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上坂あゆ美連載「人には人の呪いと言葉」第4回

喉につかえてしまった魚の小骨のように、あるいは撤去できていない不発弾のように、自分の中でのみ込みきれていない思い出や気持ちなどありませんか。
あなたの「人生の呪い」に、歌人・上坂あゆ美が短歌と、エッセイでこたえます。


 18歳のとき、好きなひとができました。大学の同級生で、クラスは違ったものの趣味が似ていたので、顔を合わせる機会が頻繁にあって、話してるうちに仲良くなりました。毎日LINEするようになって、何回か遊ぶようになって、これはいけるだろうと思って告白しました。結果は何週間か待たされて、付き合えないと言われました。そのひととは、その後も友達付き合いを続けていて、結構仲良くしていたので、愚かな私は半年後にまた出かけたタイミングで告白しましたが、今度はあっさり振られました。
 そのタイミングでしばらく会わなくなったのですが、2回目の告白から1年半くらいったある日、そのひとと久しぶりに会うことになりました。そこで、セクシュアリティについて告白されました。まだ自分のセクシュアリティについて明確に自覚した直後だったようで、ほぼ初めてのカミングアウトだったようでした。私は信頼されていたことがうれしくて、人としては好かれていたことに舞い上がりました。私が好きになってもらえなかったのは私に魅力がないからじゃなかったんだ、と安心もしましたし、そのひとが幸せに生きられる未来を作るために社会を変えていきたいとも本気で思いました。でも、本当に自分のことを一瞬も好きになってくれなかったんだ、という事実にすごく悲しくなりました。
 その後もコミュニティが同じでずるずると友達付き合いを続けていましたが、いまはコミュニティが離れたこともあり、あまり連絡を取っていません。ずっと近い場所にいたせいか、そのひと以上に好きになるひとは現れず、一度も誰とも付き合ったことがありません。
 ぜんぶ本当の気持ちです。そのひとを一生忘れられないと思うくらい真剣に好きだったことも、好きになってもらえなかったことが一生の傷だと思うくらい悲しいことも、そのひとにこれから幸せに生きていってほしいことも。ぜんぶ本当の気持ちで、胸の内でこんがらがって、ずっと苦しいです。セクシュアリティが絡む話で、アウティングするわけにもいかないので、友達に相談することもできません。どうやったらこの気持ちを消化して生きていけるのかわかりません。

めろんぱん さんより

 こんにちは。お友達にも言えないことを打ち明けてくださりありがとうございます。
 まず、めろんぱんさんも、好きになった相手の方も、素晴らしい人格の持ち主で驚きました。 
 私が10〜20代前半の頃なんて、今思えばどうしようもない恋愛ばかりしていました。高校までまともに恋愛をしたことがなかった私は、大学に通い始めてから、急に距離を詰めてくる男性が複数いることに驚きました(私は異性愛者です)。それは私が上京したての若い女でチョロそうだったから、それ以上の意味なんてなかったと思います。
 最初に手を出してきたのは同じバイト先の男性でした。私は彼に2年近くずっと執着していましたが、クリスマスイブにその人が同じバイト先の別の女の子と手をつないで歩いているのを見て呆然ぼうぜんとしました。その日、私は友人とももいろクローバーZのクリスマスライブに行く途中で、ライブが始まると「ももクロちゃんはこんな私にも笑顔を届けてくれるんだ」と、隠れて涙しました。
 彼は最初の頃こそ甘い言葉を吐いたりもしていましたが、だんだんと連絡が少なくなり、ずっと曖昧な態度を続けられていました。クリスマスに別の子と歩いているのを目撃した旨をメールで問いただしたところ、「ごめんね♪ おびに欲しいものあったら言って!」と返信が来て、私は5万円以上するスキャナー付きのプリンターを要求しました。物で済まそうとするのならせめて私が受けた痛みを思い知れという気持ちもあったし、当時貧乏美大生だったので、どうせなら課題制作に使えるものが欲しかったのです。私と同じくバイト収入のみで暮らしていた彼は、どうにかもう少し安いものにならないかと交渉しつつも、私が全く引かないので最終的には買ってくれました。家でプリンターのセットアップを試みましたが、なんと必要な部品が足りません。中古品をあてがわれたようです。悲しみや怒りを通り越してよくわからない感情になっていた私は、もう全てがどうでもよくなって、雪の降る夜中、プリンターをハンマーでボコボコに殴り、粗大ゴミに出しました。

 これが私が18歳のときに経験した恋愛のようなもの、です。そうです、一言で言えばヤリチンに引っかかっていました。事実だけを書けば彼が加害者で、私が被害者のように見えますが、今考えれば私も彼と同じくらい悪かったと思っています。なぜなら私が彼に抱いていた感情、あれは恋でも愛でもなく、多分性欲でした。冷静に考えて、性欲をぶつけていいということ以外に彼の人間的魅力なんて一つも思い当たらないし、本当はあったのかもしれませんが私が思いつかないということは、当時もそれを感知していなかったわけで、それであんなに執着できるなんて、やっぱり性欲だったんだな〜と思います。そういうのを満たしてくれる人がこのときは彼しかいなかったので、私はそれを恋だと勘違いしていたのでした。
 雛鳥ひなどりが最初に見た人を親だと信じてしまうように、私はこういうのを恋だと思ってしまったので、その後も2人ほどのヤリチンに引っかかりました。我ながら引っかかりすぎですね。そして24歳ごろ、ようやく自分を大切にしてもらい相手のことも大切にする、まともなお付き合いというものを経験します。すると3人のヤリチンの何がそんなに良かったのかまるでわからないと思うと同時に、ただの欲求を恋とすり替えていた落ち度に気づき、私も彼らと同レベルだった、というかこれは性欲であるとちゃんと認識している時点で彼らの方が幾分マシだった可能性すらある、と思うに至りました。
 私がヤリチンに引っかかりまくっていたのは、自分のことだけで忙しかったからだと思います。この頃は経済的にも精神的にも不安定だった上、人よりも評価されたいとか、優れていると思われたいとか、ちっぽけな自尊心を保つことで頭がいっぱいでした。人に対して適切な関心を持ち、この人のこういうところが素敵だなと気づくような余裕がなく、ただ自分の欲求を埋めてくれるものに必死になってしまったのです。それが結果的に、相手だけでなく自分自身すらないがしろにする行為だということも知らずに。

 その点、めろんぱんさんはどうでしょう。よわい18にして素晴らしい人に恋をしています。
 お相手の素晴らしさは、めろんぱんさんの告白に数週間悩み、結論を出したあとは必要以上に気を持たせることをせず、それでも友人として大切にした上で、誰にも言ってないことをカミングアウトしてくれたという真摯な向き合い方からわかります。そんな人の幸せを本当に願えるめろんぱんさんも含めお二人とも、自分だけでなく他人を心から思いやり、大切にできる人です。私からすると、18歳でどうしてそんな境地に辿り着けるのか教えて欲しいと思うほどに、マジでマジですごいことです。 
 例えば彼が、過去2回の告白を、どこかで受け入れていたとしたらどうでしょう。この段階では彼は、とりあえず一旦付き合うという選択肢も取れたはずですよね。その先にあるのはおそらく、二人にとって一生の別れになったかもしれない結果でしょう。交際している間、彼は恋愛としての役割を期待されることと、うっすら見えてきた自分のセクシャリティとの狭間でとても疲弊したでしょうし、結果的にめろんぱんさんを今以上に傷つけて別れていた可能性もあります。
 つまり、めろんぱんさんを一番傷つけない上に、今どこかで会っても友人として接することができる唯一の選択肢、それが現状なのではないでしょうか。何回も言いますけど、この選択肢を10代〜20代前半で選ぶことができるなんて、彼は本当にすごい人ですね。

 不朽の名作漫画・吉野朔実『恋愛的瞬間』には、こういう台詞セリフがあります。

 “恋愛は あらゆる抵抗に打ち勝つ相思相愛の力  友情は 相思相愛でありながら 抵抗によって達成出来ない疑似恋愛関係 〔抵抗とは〕同性であるとか既婚者であるとか恋人がいるとか〔中略〕等々 〔友情とは〕抵抗があるにもかかわらず気持ちのベクトルが向き合っている人間関係と言ってもいい”
 “友情は恋愛の一部ですか?” “そうではないものを私は友情とは呼ばない”
(〔〕内筆者)

『恋愛的瞬間』〔文庫版〕第2巻 P.10

 互いを思いやるお二人の関係は、相思相愛かつ永遠の友情関係だと私は思います。よく言われることですが、恋愛関係になると多くの場合、いずれ終わりが訪れます。一方で友情という関係なら、よほどのトラブルがない限り永久保存しておけるのです。
 あなたは彼のことを好きになった自分を、その素晴らしい心を、もっと誇るべきです。彼のような素晴らしい魂の人がいて、その幸せを願うめろんぱんさんの素晴らしい魂がある。ここまでくると、恋か友情かという線引きすらもはやどっちでもいいのではないかと、私は思ってしまいます。 
 でも、めろんぱんさんは彼以上に好きになれる人が現れなくて苦しいのですよね。彼以上の人格者ってそう多くはいないでしょうから、当たり前かもしれません。 
 一つ言えることがあるとすれば、やっぱり人間は心に余裕がないと、人の良い面に気づけないということです。私が自分のことで忙しすぎてヤリチンに引っかかったように(私の低俗なサンプルと同じにして申し訳ないですが)。
 彼との思い出は最高に素敵なものなのに、その悲しみばかりに浸って、他の人に脇目も振らないモードになっていると、もし彼に匹敵する素晴らしい人がいたときに気づけない可能性があります。彼とのことは忘れなくていいので、一旦、心の宝箱に大事にしまってみてはどうでしょう。それはめろんぱんさんを傷つけるものではなく、むしろ強くしてくれるものだと思います。あなたは大丈夫です。人に自分の欲ばかり押し付けてヤバい恋愛を し続けてる人(昔の私です)の、100倍くらい大丈夫です。あなたの魂は、美しいです。


見出し画像デザイン 高原真吾


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