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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

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季刊文芸誌「小説トリッパー」(3、6、9、12月発売)のweb版です。連載(小説やエッセイ)のほかに、朝日新聞出版発行の文芸ジャンルの単行本や文庫に関する書評やインタビュー、試し読みなども掲載していく予定です。本と出会えるサイトになればと思っています。

    マガジン

    • 鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」

      鈴峯紅也さんの人気シリーズ「警視庁監察官Q」の主人公・小田垣観月の学生時代を描いたスピンオフシリーズです。11月24日より、毎週木曜日に最新回を掲載予定です。

    • 朝日新聞出版の文芸書

      • 114本

      書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。

    • 李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」

      台湾出身の芥川賞作家・李琴峰さんによる日本語への思いを綴ったエッセイです。朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」で連載中の内容を1カ月遅れで転載します。毎月1日に最新回を公開予定です。

    • 永田豊隆『妻はサバイバー』

      「貧困ジャーナリズム賞2022」受賞、「第45回講談社本田靖春ノンフィクション賞」「2022年Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」ノミネート。2022年4月20日発売、永田豊隆さん『妻はサバイバー』に関する記事をまとめています。

    • 創作大賞2023に参加される方へ

      弊社も「エッセイ」「ミステリ小説」「恋愛小説」「お仕事小説」部門の選考に携わります、創作大賞2023に参加される方の参考になりそうな記事を集めています。

    記事一覧

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第27回

    二十七  この日はまだ上弦の月には満たない夜で、白昼に上り始めた月は〈最終電車〉すら待つ…

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    1日前
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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第26回

    二十六  その木曜日の朝もまた、けたたましいベルの音から始まった。  音からするに、最終…

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    8日前
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    四文字の宇宙――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第13回

    第13回 四文字の宇宙  日進月歩の情報技術により、賢明愚昧関係なく誰でも三者三様、十人十…

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    9日前
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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第25回

    二十五  火曜日の出勤は裕樹に約束したがそれだけで、木曜から月曜は店に出なかった。 ――…

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    2週間前

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第24回

    二十四  この翌日の木曜日は、一か月に一度の東大病院の日だった。  検査やら何やらで早く…

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    3週間前
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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第23回

    二十三  週明けの月曜日は、一日中はっきりとしない生憎の天気だった。  薄陽の時間はあっ…

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    4週間前
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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第27回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第27回

    二十七

     この日はまだ上弦の月には満たない夜で、白昼に上り始めた月は〈最終電車〉すら待つことなく、早々に西の端に消えていた。

     空に月なき晩、ということになる。風もない。

     観月は、昼間のままの出で立ちで銀座の夜に立った。

     と言って、この夜は〈蝶天〉に行くわけではない。夜の十時半過ぎは、たとえ同伴であっても出勤には遅すぎる時間だ。

     銀座線を降り、帰路に就こうとする足早な人の流れに逆ら

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第26回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第26回

    二十六

     その木曜日の朝もまた、けたたましいベルの音から始まった。

     音からするに、最終兵器として購入した三つ目だということに疑いはない。

    (あれだわよねぇ。松婆も竹婆も、同じようにああは言うけどさ)

     前日は、普通に駒場キャンパスで学生生活を満喫した一日だった。

     そうして、ドミトリーに戻って就寝し、朝を迎えた。

     清々しいはずの朝に、三つ目の目覚ましがけたたましい。

    (だから、こ

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    四文字の宇宙――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第13回

    四文字の宇宙――李琴峰「日本語からの祝福、日本語への祝福」第13回

    第13回 四文字の宇宙

     日進月歩の情報技術により、賢明愚昧関係なく誰でも三者三様、十人十色の主義主張を自由闊達に、百家争鳴のごとく侃々諤々、丁々発止と談論風発できるから、採長補短すれば大同団結の理想の世へ直往邁進できるだろう、そう専門家たちは自画自賛していたが、そんな呵々大笑に値する大言壮語はすぐに雲散霧消し、今や清廉潔白な聖人君子と曲学阿世の豚児犬子が玉石混淆となり、金科玉条と狂言綺語の境は

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第25回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第25回

    二十五

     火曜日の出勤は裕樹に約束したがそれだけで、木曜から月曜は店に出なかった。

    ――多分ね。バイトは昨日で終わり、かな。

     と、東大病院での検査の日に、〈四海舗〉で松子に言った言葉は嘘ではない。

     十六日の火曜日は、四営業日振りの〈蝶天〉だった。

     なんとなく懐かしくもあり、どことなく〈馴染んだ職場〉の匂いもした。

     この夜は午後七時前の定時に入り、しっかりとミーティングから出た。

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第24回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第24回

    二十四

     この翌日の木曜日は、一か月に一度の東大病院の日だった。

     検査やら何やらで早くて一時間半、長ければ二時間を優に超すのがいつもの流れだ。毎月十日前後の、百合川女医の都合に合わせて通うことになっていた。

     予約はこの日の、午前十一時だった。

     時間から言って、昼を跨ぐのは目に見えていた。

     それでまず、朝イチで〈四海舗〉に顔を出した。

     ドミトリーで竹子の朝食を摂り、〈四海舗〉で

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    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第23回

    鈴峯紅也「警視庁監察官Q ZERO」第23回

    二十三

     週明けの月曜日は、一日中はっきりとしない生憎の天気だった。

     薄陽の時間はあっても肌寒く、もう十一月であることを体感する。

     観月はこの日、久し振りに自分なりの定時で〈蝶天〉に出勤した。

     前週は同伴づいて、資生堂パーラーから営業中の〈蝶天〉に入った。ミーティングから出て京風スイーツを味わうのは、随分久し振りな気がした。

     この日のスイーツは、抹茶を練り込んだ生地の豆大福だった

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