#刊行記念エッセイ
一冊完結のはずが…「編集K氏が、乗せるのがとても上手なのだ」/時代小説の旗手・佐々木裕一さんが明かす「斬! 江戸の用心棒」シリーズ化裏話
読む時代劇 昭和の時代劇スターに魅了されて『斬! 江戸の用心棒』という題名を見ると、昭和スターによる時代劇を連想される読者が多いかと思う。まさに私は、スターが出てくるような読む時代劇を書きたかった。 『斬! 江戸の用心棒』は当初、仇討ち物として、1冊で完結するつもりで書かせていただいた。ところが、出版した時には、シリーズになっていた。編集K氏が、乗せるのがとても上手なのだ。会えば、書きます、と言ってしまう。それでも、スケジュールの関係で2巻までは5年も間が空いてしまった。そ
ニッポンの思想と批評の奔流を追いながら、いま必要とされる生き方のモデルを刷新/「大人」になれない男たちを「成熟」の呪縛から解き放つ――佐々木敦さんによる刊行記念エッセイ「『日本的成熟』とは何か」を特別公開!
「日本的成熟」とは何か 去る七月八日に齢六十を迎えてしまった。還暦である。まだまだ若いつもりでいたのに、とかではないが、でもなんだか騙されたような気分だ。二十代前半からプロの物書きになり、気づけばあれこれやりながら三十五年もの月日が流れていた。芸術文化の複数の分野にまたがって仕事をしてきたので、著書の数もそれなりに多い。もう何冊目になるのか自分でもわからない(数えたことがない)が、このほど偶然にも「還暦記念出版」とでもいうべき新著を上梓した。『成熟の喪失 庵野秀明と〝父〟の崩
「不思議な、体験だった。」川上弘美さんが12年の時を経て描いた、『七夜物語』の次の世代を生きる子どもたち/『明日、晴れますように 続七夜物語』刊行記念エッセイ
未来から今へ このたび上梓することになった『明日、晴れますように』は、今から十二年前、二〇一二年に出版された『七夜物語』の、続篇である。 『七夜物語』は、二人の小学生が七つの不思議な夜を冒険する、というファンタジーだった。二人は名前を鳴海さよ、仄田鷹彦といい、多少内向的な、けれど冒険に際してはじゅうぶんに勇敢な子どもたちだった。一生に一度は子どもが主人公のファンタジーを書いてみたいと思って始めた連載中、わたしは主人公二人が大好きでしかたなく、小説を書いている時にどちらかと
【特別公開!】「この本を書くことで、やっとのみ込むことができた」長井短さん初の小説集『私は元気がありません』刊行記念エッセイ特別公開
冒頭一部を下記にて公開しております! 長井短さん『私は元気がありません』刊行記念エッセイ 「静止する“私”こと」 最後に原稿を読んだのは1月4日だった。あれから1ヶ月くらい経った今、読み返していない。家に届いた見本もパラパラ捲るだけだ。だって、もう赤入れられないから。原稿の直しは全部で3回。その度赤く染まった紙の束は今、美しい装丁に包まれて微動だにしない。それはついに発売されるってことの証明で、嬉しいはずなのに、運動をやめた文字たちがちょっぴり怖かった。 「小説TRIP
なぜ一作目の主人公は子供なのか?江國香織さんが“極度の”方向音痴から思考を巡らす刊行記念エッセイ/最新小説『川のある街』
子供のころに住んでいた街のことをよく憶えている。通学路や公園、商店街は言うにおよばず、子供には縁のない場所――運輸会社、産婦人科医院、質屋、雀荘、着付教室、琴曲教室、煙草屋、月極駐車場など――がどこにあるか知っていたし(「明るい家族計画」と銘打たれた自動販売機が二か所にあることも知っていた。一体何を売っているのかは見当もつかなかったけれども)、どの家の庭にどんな花が咲いているかや、ある家のレンガブロックが一つ緩んでいて、隙間に小さな物を隠せることも知っていた。なぜか表札を読