パラティー4杯目 働く仲間との夜ごはんは神保町店で〈連載:ロイヤルホストで夜まで語りたい・番外編〉
パラティー4杯目 働く仲間との夜ごはんは神田神保町店で
髙橋ユキ
本の街として知られる神保町には出版社もひしめく。ときどき私も神保町に行き、出版社での用事を済ませたりする。そんなとき、こんなLINEが届くことがある。
「ユキさん今日神保町いる?」
送り主は同業の河合桃子。過去には同じ週刊誌でともに記者として働いていた。今は週刊誌だけでなく、複数の週刊誌系ウェブ媒体でも仕事をしている彼女とは、愚痴を言い合ったり仕事の相談をしたりする間柄だ。また同年代で、ともに子育て中という共通点もある。
LINEは〝今日神保町にいるようだったらご飯でも行こう〟と解読できる。ちょうど小学生の子供の夜ご飯を夫に任せ、夜まで出版社で作業をしていた日などは、この誘いに乗って、夜のロイヤルホスト神田神保町店へと繰り出す。子供を育て始めてから夜の外食の誘いはとにかく減ったし、相手を面白がらせるような話術は持っていない。いつしか「私と外食しても楽しくないのでは」と、誘うことを躊躇するようになったのだが、週刊誌に関わっている人たちはその辺りをあまり気にせず声をかけてくれる。それが私にはとても嬉しい。
パスタやクラブハウスサンドなど、決まったメニューを選びがちな私は、相手が頼むものに興味津々だ。桃子さんは私が一人で行っても絶対に選ばないようなものをチョイスする。ある日は「真鯛・海老・帆立のあつあつグリル~温野菜添え~」と「オマール海老のクリームスープ~BISQUE~」を頼んでいて驚いた。私だったらそこはオニオングラタンスープにいくところだし、あつあつグリルよりはステーキを選んでしまう。桃子さんはとにかく磯の味を欲していたのだろうか。オマール海老のスープは「うまっ!」と特に気に入り、次に行った時も頼んでいた。
取材をする人間にはそれぞれ関心のある分野がある。私から見た桃子さんのフィールドは「性愛」だと思っている。AV女優へのインタビューやハプニングバー摘発事件など精力的に取材執筆しており、最近なにを取材しているかを聞くのが楽しみだ。先日は「既婚者合コン」なるものに参加したという。「既婚者」「合コン」。並んではいけない単語が並んでいる。「失楽園」のごとく、なにかものすごくエロい印象を受ける。元・既婚者というわけではなく現在進行形の既婚者!? 驚いて尋ねると桃子さんはグリルの海老にナイフを入れながら「そうなんだよ〜」と言う。脳内で「海老」と「既婚者合コン」が紐づけられてしまった瞬間だった。その合コンで出会う異性とは話し相手で終わることもあれば肉体関係に発展することもあるというからまた驚く。驚きすぎているような気もする。肉体関係に発展したら訴訟じゃないの? 驚きっぱなしで聞いていたら、あっという間に「ナスと挽き肉のボロネーゼ」を食べ終わってしまった。
現在シングルの桃子さんは自分の性愛の探究も怠らない。マッチングアプリで出会った男性と遠距離恋愛中だったこともあったが、その時はよく、相手と揉めて落ち込んでいた。たまに相談めいた愚痴も聞いたりしたが、いまや私は恋愛相談などを受けることがめっきり減ってしまい、何をアドバイスしていいのか皆目見当がつかない。高校時代の吹奏楽部で3年間しか吹いていなかったファゴットの吹き方をいま聞かれたようなものである。いつもだいたい、パラティーを飲みながらただ聞くことしかできていない。相手にバリューを提供できていないのではないか? 令和の価値観に毒され、相手に「得をした」と思わせなければならないということに囚われている私は、すぐにそんな心配をしてしまう。でも私は私で、桃子さんに仕事の相談をしたり、愚痴を吐き出したりしているだけですごくスッキリしているので、桃子さんもそうなのかもしれない、きっとそうだと思っている。そんな時間があってもいい。
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