パラティー3杯目 八丁堀の定例会〈連載:ロイヤルホストで夜まで語りたい・番外編〉
パラティー3杯目 八丁堀の定例会
高橋ユキ
年に一度、八丁堀店でランチをする友人がいる。ゆうこりん、と平成じみた愛称で呼んでしまっている彼女は、もともとは古い傍聴マニアで、いろんな裁判の法廷でお互い顔を合わせるうち親しくなった。ゆうこりんは傍聴マニアから徐々に足を洗う一方で、死刑囚や受刑者の支援活動を行うようになり、気づいたころには「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」(以下、フォーラム90)の活動に関わるようになっていた。
フォーラム90は年間を通してさまざまなイベントを手がける。共催しているイベントでもっとも有名なものは主に秋に開催される「死刑囚表現展」であろう。『死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金』に寄せられた死刑囚(確定・未決不問)らの作品が直近で鑑賞できる。2016年7月に神奈川県相模原市の障害者施設で殺傷事件を起こし2022年に死刑が確定した植松聖は、未決だった2020年から同展に作品を寄せるようになった。メディアがこれを取り上げるためか、展示の注目度が上がり、来場者も増えたような感覚がある。
私には、未決の立場の死刑囚との文通面会経験がある。死刑囚は刑が確定すると外部交通に大きな制限が生じる。受刑者よりも厳しい。家族や宗教関係者以外の外部交通はほぼ認められない。刑の確定によって面会や文通が終わっている彼らが今どうしているのか少しでも知れたらという気持ちで死刑囚表現展に通っているところがある。
過去に裁判を傍聴し、発言を見聞きしていた死刑囚が出展していることもあり、事件を思い出しながら、法廷での発言と作品とを重ねあわせ、現在の生活を想像する。
死刑囚表現展は2019年に渋谷のギャラリー大和田から八丁堀の松本治一郎記念会館へと会場を移した。駅の地上出口でゆうこりんと待ち合わせ、一緒に会場へ行き、展示を見てから、ロイヤルホストでランチやお茶をするのがここのところの定番となっている。
八丁堀店でお互い、クラブハウスサンドとドリンクセットを頼む。サンドの真ん中に「R」がかたどられたピンが挿さっているのが気に入っている、ピンを抜いて一気に食べてしまったが、ゆうこりんは食べるのがゆっくりなので、オレンジジュースをおかわりしながら、さっきまで見ていた展示をゆっくり頭の中で振り返る。ふたりが毎年、関心を寄せていたのは2008年・秋葉原通り魔事件の加藤智大の作品だ。お互い東京地裁の一審を傍聴していたことも無関係ではないと思う。法廷で見た加藤はほとんど無表情で、人との関わりを拒絶しているかのように見えるのだが、一方でそんな自分を周囲に分かって欲しいと思っているような面倒臭さがある……と、私の主観としては思っていた。彼は死刑が確定した2015年から作品を応募し、以後常連となっていたが、女の子のイラストに目を凝らしてみると全て「鬱」という漢字で構成されていたり、パズルを解くことで絵柄ができあがる作品だったりと、若干ややこしい。それでも続けて作品を見ているうち、ゆうこりんと私は、彼の中にわずかな変化を見出したりもしていた。見る側とのコミュニケーションを楽しみ始めた加藤もいるのでは? と思ったりもした。だがそれは見る側の勝手な思い込みかもしれない。
加藤には2022年7月に死刑が執行され、同年10月の展示作品が最後となった。その前年の展示では「お昼寝。」シリーズとして青森県の各地を作品にしていた。彼は故郷を懐かしんでいたのだろうか? 死ぬ間際に何を思っただろうか。皿に残ったピンを見つめて考えたが答えは分からない。
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