
鈴峯紅也『警視庁監察官Q ZERO2』第15回
29
色々あったがこの晩、観月は爆睡した。
ひとつずつ片付ける、いや、片付けなければならないうちのひとつを、犬塚という警視庁の〈大人〉に預けられたからだろう。
それで極限まで張った気が、いくぶん緩んだのかもしれない。
そんなわけで翌朝は、三個目の目覚ましの音がすんなり耳に入った。
いつもより気持ちよく聞くことが出来た、かもしれない。
目覚めはすこぶる爽やかにして、頭はクリアだった。
とはいえ――。
「うわうわ」
布団を撥ね退けて飛び起き、スリッパを突っ掛け階下に急ぐ。
することの日常はなんら変わらない。
一階食堂方向からは、鍋底アラートがせり上がるようにして階段に響いていた。
朝食のデッドエンドは近い。
これも変わることのない普遍の日常だ。
「よっしゃ。セーフ」
スリッパの音も高く、観月は食堂に飛び込んだ。
いつもならこの段階で、観月が間に合うかどうかで賑わう連中の声が聞こえるが、このところはない。
ギリギリの時間に朝食を摂る寮生がいないわけではない。現に五人は食堂にいた。
ただ、どうにも静かだった。話し声も密やかなものだ。総量としては、食器の奏でる音の方が多いかもしれない。
どこの大学かに関わらず、学年末試験の重圧もあるだろう。けれどそれ以上に、同じ寮生のはずの、珠美の不在が少なからず影を落としている模様だ。
トレイにいつもの朝食を載せ、箸を取ってカウンターを離れる。
すぐ近くのテーブルに梨花がいた。その向かいに座る。
「お早う。いただきます」
会話の前に、とにかく食べる。遅く来てもたもたしていたら、どうせ竹子に急かされるのだ。
これも日常だ。
観月のドミトリーにおける、日常の朝だった。
梨花はちょうど、朝食を食べ終えたところだったようだ。緑茶を淹れた湯呑みを手に取った。
観月と入れ替わるように二人が食堂を出、食べ終わる前にもう二人が立ち上がった。
トレイをカウンターに返し、ご馳走様でしたぁ、と言って出てゆく。
「あんたさ。近頃ずいぶんなんかバタバタしてるみたいじゃない。試験の方は大丈夫なの?」
と、梨花が聞いてきたのは、その後だった。
「だいじょーぶ」
「本当に?」
「駄目な理由がわからない」
「ああ、ね。そうそう。あんたはそういう女だったわ。心配して損した感じ」
心配してくれたのか、と思う。
友達とは、有難いものだ。
「梨花こそどうなの?」
お返しのセオリーとしてそう聞くと、梨花は待ってましたとばかりにテーブルに身を乗り出した。
「昨日まで地獄。でも今日からは天国。楽勝」
「それはそれは」
観月は朝食の締めと決めている、沢庵漬けの最後の一枚を口に放り込んだ。
いい歯応えだった。
その律動にふと思いつき、思いついたことを梨花に振ってみる。
「ねえ。梨花って医者の卵だし、卵ってことはさ。知り合いに医者、多いよね」
「まあね。卵だから卵の方が多いけど。殻を割った連中も知らないことはないよ。親も医者だし」
思いついたのは、愛子のことだ。
観月は門外漢だが、卵なら雛の伝手、親鳥の伝手でどこかに繋がるかもしれない。
愛子の転院先の件を、それとなく頼んでみる。
「任せて」
梨花は快諾してくれた。
もっとも、無理はしなくていいと念を押す。下手をしたら他人の病状と家庭に、土足で踏み込む話になる。
「じゃあ、くれぐれも、よろしくね」
「わかった」
二限からだという梨花と別れ、キャンパスに向かう。観月の試験は一限からだった。一限と三限だ。
この日の試験は、特に何の問題もなかった。これまでの試験にも問題はないが、すこぶる快調だったと言ってよかった。
十分な睡眠に続き、さらに心に引っ掛かる問題を少し、分けられたからだろう。
その分の軽さだ。
梨花が、愛子の転院先を探してくれる。
犬塚が、大里珠美や〈蝶天〉のバイト仲間を助けようとしてくれる。
まだ答えが見つかったわけでも、物事が解決したわけでもない。
時折り、あれほど懲らしめたにも拘らず、雑に邪気を孕んだ視線や気配があることは変わらない。それどころか、銀座や大井町だけでなく、この日のように駒場キャンパス周辺にも感じられることはかえって憂慮すべきことかもしれない。
だが全体、観月の肩に圧し掛かってくるモノの重さは格段に違った。
分けて預けて、その重さ自体が軽くなったということだけではない。
分けて預けることの出来る仲間がいるということの心強さが、圧し掛かってくるモノの重さを下支える。
――全部をさ、一人で背負おうとしちゃだめだよ。仲間がいるって、忘れないで。
〈蝶天〉でシオリに言われたことが改めて思われる。
足元からただ闇雲に視界を広げようとするだけでは、結局、自分の足元さえ覚束なくなるという負の結果にもなりかねない。
一人に出来ることなど、実はたかが知れている。
それを理解して実践するのが、リーダーに必要なひとつの資質かもしれない。
だから――。
翌土曜から日曜に掛けて、観月にとっては特に動きのない、動くことのない週末を過ごす。
二日間とも、ドミトリーから一歩も外に出なかった。年末年始以来の連休ということになる。
「疲れってのは、知らないうちに溜まるもんさ。身体を労ってってのはもちろんだけどね。あんたの場合、頭を休めるのも仕事のうちさね」
そんな言葉で金曜の晩、竹子に休養を勧められたことも理由の一つではあった。
不思議な話だが、ドミトリーにいる限り、剣呑な視線や気配を感じることはこれまで一度もなかった。
去年、ドミトリーからほど近い玉川上水第二緑道で、上海の男と戦った際のことを思い出す。
――こっから先ぁ、エリアだ。俺ぁ入れねえ。
そんなことを言いつつ、男は緑道に設置された古い木製の滑り台からこちら側、ドミトリーの方には近付こうとしなかった。
本当にエリア、何かの聖域があるのだろうか。
(竹婆の呪いとか)
金曜の晩にはそんなことも思った。
観月なりには納得だったのだが、すると土曜の夕食の後で竹子に食堂に呼ばれた。
「いつまでも食堂に段ボール箱を積んだままにされるのもね。他に示しがつかないさね。だから――」
食っておしまい、と釘を刺され、
「日曜までだよ。片付かなかったら、今後この量は禁止だ。いいね」
そんな風に念を押されたということも、外に出ない、いや出られなかった理由の大半部分ではある。
休めと、そして食い切れと、寮長に二重の楔を刺されては実際、動きようもない。
近付いてこられないだけでなく、出られない。
(双方向の呪いかも)
ドミトリーから動かない代わりに、脳を漠然とではあるが稼働する。
休めと言われても、本当に何もしなければ鈍る。ましてや食えと言われてもいる以上、何もしなければ太るだけだ。脳も〈太る〉のだ。
軽微な思考に必要なエネルギーは、寮の食堂に残っていた五箱の段ボールで十分過ぎるほどだった。
遡り遡り、珠美が〈蝶天〉に来た去年からのことを振り返る。
〈蝶天〉の忘年会があって、その後で〈長江〉のことを知り、玲の家庭教師を引き受け、帰省して新年を迎え、若宮八幡のお守りを買い、大量のお土産を〈仕入れ〉て戻り、家庭教師と銀座のバイトと冬学期の定期試験が始まって――。
その間に、いくつかの邂逅も衝突もあって――。
エムズ、狂走連合、沖田剛毅、JET企画、果ては警視庁公安部まで。
なにやら、〈出揃った〉感がある。
そんなアイテムに自分を添えれば、うっすらと見えてくるものもある。
さて、観月は道化か。狂言回しか。
――特に新宿、銀座、六本木などは、闇への扉が簡単に開く。夜に舞うなら、気を付けるんだね。
純也の言葉が耳に蘇る。
いずれにしろ、おそらくそれらはみな、闇への扉を開ける鍵となるか、あるいは扉への道筋を明らかにするモノだろう。
銀座に近づかなかったら、おそらく東大生の観月には知り得なかった存在ばかりだ。
東大に入って〈Jファン倶楽部〉を作り、宝生聡子と知り合わなければ絶対になかった流れだろう。
そもそも、小日向純也に魅入られなければ。
いや、ブルーラグーン・パーティに入らなければ。
その前に、磯部桃李という男に出会いさえしなければ。
因果は明確なようであって、遡れば曖昧に溶けて消える。
ひょんな切っ掛けが縁を作り、縁を結ぶ。
袖振り合うも他生の縁、ともいうが。
縁とは面白いものだ。
(ああ。そういえば)
だから、犬塚も面白いと言っていたのか。
今更ながらに、大いに納得出来る。
この土日のうちには、観月の静穏を優先するかのように誰からも連絡はなかった。
食堂の段ボールは順調に、日曜の昼食代わりにした分であらかた無くなった。
ひと箱残ったが、これは残ったのではなく、後々の楽しみに残したというのが正解だった。自分の部屋に持ち込んだ。
二日間の休養で身体はもちろん、脳は健全にして、栄養補給も十分だった。
30
月曜日は一月ラストの三十一日だった。定期テストも残すところあと四日になった。
この日も観月は、自分の試験をストレスなくクリアした。
気力体力に加えて、一番大事な脳力も充実していた。
そしてこの流れは、二月に入った翌火曜日も同じだった。
生憎の雨だったが、天候に左右されることはない。
澱むことなく激流を起こすこともなく、観月の試験日程は静かに終わりに向かう、はずだった。
いや、試験日程に関してはその通りだ。問題は何もない。
ただ、この日は試験の後に向かうべき場所があった。
前夜遅くに、プラカード持ちの鴨下から観月の携帯に連絡があったからだ。午後十一時四十分過ぎのことだった。
寝入り端だったが、液晶に浮かんだ登録名〈がぁさん〉を見て一瞬で覚醒した。すぐに出た。
「今晩は。何かわかりましたか」
――ほいほい。今晩は。わかったかどうかはわからない。きっと私がわかってもしようがないことみたいだしねえ。だからわかるかどうかはたぶん、あんた次第だろうねえ。
よくわからない構文だった。少々脳内で吟味したが、観月が寝惚けているというわけではなさそうだ。
「どういうことでしょう」
――美加絵さんさ。明日は北品川にあるスポーツクラブのテニスコートにいるよ。
「テニスコート?」
一瞬だけ考える。
――この前はさ。会えなかったんだよねえ。
「――おっ」
答えはすぐに見つかった。
――行けば会えるし、あんたが会うことが大事だねえ。
たしかに、きっとそういうことなのだろう。
美加絵は明日、北品川にあるスポーツクラブのインドアテニスコートで、午前十一時から一時間のグループレッスンを受けることになっているらしい。
その後で特に親しい何人かの友人とランチを摂り、休憩を挟んで同テニスコートを一面、その友人らと二時間ワンセットで予約していると鴨下は告げた。
――偶にあるんだけどさ。いつもの喫煙スペースにひょっこり出てきて、そこの四方山話でさ。本人が言ってたから間違いないよ。けど、本人が言ってたからこそ、それ以上は聞けなかったねえ。
と鴨下は告げた。
「それ以上は、ですか」
――そう。それ以上はねえ。
後は観月の問題ということだ。
「有難うございます」
観月はベッドの上で、電話の向こうの鴨下に頭を下げた。
「今度、お礼を持っていきます。あの、心ばかりになっちゃいますけど」
――なんでもいいよ。よろしくねえ。
と、これが前夜に掛かってきた鴨下との会話の内容だった。
そして火曜日、試験終わりの観月は部室に寄って、ラケットとウェア一式の入ったバックパックを背負った。
この日の観月の試験は、午前中で終わる二限までだった。
「あれ? 今日は部活ないですよねえ」
ちょうど部室にいた、一年生部員が試験の問題集から顔を上げた。経済学部志望の自宅通学生だ。
「そうね。今日はちょっと個人的に」
「へえ。さすが部長だ。試験に心配のない人は違いますねえ」
長い溜息を背中に聞きつつ、観月は部室を後にした。
朝から止むことのない雨は正午を回って幾分強さを増したようだったが、向かう先がインドアテニスコートである以上、予定に変更はない。
北品川の駅に着いたのは午後一時を回った頃だった。そこから目指すテニスコートは徒歩で十分ほどの距離だ。
雨はさらに強さを増していた。本降りと言っていいだろう。
スポーツクラブでロッカーを借り、場違いにならないようジャージの上下に着替え、緑のネットを分けるような入口からテニスコートに出る。
このスポーツクラブのインドアテニスコートは、全部で八面あった。なかなか規模の大きなクラブのようだ。
八面すべてが、複数人で埋まっていた。
天井を叩く雨の音が激しかったが、それ以上に掛け声やボールを打ち合う音が賑やかだった。
美加絵は入口から一番遠いコートに、お揃いなのだろうテニスウェアに身を包んだ、七人の女性たちと一緒にいた。
少なくとも、その周囲を中心にしたインドアテニスコート全体に、沖田組関係のMIBスタイルは見受けられなかった。
観月は真っ直ぐ、そのコートに向かった。
美加絵はコート内で打ち合うダブルスの四人を眺めて一人、コート脇のベンチに座っていた。
観月の姿を認め、美加絵は少し驚いたような顔をした。
観月は黙って美加絵の脇に座った。
座ったが座っただけで、何を言葉にすればいいか、そこで惑った。
そんな観月をしばらく眺め、美加絵は静かに頷いた。
「ああ。そうか。がぁさんに聞いたのね」
がぁさん、という言葉が観月の背中を押す。
――美加絵さんが、とっても悲しそうだったからねえ。
――わかるかどうかはたぶん、あんた次第だろうねえ。
後は観月の、観月だけの問題なのだ。
「あの」
「何?」
美加絵の声は柔らかかった。
観月はベンチに座ったまま、身体全体を美加絵の方に向けた。
「私は出禁ですか? いえ、それ自体はいいんです。ただ、美加絵さんに何か申し訳ないことをしてしまったのなら、謝ってからと思って。すいません」
観月は頭を下げた。
「どうして謝るの? 心当たりでもあるのかしら?」
「いえ」
下げた頭を左右に振り、そのまま持ち上げた。
「今頭を下げたのは、思い当たることが無いからです。でも人は往々にして、そういうときに他人を傷付けたりするものです。私は子供の頃から、そういうのをよく知ってますから。そういう子供でしたから」
理解出来ない感情、動かない表情は、大人になった今でもなかなか理解されにくい。ましてや多感な頃は、理解されないことに様々なジレンマを抱えた。
アイス・クイーンは、王者の呼称というだけではない。
観月にとっては、仮面を被った道化の蔑称でもあった。
美加絵はかすかに浮かべた微笑みを崩し、観月をいきなり抱き締めた。
――ごめんね。
少し濡れた声が耳元で聞こえた。
しばらくそのままに任せた。
やがて美加絵が離れ、正面を向いた。
コート上に音がなかった。プレイが止まっていた。他の友人たちも含めて、みんなが観月と美加絵を見ていた。
「気にしないで。いえ、気にして」
美加絵がそう言うと、誰もが止めていた動作を再開した。
「先週の月曜日のことだったわ。凄く早い時間に、パパから電話があったの。私が寝る前で、パパは起きた後かな」
ダブルスのプレイを眺めながら、美加絵が口を開いた。
――もう、あの若いのに関わるな。店の連中も全部だ。
それだけを言って、剛毅は電話を切ったらしい。
「いつものこと。言いたいことだけ言ってそれだけで。でも、それだけだから明快なの。厳命ね。だから」
美加絵は、何があったのかは知らない、と言った。
「そういう人の、そういう命令だから。聞き返しもしないし、そんなことをしたらどうなるのかな。――昔からそう。パパはそういう人。だから、どんなに理不尽でもただ従ってきた。母娘二代、ママもそう。悲しいけれど、私たちはそんな母と娘」
コートではプレイに熱が入っていた。
打って打ち返して。
拾って拾って、打って打ち返して。
ネットを挟んでラリーが続く。
「こんなこと聞くのも初めてだけどさ」
パパと何があったの、と美加絵が聞いてきた。
観月はショートボブの髪を揺らした。
「よくわかりません。沖田さん、お父様とは暮れのあの晩、あの店で話をしただけです」
「何を」
真っ直ぐに見られつつ、真っ直ぐに聞かれた。
話したままと、その後のあったままを説明した。
有り難いことに、雨音が響くほどに高かった。余人には聞かせるべくもない会話は周囲に広がらず、二人の空間だけに留まった。
それでもところどころは濁す。人名や地名は言わない。
俺と源太郎くらいしか知らない、と言われたことなどは特に、おいそれと口には出来ない。それこそ、口にしたら奈落に引き摺り込まれる、闇へのパスワードかもしれない。
「ふうん。そう。それでかな。わからないけど」
美加絵は小さく頷いた。
「それでって。あの、ご存じなんですか」
「何を?」
聞き返された。
聞き返されても――。
こちらからの手札、話せることは少ない。
「家庭教師って、大井町の母娘のとこね。母親は愛子って言ったわね。娘は玲とかなんとかって言ったかしら」
逡巡していると、美加絵が自分から口を開いた。しかも内容は、観月が迷っていた秘事そのものだった。
「えっ」
「その二人のこと、パパからはどう聞いているの?」
もう、話すしかなかった。
隠し立てせず、今度こそすべてを話す。
「ふうん。そう。グレート・リヴァーのマスターの」
ホントかしら、と美加絵は呟いた。
「噓ってことですか」
「それはわからない。知る気もない。大体、知ろうとしたら娘でも妻でも平気で――。ううん。なんでもない。けど、噓臭いのはホント。これがホント」
「どうしてそう思うんですか」
「それはね」
美加絵はまた、コートの方を向いた。
「ママがそう言ってたから。大井町に住む知り合いの妻子。そんな話をパパから聞いたって」
「お母様が?」
美加絵は前を向いたまま頷いた。
「あの人は、パパを真っ直ぐに見て生きてきた情の女だから。見て見過ぎて、パパに疎まれた女。疎まれても見続けた女。そんな人が言ってたから」
「噓臭いと」
「そうじゃないわ」
髪に手を差し、美加絵は立ち上がった。
――パパは噓をつくとき、私に優しくなるから。優しい噓をつくから。
そんなことを言っていたらしい。
立ち上がってライン際まで歩き、美加絵は振り返った。
外の激しい雨と違い、晴れた顔をしていた。
「どう。折角来たなら、本当にコーチしていってくれない? 私の友達を紹介するわ」
「えっと」
美加絵が、観月の知るいつもの美加絵だった。
プレイがまた中断した。みんなが観月を見ていた。
「私でよければ、お願いします」
観月も立ち上がり、頭を下げた。
「みんな。ちょっと集まって。ほら、前にも話したことがあったと思うけど」
美加絵の声が頭上を流れる。
「アイス・クイーンよ」
誰かが、わぁっ、と言って手を叩いた。
いつの間にか、雨音が小さくなっていた。
※ 次回は、2/24(月)更新予定です。
見出し画像デザイン 高原真吾(TAAP)