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ロイヤルホストで夜まで語りたい・第11回「ロイホに住みたい」(宇垣美里)

多々あるファミリーレストランの中でも、ここでしか食べられない一線を画したお料理と心地のよいサービスで、多くのファンを獲得しているロイヤルホスト。そんな特別な場での一人一人の記憶を味わえるエッセイ連載。
毎週月曜日と金曜日に公開中!

ロイホに住みたい

宇垣美里

 ずうっと、ロイヤルホストに行ったことがなかった。実家にいた頃は生活圏に店舗がなかったこと、そもそもファミレスに行く習慣がなかったこと、学生時代はなぜかいつもお金がなくて主食が玉ねぎだったこと……その諸々の要素が掛け合わさってロイヤルホストと邂逅かいこうせぬまま大人になってしまった。それが多分よくなかった。恋に狂うは若きに限るし、はしかは早めにかかるもの。十分大人になってからロイホに出会った私はもうこの衝動を抑えられない。時間があったらロイホに行きたい、できれば仕事はロイホでしたい、頼む、住まわせてくれ!!

 きっかけはラジオ「アフター6ジャンクション」でご一緒している皆さまからの熱烈なプッシュだ。取材もかねて皆と一緒に他県の博物館へ出かけた帰り、どこかでお茶をしようという流れでひとりからこぼれた「通り道にロイホがあったら最高なのになあ」という一言をきっかけに皆から溢れるロイホへの愛、誇り、憧憬。曰く、ファミレスというジャンルを超越した存在感、季節の果物をふんだんに用いたパフェの完成度の高さ、料理はどれもこれもクオリティが高く、定期的に開催される世界各国の料理をロイホ風にアレンジしたフェアでは海外旅行気分も味わえるとのこと。オニオングラタンスープにはもはや実家みを感じているという力強い証言に、むくむくと好奇心が育っていくのを感じた。そんな夢みたいな場所、本当にあるんですか?
 初めてのロイホタイミングが訪れたのはその後すぐ。ドラマの撮影で訪れた郊外でふいに生まれた中空きの時間、「どこかで昼ご飯でも食べますか?」というマネージャーさんからのお誘いに「噂のロイホに行ってみたいなあ」とおずおず申し出た。あの時の自分の勇気を称えたい。ここから私のロイホ人生は始まったと言えるのだから。
 初めて訪れたロイホの景色もその時の感情も未だにはっきり覚えている。暖色のライトで照らされた店内、天井は思いのほか高く解放感があって、床に敷き詰められた絨毯じゅうたんが静かに足音を吸う。人々は思い思いにその空間を満喫していて、その落ち着いた雰囲気にふっと肩の力が抜けたのを感じた。家族連れも、老夫婦も、ひとりで食事を楽しむおじさんも、この場所を選んだのだ、という自負すら感じさせる余裕あるたたずまい。軽く甘いものでも食べようかな、と思っていたはずなのに、漂うジューシーな香りにたまらず2秒後にはがっつり食べることを決意していた。ダイエットはお預けだ。

 メニューを選ぶのも一苦労、どれもこれも魅力的すぎる。目をランランと輝かせながら1ページ1ページ吟味に吟味を重ね、10数分悩んだ末に選んだのは「ロイヤルオムライス with 天然海老フライ&紅ずわい蟹のクリームコロッケ」! あれもこれも、と食いしん坊が好きなもの全部を詰め込んだようなそれはまるで大人のお子様ランチだ。子どもの頃、テレビで見る度に憧れていたのになぜかあまり食べるタイミングのなかったお子様ランチ、あの頃の執着が今も背後霊のようにそこにある。だからだろう、運ばれてきた瞬間、思わず「わぁ!」と小さく歓声をあげて拍手してしまった。ほうっと夢見心地のまま食べ進めたオムライスは、バターの香りをまとった卵とほどよく解けたケチャップライス、コクのあるハッシュドビーフソースとの相性が抜群で、心の奥底に眠る(噓、一番発言権は強い)女児が狂喜乱舞するのを感じた。エビフライも蟹クリームコロッケも大好きなのに、大人になってからなかなか食べる機会がなくてずっと寂しかったことに、この時やっと気づいたよ。
 皆がお勧めするオニオングラタンスープは限界までトロトロに煮込まれた玉ねぎが山盛りに入っていて、それだけでもう贅沢。あの玉ねぎをきつね色と名付けた人に一等賞をあげますね。どうしたってスプーンにチーズがこびりつくけれど、それを歯でこそげ落とすのもまた一興。美味しいところを全部吸ってたっぷたぷになったバゲットをはふはふと頰張る。ああ、思わず漏れた溜息まで美味しい。
 それから撮影で遠出する度、特に待ち時間の発生するドラマ等の撮影の時には必ず近くにロイホがあるかどうか調べるようになった。仕事は早めに終われば終わるほど嬉しいはずなのに、近くにロイホがあると分かったら、「いっそ押してしまえ!」(押す=スケジュールよりも遅れてしまうこと)と心の中で願ってしまうくらい。お食事もスイーツも楽しめるのはもちろんのこと、ドリンクバーを満喫しながら本を読んだって、パソコンを持ち込んで仕事の確認をしたっていい。チョコ好きをうならせるバンホーテンのココアや豊富な紅茶の種類を前につい欲張ってしまって飲みすぎちゃうのが玉にきずだけれど……。

 最近は友人の多くが母となり、赤子と一緒に行きやすい店としてロイホに行くことが増えた。おむつ台もあり、ベビーカーでも融通してくれ、どの店舗に行っても、最初訪れたあのロイホと同じように落ち着いた丁寧な雰囲気だから、心なしか子どもたちも穏やかに過ごしてくれる。子どもが席に着くと持ってきてくれるバスケットに山盛りのおもちゃ。たとえ子どもが泣き出したってきっと白い目で見られることはあるまい、という安心感に私たち大人の心もほぐれる。日本は決して子連れに優しい場所ばかりではないからこそ、友人と気兼ねなく行ける店があることは、素直に嬉しい。
 久しぶりのロイホ、となると絶対に選ばずにはいられないのが前述の「ロイヤルオムライス with 天然海老フライ&紅ずわい蟹のクリームコロッケ」a.k.a. 大人のお子様ランチだ。今日こそは他のものを頼もう!と決意していても、メニューを開いたらその力強い絵面に引き寄せられてしまう。
 1か月以内に再訪できた時は、「黒×黒ハンバーグ」を選ぶ。熱せられた鉄板の上、じゅうじゅうと音を立てて運ばれてくるまん丸なハンバーグ。ナイフを入れた端から肉汁が零れ、しっかりと肉肉しい。小賢しいことに、私は一部の冷凍ハンバーグが苦手だ。どういう工程でそうなってしまうのか分からないけれど一部の冷凍ハンバーグを食するとどうしてもどこかから金物臭さを感じ取ってしまい、その後はもう金属の味のする肉の塊をなんとか胃に詰めるという苦行へと成り下がるのだ。そのため初めての店で食べるハンバーグはつい身構えてしまう。けれど、心配ご無用、ロイホのハンバーグは最強で最高だった。肉本来の旨味! 粗目なひき肉の食感! 特に好きなのは目玉焼き付きのブラウンバターソース。途中で黄身を割ると味変ができてまた楽しい。

 あんまりたくさん食べられそうもないな、なんて時は「海老と帆立のシーフードドリア」が正解。届いてすぐだとまだ端の方がぐつぐつ沸騰しているから様子見が必要なのに、立ち上るチーズと海の幸の香りに我慢ができなくてつい一口ぱくり。毎回小さく火傷してしまう。スプーンいっぱいに盛ったドリアにふうふうしている瞬間が永遠であればいいのにとすら思う。
 その全ての締めとして外せないのがパフェだ。ホットファッジサンデー。初めて見た時はそのずんぐりとした器のデカさに圧倒されてしまい、食べきれるのか……?とたじろいだものだけれど、今はもう物足りなく感じるくらい。ああ、もぉっと大きな器に入っていたらいいのに! 濃厚なチョコアイスとバニラアイス、上にたっぷりとのった生クリーム。中にはバナナと歯ごたえ楽しいピーカンナッツに粗く砕いたビスケット。仕上げに別添えの温かいビターチョコレートを好きなだけかけたら完成だ。温かいチョコレートに呼応してとろりと形を変えるパフェの造形の神々しさよ。冷たいものに温かいものをかける、なんてのはちょっと悪いことをした時のような愉悦がある。
 最近は新しい果物を主役にしたパフェの到来で、季節の移ろいを感じているような気すらしている。ちょうど今はメロンからマンゴーへと主役がバトンタッチしたところ。特に好きなのはやっぱり苺の季節かな。ああ早く季節がめぐらぬものか。そしたら新しいパフェを食すために出かけるからさ。私はロイホに行く理由が欲しいのだ。

宇垣美里(うがき・みさと)
 1991年、兵庫県生まれ。フリーアナウンサー・俳優。

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