web TRIPPER

季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッ…

web TRIPPER

季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

マガジン

  • 麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』

    都内で連続猟奇殺人事件発生! 警察小説の旗手・麻見和史さんによる、新シリーズ始動。

  • 川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」

    文学、映画、アニメ、漫画……でひときわ印象に残る「名台詞=パンチライン」。この台詞が心に引っかかる背景には、言語学的な理由があるのかもしれない。ひとつの台詞を引用し、そこに隠れた言語学的魅力を、気鋭の言語学者・川添愛氏が解説する連載がスタート! 毎月10日に配信予定。

  • 朝日新聞出版の文芸書

    • 194本

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

  • 貫井徳郎『ひとつの祖国』

    2024年5月7日発売の貫井徳郎さん『ひとつの祖国』に関する記事をまとめています。 彫刻 金巻芳俊「相対アンビバレンツ」    @FUMA Contemporary Tokyo|文京アート

  • 上坂あゆ美:連載エッセイ、短歌「人には人の呪いと言葉」

    喉につかえてしまった魚の小骨のように、あるいは撤去できていない不発弾のように、自分の中でのみ込みきれていない思い出や気持ちなどありませんか。あなたの「人生の呪い」に、歌人・上坂あゆ美が短歌と、エッセイでこたえます。

記事一覧

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第20回

5  聞き込みをする上で、対象者の顔写真はかなり重要だ。  だが現在、尾崎たちの手元に北…

web TRIPPER
16時間前
6

「あの鳥のこと、好きだったのかい?」(『機動戦士ガンダム』)――川添愛「パンチラ…

 今回はアニメ『機動戦士ガンダム』を取り上げる。なぜだ。坊やだからさ……ではなくて、前回…

web TRIPPER
18時間前
3

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第19回

4  臨時の会議を終えて、刑事たちは再び捜査活動を開始した。  尾崎と広瀬は木場駅に向か…

web TRIPPER
3日前
15

上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第2回

◇忘れられない、親父からのひと言  岡本さん、こんにちは。  やりきれない呪いですね。お…

web TRIPPER
5日前
66

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第18回

 そう思ったとき、尾崎ははっとした。真ん中のテーブルに鎖が置いてあったのだ。  過去二件…

web TRIPPER
7日前
20

最適解じゃないほうの――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第24回

第24回 最適解じゃないほうの  移民というのは乾坤一擲のような重大な決断に思える。し…

web TRIPPER
9日前
8
麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第20回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第20回



 聞き込みをする上で、対象者の顔写真はかなり重要だ。

 だが現在、尾崎たちの手元に北野の写真はない。自分たちで見つけることもできていないし、ほかの捜査員たちもまだ入手できていないようだ。

 誰かひとりが北野の写真を発見できれば、そのデータは全員に共有される。そうなれば捜査が大きく前進する。今こそチームで捜査することのメリットを享受したいところだが、事はそう簡単ではないようだった。

 北

もっとみる
「あの鳥のこと、好きだったのかい?」(『機動戦士ガンダム』)――川添愛「パンチラインの言語学」第5回

「あの鳥のこと、好きだったのかい?」(『機動戦士ガンダム』)――川添愛「パンチラインの言語学」第5回

 今回はアニメ『機動戦士ガンダム』を取り上げる。なぜだ。坊やだからさ……ではなくて、前回の連載でなにげなく「お子様ゆえのあやまち」というフレーズを書いたのが直接の理由だ。私の頭の中にあったのは、本作のメインキャラの一人「赤い彗星のシャア」のセリフ、「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえのあやまちというものを」なのだが、よく考えたらシャアがこれをどんな場面で言ったのかを完全に忘れていた。それで確

もっとみる
麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第19回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第19回



 臨時の会議を終えて、刑事たちは再び捜査活動を開始した。

 尾崎と広瀬は木場駅に向かって歩きだす。その途中、彼女はバッグからスマホを取り出した。

「電話を一本かけさせてもらえる? 例の協力者よ」

「ああ、どうぞ」

 尾崎は彼女を見守る。じきに相手と繋がったようで、広瀬は話し始めた。

「お疲れさま、広瀬です。……ああ、それはいいんです。調査に時間がかかるのはわかっているので。……電話

もっとみる
上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第2回

上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第2回


◇忘れられない、親父からのひと言

 岡本さん、こんにちは。
 やりきれない呪いですね。お父さん、基本的には良い人なんでしょうね。直接的な加害を与えてきた小学校の先生よりも、尊敬しているはずのお父さんの一言の方が結果的に呪いになってしまったというのを見て、人生ってそういうところあるよな〜と深く頷きました。

 ここで世の中の真実のひとつをお伝えしたいのですが、親の言葉って、子どもに言っているふり

もっとみる
麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第18回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第18回

 そう思ったとき、尾崎ははっとした。真ん中のテーブルに鎖が置いてあったのだ。

 過去二件の現場で、これに似たものが見つかっている。犯人は鎖を自分のトレードマークにしているのだ。

 広瀬も鎖に気づいて、険しい表情を浮かべていた。

 店の出入り口のそばで、カウンターは鉤の手に曲がっている。スツールの向こうの床に、何か茶色いものが見えた。

 あれは……靴ではないか?

 息を詰めて進んでいった。

もっとみる
最適解じゃないほうの――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第24回

最適解じゃないほうの――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第24回

第24回 最適解じゃないほうの



 移民というのは乾坤一擲のような重大な決断に思える。しかし当然ながら、全ての決断にはそこに至るまでの脈絡がある。

 交換留学が終わってから一年半後、私は再び日本に上陸した。今度は一時的な滞在ではなく、移民しようというしっかりとした決意を伴って。

 取っかかりは大学院である。交換留学していた一年の間、私は日本の大学院に進学する決意を固めた。まずは修士号を取

もっとみる