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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#小説トリッパー

困窮する子どもたちを知り、自分の傲慢さに気付かされる…丸山正樹『キッズ・アー・オールライト』藤田香織さんによる書評を特別公開

「絆」という言葉を見聞きした際に、美しさよりも息苦しさを感じることはないだろうか。  特に「家族の絆」は、取り扱いに注意が必要だ。その褒め言葉は牽制ではないか。その献身は犠牲ではないのか。はた目には見えない鎖が、じわじわと誰かの首を絞めつけているのではないか。そんなことは考えたこともない、というのであれば、本書『キッズ・アー・オールライト』を手に取って欲しい。  家のために、家族のために、親や弟妹のために、自分を犠牲にし、いや犠牲にしているという自覚さえないまま毎日を過ごし、

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創作2本を掲載、インタビュー連載開始! <「小説TRIPPER」2022年秋季号ラインナップ紹介>

◆創作朝比奈秋 「植物少女」  美桜が生まれた時からずっと母は植物状態でベッドに寝たきりだった。小学生の頃も大人になっても母に会いに病室へ行く。動いている母の姿は想像ができなかった。美桜の成長を通して、親子の関係性も変化していき――『私の盲端』で話題となった現役医師作家が唯一無二の母と娘のあり方を描く。一挙掲載227枚。 長井短 「万引きの国」  バイト先のコンビニでいつもチューハイを万引きする彼が繰り出した渾身の右ストレートパンチ。恋とか男とか女とか、そんなカビ臭い古

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高山羽根子著・単行本『如何様』大澤聡氏による書評「ポスト・トゥルースの彼岸」を特別掲載!

 1947年12月29日、1人の男が死んだ。ハン・ファン・メーヘレン、画家である。のち世界的にその名を知られることになる。ただし、フェルメールの精巧な贋作の制作者として。遡ること2年半前、ナチスの高官ヘルマン・ゲーリングらにオランダの名画を売り渡した罪で起訴され、世間はこのナチス協力者にバッシングを浴びせた。しかし、拘留中の本人の告白と法廷での長期におよぶ実演とによって、売却したのはじつは自身の手になる贋作だったことが判明。すると、憎きナチスに偽物を掴ませた男として、一転、英

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高山羽根子著・単行本『オブジェクタム』小川哲氏による書評「文学の美しさと儚さ」を特別掲載!

 高山さんがトリッパーで新作を書いたらしいと聞き、手にとってみると「オブジェクタム」というラテン語風の仰々しいタイトルだった。聞いたことのあるような、ないような不思議な言葉だったが、高山さんは美大を出てるから、オブジェとか出てくるのかな、といい加減な気分で読み始めた。そしたら本当にオブジェ的なものが出てきて驚いた。 《オブジェ》とはなんだろうか。もともとは「物体」や「客体」を表すフランス語だったが、シュルレアリスム以降は「非芸術的な物体を利用して制作された美術作品」という意

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※終了※【話題沸騰!】小川哲「君のクイズ」が単行本で10/7発売決定!試し読みを緊急公開

※試し読みは終了しました※  小川哲さんの小説「君のクイズ」が異例の反響です。「小説トリッパー」2022年夏季号に一挙掲載後、SNSを中心に各方面から熱い感想が届いています。クイズプレーヤーを主人公にした本作は、小説好きの方だけでなくクイズ好きの方にも興味をもって読んでいただけているようです。そんな話題沸騰の本作ですが、10月7日に書籍として刊行することが決定しました。単行本発売の情報解禁記念として、作品の約1/4を、12日間限定で一部先行公開いたします。一段落目からすでに面

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夏号は創作2本が充実!さらに長期連載4本が堂々完結<「小説TRIPPER」2022年夏季号ラインナップ紹介>

◆創作小川哲 「君のクイズ」 『Q-1グランプリ』決勝戦。競技クイズプレイヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄の不可解な勝利に不正工作の疑念を抱く。真相を知るべく、彼について調べ試合を1問ずつ振り返る三島はやがて――。今夏大注目の鬼才による、クイズに材を取った新作274枚を一挙掲載します! 櫻木みわ 「カサンドラのティータイム」  スタイリスト見習いとして働く友梨奈と、牛肉加工工場でパートをしている主婦の未知。孤独に自分を責め苦しみながら夜を過ごしている、誰かと誰か。現代社

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【朝比奈秋著『私の盲端』書評】現役医師によるデビュー作

「食」と「熱」の祝祭  就活を控えた21歳の大学生・比奈本涼子は、自分の身体にこもる熱をもてあまし気味だ。大学で女友だちと過ごす退屈な時間より、長くアルバイトをしている料理店「橙」で過ごす時間にどうやら充実したものを感じている。  そんな涼子を、突然の病が見舞う。アルバイト先での勤務中に突然、大量下血して倒れたのだ。幸い命はとりとめたが、大腸の一部を切除したので、再手術までのあいだ人工肛門で暮らすことになる。腸壁を裏返して医師が丁寧に縫い付けてくれた、薔薇のような人工肛門

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大型新連載3本に充実の創作、林芙美子文学賞受賞作も掲載!<「小説TRIPPER」2022年春季号ラインナップ紹介>

◆新連載小説 貫井徳郎 「ひとつの祖国」  第二次大戦後、日本は大日本国(西日本)と日本人民共和国(東日本)に分断された。ベルリンの壁が崩壊する頃、日本もひとつの国に統一されたのだが格差は埋まらず、再度、東日本の独立を目指すテロ組織が暗躍し……。パラレルワールドを舞台にした社会派エンターテインメント巨編。 田中慎弥 「死神」  死のうとするからあいつが現れるのか、あいつと出会ったから死にたくなるのか……うだつの上がらない「作家」である私の人生の折々に登場してくる、死神。中

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胎児が「生まれるかどうか」を決める世界が与える衝撃<芥川賞作家・李琴峰インタビュー>

■出生は祝いか、呪いか ――芥川賞受賞第一作の『生を祝う』は、生まれる前の胎児に出生の意思を確認する合意出生制度が確立された世界が舞台になっています。この構想はどういうきっかけで生まれたのでしょうか? 李琴峰(以下、李):直接のきっかけは、去年「S-Fマガジン」(2021年年2月号)で百合特集が組まれたとき、櫻木みわさんと一緒に百合SF書いたことです。どういう小説にしようかとプロットを考えているときに、思いついたアイディアが二つあって、一つが『生を祝う』で、もう一つが白蛇

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第8回 林芙美子文学賞 受賞作が決定!

受賞の言葉  長い間、周りから理解されず苦しんだ。孤立するたびに「私はあなたたちとは違う」と思える何かが欲しかった。  初めて書き上げた小説を手にした時、自分で自分を特別な存在だと認めた。  私にはこの物語がある。そう思うだけで、勇気が湧いた。  今回、多感な時期を過ごした九州の文学賞で、選考委員の先生方に自分の小説を読んでもらえたことが何よりとても嬉しく、また評価されたことも嬉しいです。  どうもありがとうございました。 受賞者プロフィール 小泉綾子(こいずみ・あ

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【桐野夏生著『砂に埋もれる犬』書評】可視化される虐待

 全国の児童相談所(児相)が相談対応した18歳未満の子どもへの児童虐待は、30年連続で増え続け、2020年度で過去最多の20万5029件(厚生労働省調べ)となった。途方もない数字だとしか言いようがない。  桐野夏生氏の新作『砂に埋もれる犬』は、貧困の中での児童虐待、ネグレクト(育児放棄)の問題に正面から向き合った小説だ。  12歳の少年・小森優真、4歳の弟篤人、32歳の母亜紀の3人は神奈川県内の工場の多い街で、亜紀が付き合っている元ホスト北斗さんの狭いアパートで暮らす。小

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【垣根涼介著『涅槃』(上・下)書評】負けないための「弱者の戦略」

 宇喜多直家という戦国武将の名前に聞き覚えがある人は、なかなかの歴史通だろう。備前国でのし上がり、裏切りを辞さない奸雄として語られてきた。 『涅槃』は、その武将に新たな光を当てる長編だ。宇喜多家の嫡男として生まれ、幼くして居城から追われた八郎(後の直家)は、備前の豪商の家で暮らし、その後は仇敵の元に出仕するまで尼寺で過ごした。人格形成の時期に特異な環境に身を置いたことで、直家は「利を求める」という、武将らしくない感性を育んでいく。  武門の家に生まれた以上、武士であること

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