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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッ…

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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

マガジン

  • 朝日新聞出版の文芸書

    • 194本

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

  • 貫井徳郎『ひとつの祖国』

    2024年5月7日発売の貫井徳郎さん『ひとつの祖国』に関する記事をまとめています。 彫刻 金巻芳俊「相対アンビバレンツ」    @FUMA Contemporary Tokyo|文京アート

  • 麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』

    都内で連続猟奇殺人事件発生! 警察小説の旗手・麻見和史さんによる、新シリーズ始動。

  • 上坂あゆ美:連載エッセイ、短歌「人には人の呪いと言葉」

    喉につかえてしまった魚の小骨のように、あるいは撤去できていない不発弾のように、自分の中でのみ込みきれていない思い出や気持ちなどありませんか。あなたの「人生の呪い」に、歌人・上坂あゆ美が短歌と、エッセイでこたえます。

  • 李琴峰:連載エッセイ「日本語からの祝福、日本語への祝福」

    台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。

朝日新聞出版の文芸書

書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

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  • 194本

今の日本の現状を風刺した凄まじいエンターテインメント小説だ――貫井徳郎さん『ひとつの祖国』書店員さん感想まとめ

 息もつかせぬ驚愕の展開に圧倒されます。人間の本質と、生々しくも突きつけられる現代社会の闇から目が離せません。経済格差を理由に、東日本独立を目指すテロ組織が暗躍する。善と悪が曖昧に揺れ動き、人間の憎悪や醜悪さ、悍ましさに、終始ハラハラさせられる。予想できない展開からの怒涛のクライマックス。人間社会の本質に迫る作品です。 (精文館書店新豊田店 渡邊摩耶さん)  第二次世界大戦での敗戦で、西の大日本国と東の日本人民共和国に分断された日本。ベルリンの壁の崩壊の半年後日本も統一さ

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永井路子さんの『この世をば』に連なる歴史巨編『望みしは何ぞ』/文芸評論家・縄田一男さんによる文庫解説を公開

 私たちはよく過去の歴史を何々時代といった名称で区分し、更にそれを細かく区分けしようとするが、本来、歴史は生きた連続性の中にあり、作家が1つの時代をまるごと捉えようとした場合、1篇の作品では収まり切らないという事態が生じて来る。  永井路子の“平安朝3部作”、すなわち、『王朝序曲――誰か言う「千家花ならぬはなし」と』『この世をば』、そして本書『望みしは何ぞ』は、そうした書き手の要請がもたらした必然の産物であった、ということが出来よう。 『望みしは何ぞ』は「中央公論文芸特集

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6

もし日本が分断されていたら…架空の歴史が暴く現実の日本の社会問題/末國善己氏による貫井徳郎著『ひとつの祖国』書評を公開

架空の歴史が暴く現実の日本の社会問題  架空の島を舞台に、明治初期から平成末までの近現代史を17の物語で追った全3冊の大作『邯鄲の島遥かなり』を刊行した貫井徳郎の新作は、第二次世界大戦後に東西に分割された日本という架空の歴史を描いている。実現はしなかったが連合国は日本の分割統治を検討していたので、本書はあり得たかもしれないもう一つの歴史を題材に、現実の日本が直面している諸問題に切り込んでいる。  先の大戦末期、北海道を制圧したソ連軍が本州に侵攻した結果、西日本に民主主義国

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この小説は、みんなへの声援/せやま南天著『クリームイエローの海と春キャベツのある家』創作大賞2023(note主催)受賞の秋谷りんこさんによる書評を公開!

この小説は、みんなへの声援  私は、家事が苦手だ。子供の頃からおっとりしており、身の回りのことをするのが得意ではなかった。大人になっても変わらず、掃除も片付けも人並みにはできない。料理はするが、上手ではない。レトルト調味料や冷凍食品に助けられ、何を出しても「美味しい」と言ってくれる夫に救われているだけだ。洗濯は嫌いではないけれど、得意でもない。先日、仕事から帰ってきた夫が、部屋干ししてあるシャツの袖を黙って引っ張り出していた。片袖だけ裏返ったままで干していたことに、私は一日

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貫井徳郎『ひとつの祖国』

2024年5月7日発売の貫井徳郎さん『ひとつの祖国』に関する記事をまとめています。 彫刻 金巻芳俊「相対アンビバレンツ」    @FUMA Contemporary Tokyo|文京アート

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  • 1本

もし日本が分断されていたら…架空の歴史が暴く現実の日本の社会問題/末國善己氏による貫井徳郎著『ひとつの祖国』書評を公開

架空の歴史が暴く現実の日本の社会問題  架空の島を舞台に、明治初期から平成末までの近現代史を17の物語で追った全3冊の大作『邯鄲の島遥かなり』を刊行した貫井徳郎の新作は、第二次世界大戦後に東西に分割された日本という架空の歴史を描いている。実現はしなかったが連合国は日本の分割統治を検討していたので、本書はあり得たかもしれないもう一つの歴史を題材に、現実の日本が直面している諸問題に切り込んでいる。  先の大戦末期、北海道を制圧したソ連軍が本州に侵攻した結果、西日本に民主主義国

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』

都内で連続猟奇殺人事件発生! 警察小説の旗手・麻見和史さんによる、新シリーズ始動。

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  • 19本

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第19回

4  臨時の会議を終えて、刑事たちは再び捜査活動を開始した。  尾崎と広瀬は木場駅に向かって歩きだす。その途中、彼女はバッグからスマホを取り出した。 「電話を一本かけさせてもらえる? 例の協力者よ」 「ああ、どうぞ」  尾崎は彼女を見守る。じきに相手と繋がったようで、広瀬は話し始めた。 「お疲れさま、広瀬です。……ああ、それはいいんです。調査に時間がかかるのはわかっているので。……電話したのは別件についてです。もうひとつ調べてほしいことができたんですよ。……まあ、

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第18回

 そう思ったとき、尾崎ははっとした。真ん中のテーブルに鎖が置いてあったのだ。  過去二件の現場で、これに似たものが見つかっている。犯人は鎖を自分のトレードマークにしているのだ。  広瀬も鎖に気づいて、険しい表情を浮かべていた。  店の出入り口のそばで、カウンターは鉤の手に曲がっている。スツールの向こうの床に、何か茶色いものが見えた。  あれは……靴ではないか?  息を詰めて進んでいった。カウンターの陰になった部分を覗き込む。  人が仰向けに倒れていた。グレーのスー

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第17回

2  捜査資料を参照して、尾崎たちは郷田を撥ねた男性を訪ねた。  彼の勤務先や親族、友人、知人を調べたのだが、不審な人間関係は見つからなかった。男性はやはりシロだ。五年前の三月六日、偶然四ツ目通りで郷田裕治を撥ねてしまった。彼にとっては不運以外の何物でもない事故だっただろう。  自販機の缶コーヒーを飲みながら、尾崎は今後の捜査について広瀬と相談した。 「このまま郷田と手島の関係、さらに白根さんのことを調べる? 尾崎くんがそうすると言うなら、私は従います」 「君はどう

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第16回

 タクシーに乗って錦糸町駅に移動した。  錦糸町事件の現場を見ておきたい、と思ったからだ。  車を降りて、尾崎は辺りを見回した。総武線の南側には映画館の入った大きな商業施設がある。 「『楽天地』という名前を聞くと、なんだか昭和の時代を思い出すな」  尾崎は商業ビルを見上げて言った。隣を歩く広瀬が、苦笑いを浮かべた。 「私も尾崎くんも、物心ついたころには昭和は終わっていたじゃない?」 「それでも昭和を感じるんだよ。体験していなくても心動かされることってあるじゃないか

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上坂あゆ美:連載エッセイ、短歌「人には人の呪いと言葉」

喉につかえてしまった魚の小骨のように、あるいは撤去できていない不発弾のように、自分の中でのみ込みきれていない思い出や気持ちなどありませんか。あなたの「人生の呪い」に、歌人・上坂あゆ美が短歌と、エッセイでこたえます。

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  • 2本

上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第2回

◇忘れられない、親父からのひと言  岡本さん、こんにちは。  やりきれない呪いですね。お父さん、基本的には良い人なんでしょうね。直接的な加害を与えてきた小学校の先生よりも、尊敬しているはずのお父さんの一言の方が結果的に呪いになってしまったというのを見て、人生ってそういうところあるよな〜と深く頷きました。  ここで世の中の真実のひとつをお伝えしたいのですが、親の言葉って、子どもに言っているふりをして、自分自身に言い聞かせているケースがあるのです。  私は、美術大学の受験

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上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第1回

 さとうさん、こんにちは。  なかなかにハードなお家にお生まれになったんですね。私の家族もほぼ高卒ですし、それ以前に父がギャンブル依存のクズだったためにさまざまな困難がありました。もちろんさとうさんの苦しみと私の苦しみは全く別のものだと思いますが、深く頷きながらご相談を読みました。後天的に育ちが良さそうな人になろうと努力をされたこと、そして実際に育ちが良さそうな人になっていること、本当にすごいです。なかなかできることじゃありません。  私は大学2年ごろ、どうしても受けたい授

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李琴峰:連載エッセイ「日本語からの祝福、日本語への祝福」

台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。

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最適解じゃないほうの――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第24回

第24回 最適解じゃないほうの  移民というのは乾坤一擲のような重大な決断に思える。しかし当然ながら、全ての決断にはそこに至るまでの脈絡がある。  交換留学が終わってから一年半後、私は再び日本に上陸した。今度は一時的な滞在ではなく、移民しようというしっかりとした決意を伴って。  取っかかりは大学院である。交換留学していた一年の間、私は日本の大学院に進学する決意を固めた。まずは修士号を取ってから、博士課程に進学するか、それとも就職するか決めようと考えた。  振り返

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日本語お上手ですね――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第23回

第23回 日本語お上手ですね  複雑な気持ちにさせられる褒め言葉がある。「日本語お上手ですね」である。複雑な気持ちというか、気分を害する時もある。  客観的に見て、私は日本語が上手だ。これは間違いなく事実だし、この事実は、使える漢字や語彙の量、文型のバリエーション、または発音の自然さや、産出する文の文法的正確さなどによって定量的に評価できるものである。「日本語お上手ですね」という文は、いわば事実を述べているだけのように思われる。事実を言っているだけならば、なぜ気分を害す

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音を科学する魔法(後編)――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第22回

第22回 音を科学する魔法(後編)  前回、音声学と音韻学は言語学の中でも敬遠されがちな分野だと述べたが、所詮現代的な学問であり、使われている道具セット(国際音声字母など)もかなり現代的なものだ。それと比べ、中国の伝統的な言語学の一分野である「声韻学」のほうが遥かに抽象的で、難解である。声韻学を必修科目とする中文科で、学生たちはよく真っ赤に充血した目を見開いて黄ばんだ教科書と睨めっこしながら、呪文のように「東冬鍾江支脂之微魚虞模……」と唱えていたものだ。事情を知らない人から

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音を科学する魔法(前編)――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第21回

第21回 音を科学する魔法(前編)  伝統的な中国文学科というのはただ文学をやっていればいいというわけではない。修めなければならない学問分野は大きく分けて三つある。文学、哲学、そして言語学である。  そもそも「文学」という言葉は本来、西洋で言うliteratureを指しているわけではない。『論語』には「四科十哲」とあり、「四科」とは「徳行、言語、政事、文学」という四つの科目のことだが、ここの「文学」とは「文章による学問全般」のことである。伝統的な漢籍図書分類法の「経」「史

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