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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#エッセイ

言葉の無力さにもういちど向かいあうしかない…東浩紀『忘却にあらがう』刊行記念エッセイを特別公開

 時評集を出した。『忘却にあらがう』というタイトルである。『AERA』誌に5年にわたって寄せ続けた隔週コラムをまとめた本だ。   タイトルはコラムの初回で使った言葉から採った。5年前の言葉だ。とはいえ、最近のぼくは「抗う」という言葉はあまり使わない。抗う、抵抗するといった瞬間に、当の抵抗対象の論理に搦め捕られるような気がするからだ。  コラムは2017年の1月に始まっている。アメリカでトランプ大統領が誕生した月だ。必然的に内容はポピュリズム批判が多くなった。ポピュリズムは

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タイガーバームのにおいとお風呂場の魚たち 柚木麻子さんが眠れない夜に思い出す祖母のこと

■夜の釣り堀  40歳になってから、とくに理由もなく、一睡もできないまま朝を迎えることが頻繁にある。ちなみに昨日もまったく眠れなかった。これはまずい、とあらゆる病院にいってみて、色々な方法を試した結果、漢方薬で徐々に体質を改善していくという方向に今のところ落ち着いている。睡眠導入剤は私には強すぎて、翌日、仕事にまるで集中できなくなるのだ。はじまりは去年の秋。全然眠れない夜がなんの前触れもなく、3回続いた時は、ショックとパニックで自分が自分ではなくなり、最後はデビッド・リンチ

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作家・伊坂幸太郎「森絵都さんの『カザアナ』が面白すぎる」

『カザアナ』が面白すぎる/伊坂幸太郎  『カザアナ』が面白すぎる。最近、おススメの本を聞かれるたびに(聞かれなくても)、そう言っています。  たまたまこの本を書店で見かけたのですが、作者の森絵都さんはリアリズム寄りというのか、青春小説や人間ドラマを描く人という印象がありましたので、帯に書かれている「異能の庭師たち」という言葉が気になりました。「監視社会化の進む」ともあるため、「森絵都さんってこういう作風だったっけ?」と内心、首をひねり、「異能」とは言っても、リアリズムの中

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作家・森絵都さんの想像力が大爆発した傑作『カザアナ』 本作に込めた思いとは

■「過去と未来を渡す風」森絵都  ときどき、現実の世界に架空の何かを引っぱりこみたくなる。  たとえば、『カラフル』という小説に胡散臭い天使を登場させたように。『ラン』という小説であの世とこの世を行き来する自転車をモチーフにしたように。ファンタジーの世界そのものを描くのではなく、あくまで舞台は現実の人間社会に据え、そこにファンタジーのかけらを紛れこませる。なぜそのような設定に心惹かれるのか。その理由も今ではわかっている。一粒で風味を一変させるスパイスのように、異質な何かが

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【江上剛『創世の日 巨大財閥解体と総帥の決断』】刊行記念エッセイ

 この二年ほど、コロナ禍で私たちは窮屈な暮らしを強いられている。またコロナに罹患して亡くなったり、事業が行き詰まったりした人もいる。これがいつまで続くか分からないだけに、「なぜ自分が苦しまねばならないのか」と、理不尽さに怒りを覚えていることだろう。私たちの人生には理不尽さが付きまとっている。災害や戦争で罪のない多くの人々が亡くなる。日常生活でも残忍な事件が発生し、罪のない人が殺される。例えば新幹線車内で、若い男がナタを振り回し、女性を襲った事件があった。その際、女性を助けよう

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