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より多くの人に作品を届けるための装幀を【クリキャベ編集日記-その5- 編集者K・カバー編】

創作大賞2023(note主催) 朝日新聞出版賞受賞作『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の著者せやま南天さんと担当編集者Kの編集日記です。
★第5回は、編集者Kによる日記です。「改稿編」が終わり、今回はカバーについて。デザイナーさんやイラストレーターさんとのやりとりを含めて、編集者の目線からお届けします。

前回のせやま南天さんの日記はこちら
前回の編集者Kの日記はこちら

作品をより多くの人に届けるには


編集者として働き始める前、大学に通いながら書店でアルバイトをしていた時から、「本」が大好きでした。

その「本」とは、作品の内容はもちろんですが、「装幀」までを含みます。

学生時代の私は、
欲しい本をすべて手に入れられるわけではなく、
買うかどうか悩んだとき、その本が家に置いておきたいものかどうかは重要で、素敵な装幀の本を手に入れたときには、本棚や、ベッドサイドにずっと飾っていました。

そういう時代が私にあったからこそ、
作品を多くの人に届けるために、ブックデザインは大切な要素であると思っています。

そう考えていた私が『クリキャベ』のデザインを依頼したのが、
bookwall 松昭教さん (Xアカウント : @bookwall@mastu_matsu)です。

松さんのこれまで手掛けられていた装幀が好きでしたし、
編集部の先輩からも「松さんなら安心だ」との声をいただいていたからです。

はじめてのデザイン打ち合わせ


むかえた最初の打ち合わせ。この打ち合わせには、先輩編集者のYさんにも同席していただきました。

まず話し合わなければならないのは、イラストをどうするか

装画をお願いしたいイラストレーターさんの候補は、
せやまさんのご希望もうかがいながら考えていました。

(改稿4回目の打ち合わせで、装幀についても話し合ってました!)

打ち合わせ後に、Kさんと書店を見てまわり、装幀の希望などを伝えてから、帰路へ。

【クリキャベ編集日記-その4- せやま南天・改稿編】より


イラストレーターさんの候補からどなたに依頼するのかを話し合う中、
松さんからこんな質問がありました。

「どうしたら売れると思う? どういう風に売りたい?」

私はうまく答えられませんでした。

ぷんさん(noteアカウント : rupikorupiko、Xアカウント :@punpunrmp252525)がいいかなと思ってはいたけれど、
作品をどう売るかまではよく考えられていなかった、というのが正直なところです。

今までの著者のせやまさんとの打ち合わせでは「作品をより良くしていく」ということに重きを置いていましたが、この打ち合わせでは「作品をより多くの人に届けるには」ということが重要な話題になる。
当たり前のことなのに、そこに気が付けていなかったな、とその時に感じました。

私が言葉に詰まっていると、先輩のYさんが次のように助け船を出してくれました。

「note上でたくさんの人に応援されている作品なので、
さらに応援したくなるような、他の作品よりも読者と距離が近くなるような、そんな売り方をしたいと思っていて……」

そうすると、

「それならば、
装画はnote出身のぷんさんにお願いするのがいいかもしれない。
あと、帯には作家さんのコメントじゃなくて、
その応援してくれている人の感想を入れた方がいいのでは?」

と松さんから意見をいただけました。
(確かに……。帯コメントをいただけるようなら、どなたか作家の方にお願いしたいと考えていたのですが、noteでたくさんコメントや感想をもらっているのだから、それをいれよう!)

うまく自分の意見が話せず、私にとっては悔しい打ち合わせになりましたが、このように、イラストレーターに続き、帯も方向性が固まっていきました。

イラストはどのように完成していったのか


ぷんさんにイラストを依頼したところ、次のようなお返事をいただきました。

小説の絵をいつか描いてみたいという夢があり、びっくりしているのと同時に心から嬉しい気持ちでいっぱいです。

ぷんさんからのご返信

(良かった! 引き受けていただける!)

その後は、松さん、ぷんさん、先輩Yさんと、私Kの4人でzoomでの打ち合わせ。

どんな感じのイラストを描いていただくか、が大きな議題です。

この日、ぷんさんは、事前にラフを描いてきてくださいました。
その、ぷんさんの気持ちがとっても嬉しかったのを覚えています。

ぷんさんにご用意いただいた事前のラフ


その後、
このラフのような線画がよいのか、それとももうすこし抽象的なもののほうがよいのか、抽象度はどれくらいがよいのか……
という話し合いになっていきました。

話し合いの末、
イラストの大きな方針としては、以下で進めることとなりました。

・登場人物を想起させるような具体的な人物は描かない
・線画ではなく、見る人にゆだねるくらいの抽象度
・キャベツの要素は必要。
・全体的にクリームイエローを意識しつつカラフルに明るく

いただいたラフとは違う方向に進みましたが、
こうやって、ぷんさんに事前のラフを描いていただけて、線画を見ながら話し合いを進められたことは、イラストの方向性を考えていく上で大きくプラスに働きました。

翌日、
ぷんさんから最初のラフをいただきました。
(早速いただけて嬉しかったです!)

打ち合わせ後の最初のラフ


ラフを見ると……

・登場人物を想起させるような具体的な人物は描かない
・線画ではなく、見る人にゆだねるくらいの抽象度
・キャベツの要素は必要。
・全体的にクリームイエローを意識しつつカラフルに明るく

の4つが、しっかりと満たされています。

しかし、
どんな小説かが少し伝わりづらいものとなっていました。

「クリキャベ」は、
もう少し、装幀からどんな話か想像しやすいものにしたかったのです。

また、このラフを見たとき、
ぷんさんの描きたいものがあるのではないかな? 
と思い、急遽ぷんさんと電話での打ち合わせを行いました。

「イラストはどのようなものを描きたいですか?」
とぷんさんにお聞きすると……。

「実は、青の部分と赤の部分が人になっていて、海に後ろ姿の人を描いているんです。作品を読んで、こう描きたいと思って」
とぷんさん。

赤と青が人……
そう思って、イラストを見ていると……確かに、頭と身体が見えてきました!

右下の人物を一番はじめに見つけました!

(もともと、人物は描かない予定で進めていたイラストですが、ぷんさんのお考え通り、人物を描いてもいいのかもしれない!)

私は、
「もう少し後ろ姿の人々を具体的に描きこんでもらうことは出来ますか?」
そうお願いしました。

こうして、届いた作品がこちらです!

人々を具体的に描きこんでもらったもの


クリームイエローの海に漂う家事をする人々。
彼らは、どんなことを考えているのか。どんな状況にあるのか。

作品を読む前と読んだ後では、彼らの印象が違って見えるように思います。
そんな魅力のある装画だと感じました。

そして、最終的には、クリキャベで登場するお料理たちも描かれます!

回鍋肉と、ピカタと……
どんなお料理が描かれているか、
ぜひ書籍をお手に取って探してみてください!

カバーデザイン案への
ご意見をありがとうございました!


カバーデザインを一緒に考えてくださった
クリキャベサポのみなさん!
ご意見をありがとうございました。

ご意見を基に、タイトルの書体と箱組は、Dで進めていくことに!
さらに、タイトル以外のデザインも修正がされています。

デザイナーの松さんとのやり取りの続きは、番外編で記します。

新人編集者である私は、デザイナーさんとのお仕事も経験不足。
それでも、妥協はしたくない! 
そういう思いを持ちながら進めたデザインについてです。

そちらもぜひ読んでいただけると嬉しいです!

*****

次回その6は、せやま南天さんによる編集日記、「カバー編」です!

編集日記は、
その6「カバー編」、その7、その8は「校正編」と続きます。
引き続きよろしくお願いいたします!


4月5日発売予定『クリームイエローの海と春キャベツのある家』
ご予約はこちらから!


書籍編集部K

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