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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#田中慎弥

田中慎弥さんがデビュー作から描いてきた「孤独な人間が最後に見出す、人生の『伴走者』」とは?/あわいゆきさんによる『死神』書評

かつて見捨ててしまった死神と、再び向き合うために――田中慎弥『死神』論〈死神〉ときいて脳裏に浮かぶイメージはなんだろう? フィクションのなかであらゆる姿かたちをとる死神は、多様すぎるがゆえに概念ばかりが朧げに共有され、実像がひとつに定まらない。中国古典文学を研究する増子和男さんは『日中怪異譚研究』(汲古書院、2020)で、一般的な〈死神〉概念を次のように定義している。  実際、脳裏に浮かんだ死神が、こうしたイメージと紐づくひとは多いはずだ。  だが、田中慎弥さんの『死神』に

【田中慎弥著『死神』インタビュー】自分の中にある衝動を死神として外部に仕立て上げた

 田中慎弥さんの『死神』(朝日新聞出版)が刊行されました。「AERA」(2024年12月2日号)に掲載された田中さんのインタビューを転載します。  日本の自殺死亡率は先進国(G7)の中で、抜きん出て高い。その理由は分析されてきたが、他人が想像しても「人がなぜ自ら死ぬのか」の理由は見つからないだろう。  芥川賞作家・田中慎弥さん(51)の最新作『死神』は、「私」が中学2年生のときに死神に出会ったところから始まる。  死神は「私」が死の願望を抱くと現れ「お前は自分の意思で死

【試し読み】田中慎弥が「生きるためにどうしても書かなければならなかった小説」『死神』の冒頭を公開!

※期間限定の全文公開は終了いたしました。お読み下さったみなさま、ありがとうございました。冒頭部分は引き続きお読みいただけます! ▼刊行記念エッセイはこちら 死神 中学二年の時、初めて本当に死のうとした。つまり、初めてあいつに会った。そのことをあとであいつに言うと、 「お前が死にたがるのは俺のせいなんかじゃない。お前の意思だよ。」  だが、どう考えても、死とあいつとは一体だ。何しろ、死神なのだから。  なぜ死のうとしたのか、正直分らない。しかし、十年以上も生きていて、一度も

【田中慎弥著『死神』刊行記念エッセイ】生きるための小説/期間限定全文試し読み公開も決定!

※※ 本書の刊行を記念して、11月5日(火)11時から12日(火)朝10時までの間、全文をwebTRIPPER上で無料公開いたします ※※ 生きるための小説 他人から見ればたいしたことでもないのだろうが、まだ幼かった頃からいろいろいやな体験をして、十代になっても、一生人に言いたくないと思うような事態も含め本当に暗い日々を過したため、これまで何度も自分で命を終らせようとしてきた。五十代になったいまもまだ、その衝動から解放されてはいない。過去の体験ばかりでなく、作家になってから

夏季号は創作が1本に、新連載2本スタート! 新刊をめぐる評論と対談も。〈「小説TRIPPER」2024年夏季号ラインナップ紹介〉

◆創作高山羽根子 「パンダ・パシフィカ」  春先になると花粉症で鼻が利かなくなるモトコは、副業で働くアルバイト先の同僚・村崎さんから自宅で飼う小動物たちの世話を頼まれる。2008年、上野動物園ではパンダのリンリンが亡くなり、中国では大地震と加工食品への毒物混入事件が起きる。命を預かることと奪うこと。この圧倒的な非対称は、私たちの意識に何を残すのか? テロルの時代に抗う、小さく、ささやかな営為を描く問題作、一挙掲載285枚。 ◆新連載武内涼 「歌川 二人の絵師」  東海道

大型新連載3本に充実の創作、林芙美子文学賞受賞作も掲載!<「小説TRIPPER」2022年春季号ラインナップ紹介>

◆新連載小説 貫井徳郎 「ひとつの祖国」  第二次大戦後、日本は大日本国(西日本)と日本人民共和国(東日本)に分断された。ベルリンの壁が崩壊する頃、日本もひとつの国に統一されたのだが格差は埋まらず、再度、東日本の独立を目指すテロ組織が暗躍し……。パラレルワールドを舞台にした社会派エンターテインメント巨編。 田中慎弥 「死神」  死のうとするからあいつが現れるのか、あいつと出会ったから死にたくなるのか……うだつの上がらない「作家」である私の人生の折々に登場してくる、死神。中