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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#時代小説

葉室麟さん最後の長編歴史小説『星と龍』が待望の文庫化! 東京大学史料編纂所・本郷和人教授による文庫版解説を特別公開

 戦前、楠木正成と後醍醐天皇は、日本史で五指に入るヒーローであった。とくに楠木正成は水戸学がその生涯を賞揚したから、水戸学に強い影響を受けた幕末の志士、明治の元勲たちは「われ楠木正成たらん」と願った。実証的な研究が不足していた時代であるからかえって、1人1人が「おれの楠木正成」像を作り上げ、行動の指針としたのである。  それでも明治初年には、議論があり得た。福沢諭吉は『学問のすゝめ』で一身独立して一国独立す、国民1人1人が学問して覚醒し、それを基礎として国家が自立することこ

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【今年も開催!朝日文庫の秋の時代小説フェア】ラインナップを一挙公開!

<新刊>■朝井まかて『グッドバイ』  長崎の油商・大浦屋の女あるじ、お希以──のちの大浦慶。黒船来航騒ぎで世情が揺れる中、無鉄砲にも異国との茶葉交易に乗り出し、一度は巨富を築くが、その先に大きな陥穽が待ち受けていた──。実在の商人・大浦慶の生涯を円熟の名手が描いた、傑作歴史小説。 ■葉室麟『星と龍』  悪党と呼ばれる一族に生まれた楠木正成の信条は正義。近隣の諸将を討伐した正成は後醍醐天皇の信頼を得ていくが、自ら理想とする世の中と現実との隔たりに困惑し……。著者最後となっ

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歴史好きにも難解な平安末期を伊東潤氏が“平清盛”を通して描く『平清盛と平家政権』。歴史ライター・西股総生氏による文庫解説を特別公開

 伊東潤氏は、恰幅のよい作家である。  いや、何もルックスのことを言っているのではない。氏の小説は、古代から近世に至るさまざまな時代に題材を取り、また、本書のような史論や紀行物も多い。書くものの幅が広いのだ。  こうした「幅の広さ」を支えているのが、旺盛なリサーチ力であり、何より氏のあくなき好奇心であることは、作品を読めば直ちに理解されるところであろう。  また、一般には知られていないような人物や、細かな事件を掘り起こして題材とした作品もあるが、主役級の有名な人物を、正面から

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【シリーズ最高傑作】北原亞以子さんの幻の名作長編が初の文庫化!『雪の夜のあと 慶次郎縁側日記』大矢博子氏による文庫解説を公開

   <本書が原作>     時代劇セレクション「慶次郎縁側日記2」(主演:高橋英樹)     NHK総合 毎週水曜日 午後3時10分~ 2022年8月放送予定     ※放送は変更になることがあります。  朝日文庫による「慶次郎縁側日記」シリーズ復刊企画、第3弾である。  ――と簡単に書いたが、実はこの『雪の夜のあと』の復刊は多くのファンが熱望していた、まさに快挙と言っていい出来事なのだ。私も復刊3作目が『雪の夜のあと』と聞いて思わず「ほんとうに?」と訊き返してしまったほ

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【待望のシリーズ復刊】北原亞以子による人情時代小説の金字塔『傷 慶次郎縁側日記』 菊池仁氏の文庫解説を特別公開!

    <本書が原作>     時代劇セレクション「慶次郎縁側日記」(主演:高橋英樹)     NHK総合 毎週水曜日 午後3時10分から放送中     ※放送予定は変更になることがあります。  シリーズものとしては、池波正太郎「鬼平犯科帳」と比肩しうる面白さと人気を博した北原亞以子「慶次郎縁側日記」の待望の再刊が始まる。本書はその記念すべき第1巻である。  作者は重い病で病床にありながらも、旺盛な筆力を示していたが、2013年に75歳で急逝した。まずプロフィールを紹介す

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宇江佐真理が描いた“男装のおんな通詞”激動の生涯『お柳、一途 アラミスと呼ばれた女』高橋敏夫氏による文庫解説を公開!

激動する時代に、人の思いと生き方の一途さを問う 「お柳、一途」とは、なんともすばらしいタイトルだ。  主人公であるお柳(後に通詞の田所柳太郎で愛称アラミス)のつよく変わらぬ思いと、ひたむきな生き方をみごとに凝縮した言葉なのはもちろんだが、それにとどまらない。  お柳が「一途」なら、お柳と思いを交わすもう一人の主人公、榎本釜次郎(榎本武揚)の思いと生き方も一途である。お柳の父でオランダ通詞(通訳)の平兵衛や、お柳の友でキリシタンのお玉も一途である。  また、釜次郎をとり

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【垣根涼介著『涅槃』(上・下)書評】負けないための「弱者の戦略」

 宇喜多直家という戦国武将の名前に聞き覚えがある人は、なかなかの歴史通だろう。備前国でのし上がり、裏切りを辞さない奸雄として語られてきた。 『涅槃』は、その武将に新たな光を当てる長編だ。宇喜多家の嫡男として生まれ、幼くして居城から追われた八郎(後の直家)は、備前の豪商の家で暮らし、その後は仇敵の元に出仕するまで尼寺で過ごした。人格形成の時期に特異な環境に身を置いたことで、直家は「利を求める」という、武将らしくない感性を育んでいく。  武門の家に生まれた以上、武士であること

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