パラティー2杯目 雑談はずむ神楽坂店〈連載:ロイヤルホストで夜まで語りたい・番外編〉
パラティー2杯目 雑談はずむ神楽坂店
高橋ユキ
「ロイヤルホストを守る市民の会」なるワードをSNS投稿し、しかも勝手にその代表を自称していたことが理由か、このたびロイヤルホストをテーマに執筆依頼をいただいた。よく行く店舗でよく会う人についての記録を綴るという形式の思い出話である。
ここ数年、色々な人と打ち合わせやランチをする際、ロイヤルホストを利用することが増えた。相手のほうから「一緒に守りましょうか?」などと言ってくれたりもする。店を探すためにスマホでGoogleマップを小一時間眺める必要がなくなった。どのようなメニューがあるかも分かっている。場所選びで失敗することがないというのは大きな安心をもたらす。以前よりもいくぶん気軽に人を誘えるようになった。
さまざまな店舗を利用するうちに、会う相手によって行く店舗が固定されてきた。例えば、いつも新宿三井ビル店で会うAさんとは、大塚駅前店には行かない……といった具合だ。頭の中には特定の店舗に特定の人物が紐づけられている。今回は神楽坂店、そして同店に紐づけられている能町みね子さんについて綴りたい。
最寄りは東京メトロ東西線神楽坂駅だろうと思いきや、実は東京メトロ有楽町線飯田橋駅からのほうが近い神楽坂店。ドリンクバーでいつも温かい飲み物をチョイスする能町さんとは、最近はもっぱら事件の話になりがちだ。我々は2020年から『非週刊女性ポパイ』(以下、女性ポパイ)というイベントを不定期に開催しており、その頃からイベントが近づくと神楽坂店にて会合を開いてきた。紹介文に〈最近の殺人事件、裁判事情、ベタ記事事件までを掘り返して〉とあるように、気になる事件や話題を勝手に深掘りして発表しあう。テーマがかぶってしまわないよう、開催が近くなるとロイヤルホストで顔を合わせ、互いのテーマをわずかに開示し合うのだった。時折「合同調査」と称して、特定の事柄について一緒に調査をすることもあり、神楽坂店はその話し合いの場にもなる。事件の話がひと段落すれば、雑談もする。
2024年4月に開催された『女性ポパイ』のために待ち合わせたときのこと。季節のデザートは1年の中で最も楽しみにしているいちご。能町さんはどの季節でもブリュレパフェを選ぶ。私は苺のヨーグルトジャーマニーを頼んだ。いつもの鈍器のような分厚いガラスの器ではなく、ワイングラスに盛られてオシャレになっている。
この当時、私は青森・七戸町で起きた殺人事件を取材しており、近く現場に行くことを予定していた。青森の方言がよく分からず、困難な取材になることも予想していた。そこで、青森との二拠点生活をしている能町さんに教えてもらおうと企んでいたのだった。知りたかったのは「すっごい疲れた」の「すっごい」にあたる言葉。青森に限らず、あらゆる場所での取材において、会話の中でこの「すっごい」にあたる言葉をよく聞くからである。ちなみに博多弁では「バリ疲れた」、北九州〜筑豊地域では「でたん疲れた」などと言う。「すっごい」方言はなかなか面白い。
青森博士の能町さんに聞くところによると、私が取材で向かう地域では「たんげ」と言うらしい。「すっごい美味しい」は「たんげめ」。「私」のことは「わ」。ネイティブのような発音で丁寧に教えてくれた。青森の言葉を操る能町さんがかっこいい。
「いちご、たんげめ!」などとロイヤルホストで青森言葉を練習した私は、無事に青森取材をなんとか乗り切り、夜の飲食店でも勇気を出して「たんげめ」を使ってみたのだった。
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