
ロイヤルホストで夜まで語りたい・最終回「褪せない夢」(平野紗季子)
多々あるファミリーレストランの中でも、ここでしか食べられない一線を画したお料理と心地のよいサービスで、多くのファンを獲得しているロイヤルホスト。そんな特別な場での一人一人の記憶を味わえるエッセイ連載。
いよいよ最終回です!
褪せない夢
平野紗季子
幸せってどういうことかというと、例えば体の芯まで冷え切った夜にオレンジ色のロゴが輝くロイヤルホストへ駆け込んで、熱々のコスモドリアを食べること。今日の飾りレモンの立ち具合は国立競技場みたいだ〜、と喜んだりすること。途中から追いレモンと追い黒胡椒をマストでお願いしてガリガリやらせてもらうこと。ハフハフしながら中から甘い栗が飛び出すのを喜ぶこと。チキンは空で、マッシュルームは陸で、エビは海で、このドリアには世界があるからコスモポリタンなドリアなんだ〜、と壮大な由来に浸ること。そうこうするうち体は温まり、さっきまでせせこましく些事に囚われていた心持ちはコスモの塵となって消えていく。私の心はちょうどコスモドリア一人前分欠けていたのか、と気付かされる。コスモドリアの縁取りで欠けていた自分の心を思うと、愛おしい気持ちにさえなる。
調子のいい時は最後に季節のブリュレパフェを食べるが、そうでもない時はデザートがわりにパラダイストロピカルアイスティーを飲み、ぼんやりする。昔はこのハワイの空港みたいな匂いのフレーバーティーが苦手だったのにな。でも、好きになっちゃったんだよな。なぜって、ドリンクバーが導入される前のロイヤルホストにはウーロン茶的無難茶が存在しなかったから。冷たいお茶が飲みたい時はトロピカルアイスティー一択だったから。しかもトロピカルアイスティーは無料だったから。それで我慢して飲んでいたら、そのうち好きになってしまったのだった。嫌いなものが好きになると忘れられない味になる。アウェイがホームになる時のときめきのこと。
平野紗季子(ひらの・さきこ)
1991年、福岡県生まれ。フードエッセイスト・フードディレクター。
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