#櫻木みわ
「描かれるのは複数の生き延び方」モラハラからのサバイバル・キットのような一冊。櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』/文筆家・水上文さんによる書評を特別公開
モラハラからのサバイバル・キット 自分を害する人間から逃れること、苦しみを把握し得る知識を得ること。それは言うまでもなく、生き延びるための重要な方途ではある。だが、道はひとつではない。 櫻木みわの『カサンドラのティータイム』が描き出すのは、労働環境における女性の困難であり、巧妙な支配と暴力であり、同時に生き延びるための複数の道でもある。 友梨奈と未知という二人の女性の視点を交差させながら形作られるこの物語は、モラハラに苦しめられる女性に焦点を当て、それぞれに異なる
精神的な支配を受ける苦しみと周囲に理解されない辛さを描いた、櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』/瀧井朝世さんによる、著者インタビューを特別公開
2018年に作品集『うつくしい繭』で小説家デビューした櫻木みわさんの第3作『カサンドラのティータイム』(朝日新聞出版 1760円・税込み)は、2人の女性が主人公だ。 東京でスタイリストのアシスタントとして働く友梨奈と、琵琶湖湖畔で夫と暮らす未知。異なる場所で生きる彼女たちの人生が、やがて思わぬところで交錯する。 「以前、身近な人の言動で苦しんだことがあったんです。渦中にいる時は、自分の状況がよく理解できなかった。後に人と話したり本を読んだりするうち、少しずつ分かってく
【試し読み】櫻木みわさんの最新作『カサンドラのティータイム』/「この物語を必要としていた」「心底励まされた」雑誌掲載時から共感の声が広がる話題作
カサンドラのティータイム 1 友梨奈 照明がまぶしかった。アナベルの花が雪のようにかがやいていた。北アメリカ原産の、アジサイ科の花だった。大きな霧吹きを持った美術係のスタッフが、花と葉に、水をたっぷり吹きかけている。照明の熱から守るための処置だった。花のあまい香りが濃くなった気がしたが、気のせいだったかもしれない。 戸部友梨奈は、カメラ機材の邪魔にならないよう後方のうすぐらい壁際に立ち、照明とカメラが向けられた先を一心にみつめていた。テレビ局の第一報道スタジオ。ニュー