場にこだわるタイプで、今はひとつの班を率いている。

「紅茶はないですねえ」部下の小田が言った。「昆布茶ならありますけど」

「昆布茶かあ。それは趣味じゃないんだよな」

 苦笑いを浮かべながら菊池は言う。しばらくワゴンの上を物色していたが、結局最後にはコーヒーを選んだようだ。

 ブラックコーヒーを一口啜ったあと、菊池は尾崎のほうを向いた。

「尾崎んとこの捜査はどうよ」

「まあ、ぼちぼちですね」

 同じ署員とはいっても、まだ会議で報告していない情報を明かすのは憚られる。親しさの中にもライバル意識というものはある。

「何か見つけましたって顔だな。俺にも言えないのか?」

「すみません。会議の席で報告しますので」

「一人前の口を利くようになったじゃないか。このひよっこが」

「俺、三十七ですよ。ひよっこはないでしょう」

「もう立派なニワトリか。けっこう、けっこう、こけこっこう、ってか」

 そんなことを言って菊池は可笑しそうに笑う。つまらない駄洒落だと思いながら、尾崎もつい口元を緩めてしまった。小田も、仕方ないなという顔で笑っている。

 自分の厳しさを誇示する刑事が多い中、菊池は後輩や部下とのコミュニケーションを大事にする人だった。こうして休憩時に軽口を叩くことも多い。状況によっては年下の人間から舐められてしまうところだが、彼の場合はそうならなかった。捜査で毎回きちんと成果を挙げていることを、周りの人間はみな知っているからだ。

「冗談はおいといて、だ」菊池は眼鏡のフレームを押し上げた。「今回の犯行には猟奇的なものを感じるよな。やり口があまりにもエグい」

 佐藤も同じようなことを言っていた。そうですね、と尾崎は応じる。

「用意周到なところにも、自分の行動へのこだわりを感じます」

「こだわりですか」小田が口を挟んできた。「何ですかね。奴は自分に酔っているのかな」

「多かれ少なかれ、そういうところはあるだろう」菊池がうなずいた。「怖いのは、そういうこだわりがエスカレートする可能性があることだ」

「エスカレートというと?」尾崎は首をかしげる。

「猟奇犯ってのは犯行を何度も繰り返すことが多い。ひとつうまくいってしまったんだ。今ごろ、次の事件の準備をしているんじゃないか?」

 尾崎も小田も黙り込んだ。付近の空気が急に重くなった。

 言われてみればそのとおりだ。今回の成功に味を占めて、犯人は次の事件を起こすおそれがある。尾崎は今まで、猟奇的な殺人事件の捜査には関わったことがなかった。もしかしたら今回、自分は大きな経験を積むのかもしれない。

「面白そうな話をしているな」

 新たな声が聞こえた。こちらにやってくる男性を見て、尾崎たちは姿勢を正す。

 会議で指揮を執っている、捜査一課五係の片岡係長だった。トレードマークとも言える水玉模様のネクタイを、きゅっと結び直して近づいてくる。

「お疲れさまです、係長」

 尾崎は片岡に向かって一礼した。片岡とは過去の捜査で面識がある。しかし、だからといって親しく話ができるような間柄ではない。

「猟奇犯は犯行を繰り返す。……菊池さんの言葉には説得力があるな」

「えっ、あ、はい、恐縮です」

 菊池は驚いた様子で頭を下げた。先ほどまで後輩たちと笑っていた彼が、片岡を前にしてかなり緊張しているようだ。

「こんな想像はしたくないが、もし次に犯人が事件を起こすとしたら、どうなるだろう」

 仮定の質問ではあるが、かなり踏み込んだ問いかけだった。菊池は戸惑う様子を見せながらも、片岡にこう答えた。

「係長、私はいつも、ある想像をしながら捜査を行っています。もし自分が犯人だったらどうだろう、という想像です。この事件を起こした動機は何か、どんなふうに準備をしたか、目的を果たして何を感じたか。そういうことを想像します」

「なるほどな」片岡はうなずいた。「……で、今回の事件でもそれをやってみたのか」

「はい。私が犯人であれば、警察の動きに注意しながら次の計画を進めるだろうと思います。三好での事件を振り返り、必要があれば計画を修正するなどして実行に移します」

「……すでに次の計画があるわけか」

「ないはずはありません。おそらく犯人は、最後までシナリオを書いています。自分のプランを成功させるために」

 そこまで話してから、菊池は急に落ち着かない顔で身じろぎをした。

「すみません。よけいなことを言ってしまいました」

「いや、とても参考になるよ。捜査報告も楽しみにしている」

 じゃあ、と言って片岡は幹部席のほうへ戻っていった。

 張り詰めていた空気が緩んで、菊池は深いため息をついた。小田が彼に話しかける。

「菊池班長らしくないですね。あんなに緊張しちゃって」

「なんだよ、茶化すなよ」鼻を鳴らしてから、菊池は小田を睨みつけた。
「この、ひよっこめ」

「どうもすみません」

 ふたりのやりとりが可笑しくて、尾崎は思わず苦笑いしてしまった。

 だが、すぐに表情を引き締めた。先ほど菊池が口にしたことを思い出すと、胸の内で不吉なものが膨らんでくる。嫌な予感は、なかなか頭から離れそうになかった。
 
 定刻になり、捜査会議が始まった。

 まず、警視庁本部の鑑識課から報告があった。

「被害者・手島恭介の死亡推定時刻は昨日、四月十四日の二十一時から二十三時の間です。自宅を調べたところパソコンがあり、パスワードは比較的容易にわかりましたので現在、ハードディスク等のデータ分析を進めています。しかしメール関係を見ても、特に目を引くものは見つかっていません。本人にとって重要なメールは、スマートフォンでやりとりしていたものと思われます」

「そのスマートフォンは、まだ見つかっていないんだな?」

 片岡係長が尋ねると、鑑識の主任は深くうなずいた。

「ええ。犯人が奪っていったのかもしれません」

「普通に考えればそうだろう。ほかのものはどうだ。メモやアルバムなどは?」

「順次確認しています。……ああ、一点、気になるメモが見つかりました」

 ほう、と言って片岡は鑑識主任を見つめる。

「聞かせてくれ」

「ノートにこのような書き込みがありました。読み上げます。『オレは関係ない! タイミングが悪い! 責任を取れ!』……そういうメモでした」

 しばらく考え込む様子だったが、やがて片岡はマーカーを手に取った。鑑識主任に確認しながら、ホワイトボードにそのメモの内容を書いていく。

「俺は関係ない、か」片岡は腕組みをした。「誰かに責任を取れと言っている。もしかしたら、何かのトラブルに巻き込まれたのか。……しかし、このメモだけでははっきりしないな。今の時点ではこれを手がかりと断定することはできん。単なる落書きかもしれないからな」

 片岡の言うとおりだ。人は都合のいいように情報を解釈してしまいがちだ。特に殺人事件の捜査をしていると、目にするものがどれも事件のヒントのように見えてくる。

 だが、そのメモが落書きだと断定できないことも事実だった。捜査で見つけた情報のひとつだということは間違いないのだ。いつかそれが役に立つときが来るかもしれない。

 各捜査員による報告が始まった。

 捜査初日は、捜査員から上がってくる情報が特に多くなる。地取り、鑑取り、証拠品捜査など、それぞれの班の刑事たちが順次指名を受け、集めてきた情報をみなの前で説明していく。

 尾崎・広瀬組の番になった。実力を見せてもらおうと思い、尾崎は彼女に命じて、捜査情報を報告させた。

「私どもは被害者の過去について調べました。手島恭介はクマダ運輸の下請けをしていましたが、実は暴力団・野見川組の運び屋もしていたという可能性が出てきて……」

 彼女は順序立てて、捜査の様子を説明していった。無駄がなく、足りないところもなく、報告としては理想に近い形だと言える。ショートカットの髪にすっきりした目、すらりとした体形から、誰もが知的な雰囲気を感じていることだろう。そしてその予想を裏切ることなく、彼女は実にスマートな話し方をした。これを見て、広瀬に好感を抱く捜査員は多いに違いない。

 ──しかし、コンビを組む相手としては、癖が強いんだよな。

 今日一日だけで尾崎はそれを実感した。広瀬を嫌っているわけではないし、優秀な面があることも理解している。だが、彼女とはどうもやりにくいと感じてしまう。

 とはいえ、今揉めてしまっては捜査に支障が出る。今は尾崎が懐の広いところを見せておくべきだろう、と思った。
 
 捜査会議が終わったのは、午後十一時過ぎのことだった。

 すでに遅い時間だが、加治山班長が尾崎たちに声をかけてきた。

「すまんが、このあと少し班のミーティングをしたい。場所を変えよう」

 尾崎たちは捜査本部を出てフロアを移動し、いつもの刑事課の部屋に戻った。ここへ来れば、自分たちのホームグラウンドという雰囲気があって落ち着ける。

 打ち合わせスペースで、現時点での捜査情報を交換した。会議の席ではあまり突っ込んだ話をする余裕がない。だから少人数でのミーティングは、頭を整理するのにちょうどいいと感じられる。

「俺と矢部は、被害者・手島恭介の古い友人を当たっていった」加治山が言った。「その過程で、尾崎たちと近い情報を得ることができた。手島は野見川組から仕事を請け負っていた。そんな環境の中、悪い仲間が大勢出来たというわけだ。まったく厄介な話だな」

「当然、組員とも親しかったということなんですよ」

 そう言ったのは、班長の相棒である矢部だ。彼は右手で、自分のスポーツ刈りの頭を撫でている。こうすると気持ちが落ち着き、いい発想が出るというのが本人の弁だ。

「明日も関係の深かった組員に当たっていく予定です」矢部は報告を続けた。「それから、もちろん組員以外にも友達はいましたから、そっちも調べていきます。闇社会の人間が多いので、みんな口が堅そうなんですけどね」

 矢部は体育会系の人間だ。暴力団関係の人間とも渡り合える度胸を持っている。ただ、もしトラブルが起きそうになったら、そのときはコンビを組む加治山班長が止めてくれるだろう。

「ちょっと筋読みをしてみますかね」ベテランの佐藤が言った。「手島は郷田の弟分だったということですが、暴力団の下働きをするような人間です。血の気が多くて、かっとなれば我を忘れてしまう性格だったのかもしれません。郷田もまた、しかりです。ある時期から、ふたりの仲は険悪になっていた可能性はないですかね」

「ふたりが揉めていた、ということですか? それはどうでしょうか」

 真剣な表情で塩谷が言った。彼はどんな場面でも生真面目で論理的だ。意見の合わない者とも議論することを厭わない。

「兄貴分、弟分ということは周りも知る事実だったわけですよね。組織内での派閥争いならともかく、ふたりきりなのに揉めるというのが納得できません。手島が刃向かってきたのなら、郷田は力ずくで抑え込めたんじゃありませんか? もともとそうやって手島を弟分にしたんでしょうし」

「ええと、まあ、そういう考え方もあるか……」佐藤は唸って腕組みをする。

 あの、と言って広瀬が右手を挙げた。「何だ?」と加治山が問いかける。

「ひとつ思いついたことがあります。今の佐藤さんの考えを発展させて、五年前、手島恭介が郷田裕治を嵌めた、と見るのはいかがでしょうか」

「嵌めた、というのは?」尾崎は広瀬に尋ねた。

 彼女はこちらをちらりと見てから、視線を班長のほうに向けた。

「ふたりの間に何らかのトラブルがあったんでしょう。あるいは、手島が一方的に兄貴分の郷田を疎み、憎んでいたのかもしれません。手島は計画を立て、郷田が酒に酔って路上で喧嘩をするよう仕向けた。郷田は一般市民を刺したあと逃走し、車に撥ねられて死亡した……」

「車に撥ねられたところは偶然なのかい?」

 佐藤が首をかしげた。広瀬はその問いに答える。

「そこも計算されていたんだと思います」

「え? 逃走中、郷田が車道に飛び出すのを何者かが待っていた。そして撥ね飛ばし、うまい具合に死亡させた、ということか? それはどうかなあ……」

 佐藤の言葉を聞いて、塩谷もうなずいている。加治山や矢部も同じ意見のようだ。

 それはですね、と広瀬は言った。

「今の時点では詳しい経緯まではわかりません。でも手島が何らかの方法を使って郷田を殺害した可能性はあります。すぐに捨ててしまうには惜しい着想だと思います」

 それについては尾崎も異論なしだった。まだ捜査が始まって一日目なのだ。ここで可能性を絞り込んでしまうのは得策ではないだろう。

「もし私の推測が成立するなら、たとえば郷田裕治の遺族や知人などが、復讐のため手島恭介を殺害したという見方もできます」

「突飛といえば突飛だが、却下するのはもったいないかもな」

 加治山は自分のメモ帳にペンを走らせた。

 ほかにいくつかの可能性を議論して、ミーティングは終わりになった。

 明日もしっかり捜査を進めなければならない。それぞれ食事をして休むことになった。
 
 ミーティングで話し合ったことを、自分なりに掘り下げておきたいと思った。

 もうしばらく、尾崎はこの講堂で情報を整理することにした。

「広瀬は適当なところで上がっていいぞ。明日は八時に捜査本部に来てくれ」

 尾崎が言うと、広瀬は捜査資料から顔を上げた。

「ありがとうございます。では失礼します」

 男性は道場に布団を敷いて雑魚寝をするが、女性には専用の仮眠室が用意されている。同じ深川署のフロアを移動するだけだから、こんなに楽なことはない。

 広瀬が出ていくのを見送っていると、加治山班長が話しかけてきた。

「どうだ、広瀬とのコンビは」

「そうですね……」

 と言ったまま、尾崎はしばらく考え込んでしまった。それを見て、加治山が怪訝そうな顔をする。

「なんで黙り込むんだよ」

「……ああ、すみません。彼女は融通が利かないというか、癖の強いところがありますよね。正直な話、少し扱いにくいと感じます」

「たしかに融通が利かない面はあるな。でも前の職場からの情報だと、上司の命令はよく守っていたそうだ」

「本当ですか? 俺にはちょっと不安がありますけど」

 考え込む尾崎を見て、加治山は眉をひそめている。彼は小声で尋ねてきた。

「どうした? 何か気になるのか」

「ちょっと昔のことを思い出してしまって……」

 尾崎が口ごもると、加治山は事情を察したという表情になった。

「なるほど。そういうことか」

 加治山は何度かうなずいたあと、白い壁をじっと見つめた。すべてを説明しなくても、尾崎が言いたいことをわかってくれたようだ。

「まあ、しばらく様子を見てくれないか。明日もよろしく頼む」

 尾崎の肩をぽんと叩いて、加治山は席を立った。そのまま彼は廊下へと向かう。

 ほかの同僚たちも、すでに部屋を出ていた。残されたのは尾崎ひとりだけだ。椅子に腰掛けたまま、尾崎は大きく伸びをした。それから立ち上がり、凝った右肩を大きく回しながら窓に近づいた。

 街灯の向こうに木場公園の木々が見えた。さすがにこの時間、道路を歩く人の姿はない。

 いや、人影がひとつ見えた。服装と髪型に見覚えがある。あれは広瀬だ。

 弁当でも買いに行くのだろうか。そう思いかけて、尾崎は首をかしげた。最寄りのコンビニがあるのは南の方角、木場駅のほうだ。だが今、彼女は反対側、北のほうに歩いていく。あちらに飲食店があるのだろうか。だが、あったとしても午前零時を回ったこの時間、食事ができるとは思えない。

 広瀬はまっすぐ前を見て、足早に進んでいく。街灯の下、道路に影が細長く伸びている。

 そんな彼女の姿を、尾崎は窓越しにじっと見つめていた。

※ 次回は、3/29(金)更新予定です。

見出し画像デザイン 高原真吾(TAAP)