「え?続きを書くんですか?正気ですか?」石川智健さんが『アクトアップ 警視庁暴力班』刊行記念エッセイで明かした続編執筆裏話
■暴力が解決するとは言わないが
「え? 続きを書くんですか? 正気ですか?」
担当編集者のK氏から続編を打診されて、正直なところ驚きを隠せなかった。まさか、『警視庁暴力班』の続編を書くことになるとは、夢にも思わなかった。
1作目の『警視庁暴力班』はその名のとおり、警視庁の刑事が暴力に依って事件を解決するという筋だ。この説明を書いていて、元も子もないと思ったが、そう説明するしかない。
僕がこれまで上梓してきた小説は、緻密に計算したミステリー作品が多く、個人的にそれを売りにしている。しかし、刑事が暴力に頼って、しかも、在日アメリカ軍の兵士と競って連続殺人犯を捜すという荒唐無稽なストーリーの『警視庁暴力班』は、まったくの異色作だった。
「いつも難しく考えていたら肩が凝るでしょ!」と思って書いた作品だったが、それが、なかなか好評だったらしい。
僕はストレスを溜めるタイプの人間なので、日常において「常識なんてクソくらえ!」と思うことは多々あれど、その常識に囚われて粛々と生きている。苛立っても、ぶっ飛んだ行動に出ることはない。
そのため『警視庁暴力班』は、僕自身のストレスを代わりに解消してくれる面々を揃えて、大立ち回りを演じてもらっている。中でも特に気に入っているのが、司馬というキャラクターだ。元ラガーマンで常識破りの司馬有生は、2019年のラグビーワールドカップの熱狂から生まれた。
ラグビーは相手にぶつかり、倒れて前に進む。接触が当たり前で、流血も想定内。もちろん、厳格なルールの下での競技だが、僕の目にはとても新鮮に映った。そして、血を流しても必死になって前に進もうとする雄姿を見て『警視庁暴力班』の骨子ができたのだ。
先ほど、緻密な作品を売りにしていると書いたが、『警視庁暴力班』が大雑把というわけではない。しっかりとしたミステリーではある。しかし、そんなものが霞んでしまうくらい、ぶっ飛んでいる。
元ラガーマンのキャラクターのほかに、元レスリング選手、元プロレスラー、元力士と、体力自慢を揃えた。彼らが暴力団と響きの似た暴力班に集められ、凶悪犯罪に立ち向かう。それを束ねる班長が、暴力に縁のない主人公である北森優一だ。この文章を読まれている方は、ほぼ例外なく北森側のタイプだと思うし、僕自身も北森に近い。どうしてそんな男が暴力班の面倒を見ることになったかは、本書を読んでいただけると嬉しい。でも、ここで言ってしまおう。北森は警視庁を追われる立場で、それゆえに、猛獣使いをやらされている。
ストレスが溜まる現代社会。僕は一時、その捌け口をアルコールに求めたが、健康診断のガンマGPTの数値がアレになってしまったため節酒を余儀なくされた。
ストレスをどう解消すればいいのか。運動をしてみたが、ずっとやっていると疲れる。ドライブも趣味にしたが、首都高速道路を走るのが怖い。どうすればいいのかと悩み、『警視庁暴力班』を書いたら、結構ストレス解消になったという具合だ。
このように書くと「ストレスが溜まった作家が、ストレス解消のために書いた独りよがりの小説」と思われるかもしれないが、これは半分当たっている。ただ、もう半分は、読者のストレス発散になると確信している。
1作目は在日アメリカ軍の兵士と戦うが、2作目となる『アクトアップ』は、別の大きな組織と戦うことになる。
「犯罪者なんて、ぶん殴っちまえばいいんだよ!」
担当編集者のK氏から届いた帯の惹句である。K氏も、なかなかストレスが溜まっているようだ。
この作品は、爽やかな涙を流すものでも、感動に打ち震えるものでもない。流れるのは血である。打ち震えるのは拳によってである。
ここまで好き勝手書いていて、この文章が掲載されるのが恐ろしくなったが、このまま走りきるつもりだ。
ストレス多き現代社会。突飛な発散方法もない。政治も社会情勢も不透明。物価も高くなっている。コンビニ弁当がどうしてこんなに高くなったのか。こんな世の中に誰がしたと悪態も吐きたくなる。ただ、吐いたところで目の前が変わるわけでもない。僕自身、八方塞がりのように感じる人生だが、それでも生きていかなければならない。進んでいかなければならない。
ぶつかりながら、倒れながら進まなければならない。トライを決められるか分からないが、ともかく前へ。『警視庁暴力班』および二作目の『アクトアップ』が、皆さまの明日への活力になれば。