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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#朝日文庫

夢を追いかけ続け、叶えた藤岡陽子さんだからこそ書けた『メイド・イン京都』 モデルとなったデザイナー・谷口富美さんによる文庫解説を特別公開

 藤岡陽子さんの『メイド・イン京都』(朝日文庫)が刊行されました。  物語のモデルとなった、デザイナー・谷口富美さんが解説を寄せてくださいました。学生時代から藤岡陽子さんを見てきた谷口さんによる解説の全文を掲載します。 「ひさみちゃんをモデルに小説を書かせて欲しい」  藤岡陽子先生にそう言われたとき、背中がじんわり熱くなり、「私の人生でこんなに輝かしいことが起こるのか!」と叫び声が、お腹の底から脳に向かって聞こえ、星屑にあたたかく包まれたようでした。 「ひさみちゃんが

汚職事件を追う捜査二課の刑事を描いた、堂場瞬一さんの『内通者』が文庫新装版として刊行! 現役大学生の書評家・あわいゆきさんによる文庫版解説を特別公開

〈時代〉と〈世代〉を超えて、愛され続けるための秘訣  普遍的な小説、とは一体なんでしょう? たとえば国語の教科書に長く載り続けているような古典や近代文学は、読んだことがある、というひとも多いかもしれません。太宰治『人間失格』などは特に、中高生を対象にした読書調査アンケートでもここ数年、読んでいる本の上位に居続けています。あるいは老若男女楽しめるように書かれている軽快なエンターテインメント小説も、世代にかかわらず親しまれているでしょう。  一方で、どんなひとが読んでも面白い

【開催中】朝日文庫「エッセイフェア2024」ラインナップを紹介します

■伊藤比呂美『読み解き「般若心経」』  死にゆく母、残される父の孤独、看取る娘の孤独。苦しみにみちた日々の生活から、向かい合うお経。般若心経、白骨、観音経、法句経、地蔵和讃。詩人の技を尽くしていきいきとわかりやすく柔らかい現代語に訳していく。 ■茨木のり子『ハングルへの旅 新装版』  ハングルを学ぶようになった動機、ともに学ぶ人びとのこと、日本のいち方言との類似点、ユーモラスな諺や表現の数々――。隣国語のおもしろさを、韓国への旅の思い出を交えて、繊細に綴った珠玉のエッセ

「未来は予測はできないが仕掛けることはできる」/スティーブン・ジョンソン著、大田直子訳『世界をつくった6つの革命の物語』安宅和人さんによる解説を特別公開!

 ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』、ルイス・ダートネルの『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』など、様々な分野を横断して、俯瞰しつつ、世界を書き下ろすという日本にはないジャンルの本が欧米には存在するが、この本はその一冊だ。  この本を手に取られた人はすぐに『世界をつくった6つの革命の物語』というからてっきりフランス革命みたいな話が出てくるのかと思ったら、全くそうではないことに気づくだろう。もともとのお題は“How

「これほど強い愛の言葉を私は知らない」林真理子さんが感嘆した作家夫婦の壮絶で静謐な愛/小池真理子著『月夜の森の梟』文庫解説を特別公開

 小池真理子さんの『月夜の森の梟』は、朝日新聞紙上で、2020年から連載された。たちまち大変な反響を呼び、終了後に特集記事が組まれたことを記憶している。  が、私はものを書く人間なので、少し別の感想を持った。単に「感動した」「自分も亡くした大切な人を思い出した」というわけにはいかない。まず私が持ったものは「すごいなあ」という感嘆である。  愛する夫を亡くした、というエッセイであるが、一回として同じ切り口がない。全く読者を飽きさせることなく、この連載を続けることに、どれほど

「『老い』というイメージを覆す、落合恵子さんの好奇心」木内昇さんによる、落合恵子著『明るい覚悟』文庫解説公開!

 かっこいい、という形容がすこぶるしっくりくる人である。  洗練された佇まいもさることながら、長きにわたりクレヨンハウスを運営し、作家として数々の作品を世に送り出し、論客としてもまっすぐに意見を発信し続けている――というその活動は、ここで改めて語るまでもないこと。机上のみで終結せず、常にアグレッシブに行動する姿を、メディアを通してではあるけれど、絶えず目にしてきた印象がある。  それだけに、「老い」という言葉を本書の中に見付けたとき、少々戸惑いを覚えた。もちろん誰しも年齢

俳優・奥田瑛二さん「吉次の生みの親たる北原さんと、意見が分かれないことを願うばかり」/北原亞以子著『脇役 慶次郎覚書』の文庫解説を特別公開!

 こいつはとんでもないへそ曲がりと見た。さて、どう演じるべきか——。  NHKドラマ『慶次郎縁側日記』から出演の話をいただき、最初に原作を読んだときには、しばし考え込んだものだった。  何しろ、演じてほしいといわれた吉次は、とにかく強烈な人物だ。妹夫婦が営む蕎麦屋に居候する岡っ引で、弱みをつかんだ町人を強請っては金を得ている鼻つまみ者。そのせいで、「蝮の吉次」なんて異名までちょうだいしている。背中を丸めて歩く姿には、拭いようのない孤独と哀愁が染み付いている。  主役の慶

「あれ、これ、私のことじゃね?」ラッパー・TaiTanさんが武田砂鉄さんの真の凄みと恐ろしさをつづる!/『わかりやすさの罪』解説公開!

 罪の告白からはじめたい。  かつて、「わかりやすさ」で稼いでいたことがある。  高校3年生の頃だ。私は巷で知られたYahoo!知恵袋の回答マスターだった。  突然何の話だ、と思うだろう。私とてこんなことをカミングアウトするのは苦々しい。ラッパーのブランディング的にも厳しいものがある。だが、この話をしないことには本書の解説など務まらないので、説明を続ける。  当時の私は、ひとりで勉学に励む模範的受験生だった。同級生たちは皆、予備校に通っていたりしたらしいが、私の実家の

社会に巣くう悪党たちの話を書かせると月村了衛の右に出る者はいない!/文芸評論家・池上冬樹氏による、月村了衛著『奈落で踊れ』文庫解説

 まずは、最新作『半暮刻』(双葉社)からはじめよう。  この小説は、暴力団に所属しないで犯罪を行なう集団、つまり半グレたちを主人公にしている。会員制クラブにつとめる山科翔太と辻井海斗で、2人は店の方針に従って、女性客を騙して借金まみれにし風俗店に落としていたが、ある日警察の摘発にあう。だが、逮捕され刑に服したのは末端の翔太だけだった。  ここから2人は違う道を歩み始めるのだが、そもそも2人は生まれも育ちも違っていた。翔太は児童養護施設で育ち、少年院入所歴があり高校中退。海

2024年に発売予定の朝日文庫の一部をご紹介いたします!

 今年の第一弾は、月村了衛さんの『奈落で踊れ』(1月10日発売予定)です。1998年、接待汚職「ノーパンすき焼きスキャンダル」発覚で大蔵省は大揺れ。黒幕の大物主計局長、暴力団、総会屋、政治家らの思惑が入り乱れるなか、“大蔵省始まって以来の変人”の異名をとる香良洲(からす)圭一は、この危機にいかに立ち向かうのか? まさに解説・池上冬樹氏の「社会に巣くう悪党たちの話を書かせると月村了衛の右に出る者はいない」の言葉通り! 日本の闇をあざ嗤う、スリリングな官僚ピカレスク小説です。

驚愕の展開に慄然!川瀬七緒の資質がたっぷり詰まったホラーミステリー/『うらんぼんの夜』西上心太さんによる文庫解説を公開

 内と外。  内側だけにしか通用しない論理や倫理、あるいは因習に抗う少女の物語……である。  本書は2021年6月に書き下ろし作品として刊行された作品の文庫化だ。新型ウイルスへの言及があるので、2020年代が舞台の物語と比定して問題ないだろう。  福島県のとある町からバスで40分ほどかかる、山に囲まれた農村地帯の農家。それが16歳の高校生・遠山奈穂が住む実家である。高校は夏休みだが、彼女の毎日は遊びとは無縁だ。猛暑の中、毎朝畑に出て、トマトやジャガイモの収穫作業に従事し

芦沢央さんによる文庫解説全文掲載!!/葉真中顕著『そして、海の泡になる』文庫解説

 解説とは何だろう。  解説の依頼をもらうたびに、願わくば、作品を正しく読み解く上で有用な補助線を提示するようなものでありたいと考えてきた。  だが本書を読んで、その気持ちが揺らいでいる。果たして作品を「正しく」読み解くことなど可能なのだろうか、と。  本書は、バブル期に「ガマガエルのお告げ」によって巨額の株式投資に成功し、バブル崩壊後に詐欺容疑で逮捕されたとされる尾上縫をモデルにして書かれた、朝比奈ハルという一人の女性の人生を巡る物語だ。  まず彼女についての複数の

【累計40万部突破!】群ようこさんの大人気「生活」シリーズ最新文庫『たべる生活』が発売

■最新文庫『たべる生活』  とにかく体は、たべるものでできている――。料理はどちらかというと嫌いだと語る群さんが、自分の身体を一番心地よい状態に保てるよう、〈たべること〉にとことん向き合った「食」エッセイ。「自分で御飯を作るということは、“米と味噌さえ家にあれば大丈夫”という気持ちの根っこができること」。 ■やたらとしんどいときこそ、ぬるーく。シリーズ第1作『ぬるい生活』  年齢を重ねるにつれ、体調不良、心の不調など、様々な問題は出てくるもの。そんな“ままならなくなって

大矢博子さんが「夫婦」をテーマに編んだ名作短編集『朝日文庫時代小説アンソロジー めおと』文庫解説を特別公開!

 時代小説の醍醐味は、現代とは異なる文明、異なる社会システム、異なる価値観の中で暮らす人々が描かれているという点にある。  中でも結婚の制度は時代によって大きく変わってきた。たとえば江戸時代をとってみても、結婚のシステムやそこに求められる夫婦像も、民法の内容に至るまで、今とはかなり異なっている。  本書では、そんな異なる社会に生きる「夫婦」に焦点を当てて、6作をセレクトした。武家の夫婦ものと町人の夫婦ものが3作ずつ。新婚から歳月を重ねた老夫婦まで、明るく微笑ましい夫婦から