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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#朝比奈秋

【朝比奈秋さん芥川賞受賞記念】林芙美子文学賞選考委員・角田光代さんとの対談を特別公開

■林芙美子文学賞から芥川賞へ 角田:芥川賞受賞、おめでとうございます。朝比奈さんが「塩の道」で林芙美子文学賞を受賞されたのは2021年でした。あのときの選考は評価が割れることもなくて、みんな朝比奈さんに丸印を付けたと思います。 朝比奈:そううかがっています。ありがたいことに、角田さんをはじめ、井上荒野さん、川上未映子さん3人から支持をいただいたと。 角田:選考委員が口を揃えて一番印象が強かったと言っていたのをおぼえています。私も描写の強度があると感じました。 朝比奈:

【祝・芥川賞受賞】朝比奈秋さんデビュー作が文庫化! 井上荒野さんによる文庫解説公開

 林芙美子文学賞の選考委員として、2021年の最終候補作であった「塩の道」をはじめて読んだときの興奮を、まだ覚えている。選評では「生と死の手触りが生々しく迫って来て」「エピソードの作りかたがうまく、過不足もなかった」と書いた。これらのことは後で詳述するとして、そのときにはマイナス点として「情景描写が並べられるだけで主人公の心がどこにも動いていかない」ということも指摘していた。だが今、あらためて、「私の盲端」と「塩の道」を続けて読んでみると、「マイナス点」の印象は裏返しになる。

【各紙誌で話題!】朝比奈秋著『植物少女』の書評・インタビューをまとめて紹介!

評者・栗原裕一郎さん「週刊新潮」(2022年10月20日号) 評者・町田そのこさん「一冊の本」(2023年2月号) 評者・杉江松恋さん「小説新潮」(2023年2月号) 「日本経済新聞」書評(2023年2月4日) 評者・高頭佐和子さん「WEB本の雑誌」(2023年2月6日) 著者インタビュー「週刊朝日」(2023年2月6日号)

この社会の価値観の偏りを炙り出す…書評家・杉江松恋さんによる【朝比奈秋著『植物少女』書評】

人間の生命をこのように描けるとは 小説が息をしている。生きている。  耳を澄まし、それを聴こう。  朝比奈秋『植物少女』は三層構造を持つ小説だ。第一層にあるのは医療小説としての性格である。  朝比奈は第七回林芙美子文学賞に輝いた「塩の道」で2021年にデビューを果たし、同年に第2作の「私の盲端」(同題短篇集所収。2022年)を発表した。これは腫瘍のため直腸の切除手術を受けた大学生の女性を視点人物とする作品である。人工肛門を使用、つまり新米オストメイトとなった主人公には世

現役医師が「植物状態の母と過ごす娘」を書くことで教わったこと/『植物少女』著者・朝比奈秋さんインタビュー

 朝比奈秋さんは30代半ばまで、小説とは無縁の勤務医だった。 「論文を書いている時にふっと物語が浮かんで。それを書いてみたら止まらなくなりました」  浮かんだのは映画のような動画だったという。 「2、3年すると急患の診察中にも浮かぶようになり、仕事を続けられなくなりました。そこから書き続けているうちに、交友関係などもなくなっていき、プライベートな時間のほとんどが小説に侵食されていきました」  せっかく書いたのだからと短篇の新人賞に送るようになり、2021年、「塩の道」

植物状態の母と娘にしか紡げない「親子の形」と「生きる意味」とは?作家・町田そのこによる、朝比奈秋著『植物少女』書評

繋がりゆくもの  本作『植物少女』を読んでいる間じゅう、亡き祖母を思い出していた。  祖母は認知症とパーキンソン病を併発しており、その進行は俗に言われる“坂道を転がり落ちる”ようではなく、“落とし穴にすぽんと落ちる”ようであった。言葉を用いてのコミュニケーションはあっという間にできなくなり、次いで表情やしぐさから何かを察するということも難しくなった。祖母が病であることを受け入れられたころにはもう、ベッドの上で無表情に虚空を見つめ、奇妙に体をこわばらせていたように思う。

2023年に朝日新聞出版から発売予定の文芸書単行本情報を一挙に解禁します!

■2023年1月10日発売予定『植物少女』朝比奈秋  美桜が生まれた時からずっと母は植物状態でベッドに寝たきりだった。小学生の頃も大人になっても母に会いに病室へ行く。動いている母の姿は想像ができなかった。美桜の成長を通して、親子の関係性も変化していき──現役医師でもある著者が唯一無二の母と娘のあり方を描く。 ■2023年3月発売予定『また会う日まで』池澤夏樹  海軍軍人、天文学者、キリスト教徒として生きた秋吉利雄。3つの資質はどのように混じり合い、たたかったのでしょうか

創作2本を掲載、インタビュー連載開始! <「小説TRIPPER」2022年秋季号ラインナップ紹介>

◆創作朝比奈秋 「植物少女」  美桜が生まれた時からずっと母は植物状態でベッドに寝たきりだった。小学生の頃も大人になっても母に会いに病室へ行く。動いている母の姿は想像ができなかった。美桜の成長を通して、親子の関係性も変化していき――『私の盲端』で話題となった現役医師作家が唯一無二の母と娘のあり方を描く。一挙掲載227枚。 長井短 「万引きの国」  バイト先のコンビニでいつもチューハイを万引きする彼が繰り出した渾身の右ストレートパンチ。恋とか男とか女とか、そんなカビ臭い古

【朝比奈秋著『私の盲端』書評】現役医師によるデビュー作

「食」と「熱」の祝祭  就活を控えた21歳の大学生・比奈本涼子は、自分の身体にこもる熱をもてあまし気味だ。大学で女友だちと過ごす退屈な時間より、長くアルバイトをしている料理店「橙」で過ごす時間にどうやら充実したものを感じている。  そんな涼子を、突然の病が見舞う。アルバイト先での勤務中に突然、大量下血して倒れたのだ。幸い命はとりとめたが、大腸の一部を切除したので、再手術までのあいだ人工肛門で暮らすことになる。腸壁を裏返して医師が丁寧に縫い付けてくれた、薔薇のような人工肛門