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田中慎弥さんがデビュー作から描いてきた「孤独な人間が最後に見出す、人生の『伴走者』」とは?/あわいゆきさんによる『死神』書評
かつて見捨ててしまった死神と、再び向き合うために――田中慎弥『死神』論〈死神〉ときいて脳裏に浮かぶイメージはなんだろう? フィクションのなかであらゆる姿かたちをとる死神は、多様すぎるがゆえに概念ばかりが朧げに共有され、実像がひとつに定まらない。中国古典文学を研究する増子和男さんは『日中怪異譚研究』(汲古書院、2020)で、一般的な〈死神〉概念を次のように定義している。 実際、脳裏に浮かんだ死神が、こうしたイメージと紐づくひとは多いはずだ。 だが、田中慎弥さんの『死神』に
パンダと人類の歴史をひもとく、小さく、ひそやかな問題作 /高山羽根子著『パンダ・パシフィカ』小川公代さんによる書評を特別公開!
弱きものの“命をあずかる” 高山羽根子はデビュー以来、一貫して“命をあずかる”責任について書いてきている。“命をあずかる”とはどういうことか。それは子どもを授かった親のケア実践かもしれない。あるいは、医療従事者が提供するケアかもしれない。獣医もまた大切な命をあずかっている。無数の名もなき人たちも、日々小さくて、脆弱な生きものの命を育て、見守っている。高山のデビュー作「うどん キツネつきの」では、宇宙生物である可能性が示唆される犬が、三人姉妹の愛を一身に受ける対象として描か
第10回林芙美子文学賞大賞、大原鉄平氏の受賞後第一作「八月のセノーテ」が「小説トリッパー」24年秋季号に早くも掲載!冒頭部分を特別公開
「八月のセノーテ」 この街は少しずつ沈んでいるらしい。 森本仁寡はその話を同級生のりょうから聞いた。りょうは塾でもトップクラスの成績で、下らない噂話に流されるタイプではなかったので、きっとその話は本当だろうと仁寡は思った。この街は少しずつ沈んでいる。 「年に何ミリだか、何センチだか、知んないけどね」 りょうは真新しい赤色の自転車に飛び乗るようにまたがり、ペダルに足をかけ、仁寡を振り返って言った。 「全部沈んじゃったら、あんたはどうする?」 日が傾きつつある放課後、りょう
夏季号は創作が1本に、新連載2本スタート! 新刊をめぐる評論と対談も。〈「小説TRIPPER」2024年夏季号ラインナップ紹介〉
◆創作高山羽根子 「パンダ・パシフィカ」 春先になると花粉症で鼻が利かなくなるモトコは、副業で働くアルバイト先の同僚・村崎さんから自宅で飼う小動物たちの世話を頼まれる。2008年、上野動物園ではパンダのリンリンが亡くなり、中国では大地震と加工食品への毒物混入事件が起きる。命を預かることと奪うこと。この圧倒的な非対称は、私たちの意識に何を残すのか? テロルの時代に抗う、小さく、ささやかな営為を描く問題作、一挙掲載285枚。 ◆新連載武内涼 「歌川 二人の絵師」 東海道
春季号は創作が3本に、第10回林芙美子文学賞受賞作&選評掲載! 江國香織さんインタビューも。〈「小説TRIPPER」2024年春季号ラインナップ紹介〉
◆創作奥泉光 「印地打ち」 旅先で公民館に集う年寄りから、その昔の石合戦、印地打ちの話を聞いた。山岳に住み石礫を飛ばして、動く標的を射止める。武田信玄、真田昌幸の戦にも登場しながら、武将の軍団に組み込まれることを拒み、戦国の世に幻と消えた山の民が、現代に問いかけるものとは? アジア・太平洋戦争から歴史の舞台を遡って、著者の新境地。 志川節子 「昔日の光」 4年前に女房を亡くした幸右衛門は、息子に家業の大家を継がせたものの、何かと口を出すので煙たがられている。かつて水
冬季号は創作が1本に、新連載もスタート! 連載、連作3本堂々完結。評論も充実!〈「小説TRIPPER」2023年冬季号ラインナップ紹介〉
◆創作屋敷葉 「常時録画の愛」 将来を約束した恋人でもなく、一生食べていける仕事でもない。「交際」を「職業」にしているカップルYouTuberの雪葉と晃。偶然バズった動画配信を中途半端な気持ちのまま続ける二人だが、晃が化粧水のプロデュースに乗り出したことで、雪葉は「お笑い」への道を意識しはじめる。真の「相方」を探す現代の成長小説。 ◆新連載真保裕一 「共犯の畔」 ある国会議員の事務所で立て籠もり事件が発生、犯人はあっさり逮捕されるが黙秘を貫く。やがて33年前に行われ