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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッ…

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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

マガジン

  • 麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』

    都内で連続猟奇殺人事件発生! 警察小説の旗手・麻見和史さんによる、新シリーズ始動。

  • 朝日新聞出版の文芸書

    • 196本

    書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

  • 年森瑛:連載エッセイ「バッド入っても腹は減る」

    パスタを茹でながら、キャベツを煮込みながら、一冊の本をじっくり読む――。いちばん読書がはかどるのはキッチンだ。いま再注目の新人作家による、おいしい読書日記連載スタート。毎月15日更新予定。

  • 川添愛:連載エッセイ「パンチラインの言語学」

    文学、映画、アニメ、漫画……でひときわ印象に残る「名台詞=パンチライン」。この台詞が心に引っかかる背景には、言語学的な理由があるのかもしれない。ひとつの台詞を引用し、そこに隠れた言語学的魅力を、気鋭の言語学者・川添愛氏が解説する連載がスタート! 毎月10日に配信予定。

  • 貫井徳郎『ひとつの祖国』

    2024年5月7日発売の貫井徳郎さん『ひとつの祖国』に関する記事をまとめています。 彫刻 金巻芳俊「相対アンビバレンツ」    @FUMA Contemporary Tokyo|文京アート

記事一覧

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第2回

第1峰『密命』 すべてはここから始まった! 崖っぷちから放たれた、衝撃の時代小説デビュー…

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2日前
8

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第22回

 朝の捜査会議が終わると、刑事たちは次々と捜査に出かけていった。  尾崎と広瀬も深川署を…

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3日前
16

年森瑛「バッド入っても腹は減る」第5回

 年度末の記憶がない。  ただでさえ職場の繁忙期だというのに確定申告も重なり、さらに医療…

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5日前
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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第21回

 午後十一時四十五分。尾崎はマンションの敷地内にいた。  ごみ収集箱の陰に隠れて、静かに…

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6日前
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北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第1回

はじめに(佐伯泰英山脈をこれから登る人たちへ)  佐伯泰英。平成時代を代表するベストセ…

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9日前
15

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第20回

5  聞き込みをする上で、対象者の顔写真はかなり重要だ。  だが現在、尾崎たちの手元に北…

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10日前
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北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第2回

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第2回

第1峰『密命』

すべてはここから始まった!
崖っぷちから放たれた、衝撃の時代小説デビュー作

 1999年1月、書店の文庫本コーナーに1冊の時代小説が姿を現した。『密命 見参! 寒月霞斬り』という勇ましい題名がつけられていたが、覚えのある読者はいなかった。なぜなら、雑誌掲載もされず、単行本として出版されることもない〝文庫書き下ろし作品”だったからである。

 だが、売れた。大宣伝をされたわ

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第22回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第22回

 朝の捜査会議が終わると、刑事たちは次々と捜査に出かけていった。

 尾崎と広瀬も深川署を出た。いくつか気になることはあるが、今は北野康則を見つけ出すのが先決だ。広瀬は彼と何度も会っているから、関係のありそうな場所で聞き込みをすれば何かわかるかもしれない。期待を込めて、情報収集を開始した。

 しばらく空振りが続いたが、一時間ほど経ったころ高田馬場で当たりが出た。

「ああ、この写真の人、東川さん

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年森瑛「バッド入っても腹は減る」第5回

年森瑛「バッド入っても腹は減る」第5回

 年度末の記憶がない。
 ただでさえ職場の繁忙期だというのに確定申告も重なり、さらに医療費を稼ぐため短編の依頼まで引き受けてしまったため、ここ数ヶ月は土日返上で働き詰めだった。同じく兼業作家で年中激務のサハラさんと毎週末に通話していなければとっくにメンタルは崩壊していただろう。「自分へのご褒美で金曜夜にナゲットを山盛り買って家で食べようとしたらソースがついていなくて、だけど取りに帰る気力もないから

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第21回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第21回

 午後十一時四十五分。尾崎はマンションの敷地内にいた。

 ごみ収集箱の陰に隠れて、静かに前方を見つめている。この時刻、敷地内を歩く者はひとりもいない。たまに表の通りを車が走っていくが、このマンションに入ってくる車両は一台もなかった。

 敷地内にはぽつりぽつりと街灯が灯っている。青白い光が辺りを照らしていたが、充分な明るさとは言えなかった。あちこちに暗がりがあるから、尾崎がこうして隠れていても容

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北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第1回

北尾トロ『佐伯泰英山脈登頂記』第1回

はじめに(佐伯泰英山脈をこれから登る人たちへ)

 佐伯泰英。平成時代を代表するベストセラー作家のひとりであり、賞レースに縁のない無冠の帝王であり、遅咲きの〝オヤジの星”であり、〝書き下ろし時代小説文庫”を定着させて出版のありようまで変えた男。本好きの誰もが名前くらいは知っているエンタメ小説界の巨人だ。

 新刊が出れば必ずと言っていいほど書店の売れ筋ランキング上位に入る売れっ子作家。しかも、

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麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第20回

麻見和史『殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル』第20回



 聞き込みをする上で、対象者の顔写真はかなり重要だ。

 だが現在、尾崎たちの手元に北野の写真はない。自分たちで見つけることもできていないし、ほかの捜査員たちもまだ入手できていないようだ。

 誰かひとりが北野の写真を発見できれば、そのデータは全員に共有される。そうなれば捜査が大きく前進する。今こそチームで捜査することのメリットを享受したいところだが、事はそう簡単ではないようだった。

 北

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