ロイヤルホストで夜まで語りたい・第8回「細部の魔法」(似鳥鶏)
細部の魔法
似鳥鶏
東京メトロ有楽町線「護国寺駅」の5番出口を出ると、目の前に大通りがある。
階段を上りきって顔を上げる。大通りを挟んで向かい側には講談社ビルがあり、今、全社を挙げて売り出し中の本を宣伝する巨大な「たれ幕」が下がっている。「畜生あいつのか、いいなあ、あんなに宣伝してもらえたら売れるの当たり前じゃん俺ももっとやってくれよ」と、ひと通り嫉妬をこねくり回す。立ち止まってだらりと腕を下げ、首を30度傾けたまま三白眼で講談社ビルを睨みつつ237行ほど呪詛を吐く。その後おもむろに左に歩き出す。224秒歩く。すると光文社ビルの前に来るので、さらに71秒歩く。そこに現れるのが「ロイヤルホスト音羽店」である。営業時間、8時から22時まで。嫉妬の炎がそのまま食欲に変換され腹の虫を鳴かせる。おなかが減っている。ロイヤルオムライスのスペシャルセットで「選べるプチデザート」はほろにがカフェゼリー。理由は忘れたが妙に燃えている食欲のままに、「うまい」以外のことをあまり考えず食べる。自宅では決して作れないトロっトロの玉子がたまらない。ひと息つき、おもむろにバッグからファイルを出す。嫉妬しに護国寺まで来たわけではない。ごはんを食べるためだけでもない。仕事をしに来たのである。なぜならこのロイヤルホスト音羽店、なぜか仕事が滑るように進む「魔法のロイホ」だからである。
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