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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#櫻木みわ

「描かれるのは複数の生き延び方」モラハラからのサバイバル・キットのような一冊。櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』/文筆家・水上文さんによる書評を特別公開

モラハラからのサバイバル・キット  自分を害する人間から逃れること、苦しみを把握し得る知識を得ること。それは言うまでもなく、生き延びるための重要な方途ではある。だが、道はひとつではない。  櫻木みわの『カサンドラのティータイム』が描き出すのは、労働環境における女性の困難であり、巧妙な支配と暴力であり、同時に生き延びるための複数の道でもある。  友梨奈と未知という二人の女性の視点を交差させながら形作られるこの物語は、モラハラに苦しめられる女性に焦点を当て、それぞれに異なる

精神的な支配を受ける苦しみと周囲に理解されない辛さを描いた、櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』/瀧井朝世さんによる、著者インタビューを特別公開

 2018年に作品集『うつくしい繭』で小説家デビューした櫻木みわさんの第3作『カサンドラのティータイム』(朝日新聞出版 1760円・税込み)は、2人の女性が主人公だ。  東京でスタイリストのアシスタントとして働く友梨奈と、琵琶湖湖畔で夫と暮らす未知。異なる場所で生きる彼女たちの人生が、やがて思わぬところで交錯する。 「以前、身近な人の言動で苦しんだことがあったんです。渦中にいる時は、自分の状況がよく理解できなかった。後に人と話したり本を読んだりするうち、少しずつ分かってく

明日も生きていくために、この物語が必要な人がどこかにいる…新川帆立さんによる書評『カサンドラのティータイム』(櫻木みわ著)

『カサンドラのティータイム』は 11月11日(金)まで期間限定で全文公開中 届かぬ声が届くとき  イソップ寓話「嘘をつく子供」をご存じだろうか。「オオカミが来た!」と嘘をつき続けた結果、本当にオオカミが来たときも信じてもらえず、オオカミに襲われてしまう。いわゆる「オオカミ少年」の話である。常日頃から嘘をついていると、もしものときに誰も信用してくれない。だから嘘をつくのはよくない、という寓意を含んでいる。  だがもし、少年の村にSNSがあったらどうだろう。何百万人という人

「この物語を必要としていた」「心底励まされた」感動の声続々!櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』への書店員さんの感想を一挙公開

「小説トリッパー」2022年夏号に一挙掲載した直後より、この物語を必要としていた、読み終わって心底励まされたとの声が広がる櫻木みわさんの『カサンドラのティータイム』。2022年11月7日(月)の発売にあわせて期間限定で全文公開をいたします。それに先立ち発売前より続々と届いている全国の書店員のみなさまからの感想を紹介させていただきす。 期間限定全文公開はこちらから

【試し読み】櫻木みわさんの最新作『カサンドラのティータイム』/「この物語を必要としていた」「心底励まされた」雑誌掲載時から共感の声が広がる話題作

カサンドラのティータイム 1 友梨奈  照明がまぶしかった。アナベルの花が雪のようにかがやいていた。北アメリカ原産の、アジサイ科の花だった。大きな霧吹きを持った美術係のスタッフが、花と葉に、水をたっぷり吹きかけている。照明の熱から守るための処置だった。花のあまい香りが濃くなった気がしたが、気のせいだったかもしれない。  戸部友梨奈は、カメラ機材の邪魔にならないよう後方のうすぐらい壁際に立ち、照明とカメラが向けられた先を一心にみつめていた。テレビ局の第一報道スタジオ。ニュー

夏号は創作2本が充実!さらに長期連載4本が堂々完結<「小説TRIPPER」2022年夏季号ラインナップ紹介>

◆創作小川哲 「君のクイズ」 『Q-1グランプリ』決勝戦。競技クイズプレイヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄の不可解な勝利に不正工作の疑念を抱く。真相を知るべく、彼について調べ試合を1問ずつ振り返る三島はやがて――。今夏大注目の鬼才による、クイズに材を取った新作274枚を一挙掲載します! 櫻木みわ 「カサンドラのティータイム」  スタイリスト見習いとして働く友梨奈と、牛肉加工工場でパートをしている主婦の未知。孤独に自分を責め苦しみながら夜を過ごしている、誰かと誰か。現代社