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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#小説トリッパー

田中慎弥さんがデビュー作から描いてきた「孤独な人間が最後に見出す、人生の『伴走者』」とは?/あわいゆきさんによる『死神』書評

かつて見捨ててしまった死神と、再び向き合うために――田中慎弥『死神』論〈死神〉ときいて脳裏に浮かぶイメージはなんだろう? フィクションのなかであらゆる姿かたちをとる死神は、多様すぎるがゆえに概念ばかりが朧げに共有され、実像がひとつに定まらない。中国古典文学を研究する増子和男さんは『日中怪異譚研究』(汲古書院、2020)で、一般的な〈死神〉概念を次のように定義している。  実際、脳裏に浮かんだ死神が、こうしたイメージと紐づくひとは多いはずだ。  だが、田中慎弥さんの『死神』に

【朝比奈秋さん芥川賞受賞記念】林芙美子文学賞選考委員・角田光代さんとの対談を特別公開

■林芙美子文学賞から芥川賞へ 角田:芥川賞受賞、おめでとうございます。朝比奈さんが「塩の道」で林芙美子文学賞を受賞されたのは2021年でした。あのときの選考は評価が割れることもなくて、みんな朝比奈さんに丸印を付けたと思います。 朝比奈:そううかがっています。ありがたいことに、角田さんをはじめ、井上荒野さん、川上未映子さん3人から支持をいただいたと。 角田:選考委員が口を揃えて一番印象が強かったと言っていたのをおぼえています。私も描写の強度があると感じました。 朝比奈:

パンダと人類の歴史をひもとく、小さく、ひそやかな問題作 /高山羽根子著『パンダ・パシフィカ』小川公代さんによる書評を特別公開!

弱きものの“命をあずかる”  高山羽根子はデビュー以来、一貫して“命をあずかる”責任について書いてきている。“命をあずかる”とはどういうことか。それは子どもを授かった親のケア実践かもしれない。あるいは、医療従事者が提供するケアかもしれない。獣医もまた大切な命をあずかっている。無数の名もなき人たちも、日々小さくて、脆弱な生きものの命を育て、見守っている。高山のデビュー作「うどん キツネつきの」では、宇宙生物である可能性が示唆される犬が、三人姉妹の愛を一身に受ける対象として描か

第10回林芙美子文学賞大賞、大原鉄平氏の受賞後第一作「八月のセノーテ」が「小説トリッパー」24年秋季号に早くも掲載!冒頭部分を特別公開

「八月のセノーテ」 この街は少しずつ沈んでいるらしい。  森本仁寡はその話を同級生のりょうから聞いた。りょうは塾でもトップクラスの成績で、下らない噂話に流されるタイプではなかったので、きっとその話は本当だろうと仁寡は思った。この街は少しずつ沈んでいる。 「年に何ミリだか、何センチだか、知んないけどね」  りょうは真新しい赤色の自転車に飛び乗るようにまたがり、ペダルに足をかけ、仁寡を振り返って言った。 「全部沈んじゃったら、あんたはどうする?」  日が傾きつつある放課後、りょう

第10回林芙美子文学賞佳作受賞・鈴木結生さん受賞第一作「ゲーテはすべてを言った」冒頭特別公開!

「ゲーテはすべてを言った」鈴木結生端書き  先頃、私は義父・博把統一の付き添いで、ドイツ・バイエルン州はオーバーアマガウ村の受難劇を観て来た。統一が長年要職を歴任した日本ドイツ文学会から依頼を受けての取材旅行。といっても、間も無く定年を迎えようとする功労者に対し、ささやかな餞別といった意味合いも多分にある仕事で、PR誌「独言」に何頁でもいいから文章を書いて欲しい、との話であった。勿論、統一本人は至って真面目にこの仕事に取り組んでいたが、そうはいってもやはり久々のドイツ。二週

夏季号は創作が1本に、新連載2本スタート! 新刊をめぐる評論と対談も。〈「小説TRIPPER」2024年夏季号ラインナップ紹介〉

◆創作高山羽根子 「パンダ・パシフィカ」  春先になると花粉症で鼻が利かなくなるモトコは、副業で働くアルバイト先の同僚・村崎さんから自宅で飼う小動物たちの世話を頼まれる。2008年、上野動物園ではパンダのリンリンが亡くなり、中国では大地震と加工食品への毒物混入事件が起きる。命を預かることと奪うこと。この圧倒的な非対称は、私たちの意識に何を残すのか? テロルの時代に抗う、小さく、ささやかな営為を描く問題作、一挙掲載285枚。 ◆新連載武内涼 「歌川 二人の絵師」  東海道

「小説についてはいつも孤独という言葉で考えています」/町屋良平さんによる江國香織インタビューを特別公開!

言葉の要請から物語が生まれる■街そのものを描くということ 町屋:江國さんの作品を読んだのは『冷静と情熱のあいだ』が最初で、実はそれが私の文学体験のほとんど原点に近いものでした。もちろんそこに書かれている世界は高校生の私には経験したことのないものだったのですが、読み終わったあとにグッと引き込まれていた自分に気づき、しばらく興奮を抑えられなかったのを覚えています。どんどん日本の小説を読めるようになったのは、それからでした。以来、江國さんの小説をずっと好きで読んできた人間の個人的

「私は、もっと自らのおろかさを突き詰めた長井短の小説が読んでみたい」小説家・年森瑛さんによる『私は元気がありません』書評

他者を物語るということ  小説を書くことは、この上なく孤独な作業だ。  寂しさに耐えかねた私は、同じく兼業作家のサハラさんと毎週末に作業通話をするようになった。一人称って難しくないですか、下手こくと「俺の名前は江戸川コナン、探偵さ!」状態になりますし、作家の腕が如実に出ますよね、みたいな話をしている。そこで思い返してみると、『私は元気がありません』の一人称は上手かった。これは長井短による初の小説集で、全三篇が収録されている。独特のバイブスがある文体で、舌に乗せたくなるよう

春季号は創作が3本に、第10回林芙美子文学賞受賞作&選評掲載! 江國香織さんインタビューも。〈「小説TRIPPER」2024年春季号ラインナップ紹介〉

◆創作奥泉光 「印地打ち」  旅先で公民館に集う年寄りから、その昔の石合戦、印地打ちの話を聞いた。山岳に住み石礫を飛ばして、動く標的を射止める。武田信玄、真田昌幸の戦にも登場しながら、武将の軍団に組み込まれることを拒み、戦国の世に幻と消えた山の民が、現代に問いかけるものとは? アジア・太平洋戦争から歴史の舞台を遡って、著者の新境地。 志川節子 「昔日の光」  4年前に女房を亡くした幸右衛門は、息子に家業の大家を継がせたものの、何かと口を出すので煙たがられている。かつて水

玄侑さんという人は、本当に怖ろしい/玄侑宗久著『桃太郎のユーウツ』道尾秀介さんによる書評公開

 音楽を聴くとき、アルバムに収録された曲を一曲目から順番に再生していく人が近年では減っているという。かくいう僕自身も、隙間時間を見つけては、聴きたい曲だけポチッと選んで再生したりする。しかし作り手は適当に曲順を決めているわけではなく、そこには重要な意味があるはずで、ためしにアルバムを最初から最後まで再生してみると、それぞれの曲が驚くほど違って聞こえてくる。  短編小説集もまたしかりで、収録作品を配列順に読むことで、初めて立ち現れてくるものがある。とくに本書はその特色が強いの

冬季号は創作が1本に、新連載もスタート! 連載、連作3本堂々完結。評論も充実!〈「小説TRIPPER」2023年冬季号ラインナップ紹介〉

◆創作屋敷葉 「常時録画の愛」  将来を約束した恋人でもなく、一生食べていける仕事でもない。「交際」を「職業」にしているカップルYouTuberの雪葉と晃。偶然バズった動画配信を中途半端な気持ちのまま続ける二人だが、晃が化粧水のプロデュースに乗り出したことで、雪葉は「お笑い」への道を意識しはじめる。真の「相方」を探す現代の成長小説。 ◆新連載真保裕一 「共犯の畔」  ある国会議員の事務所で立て籠もり事件が発生、犯人はあっさり逮捕されるが黙秘を貫く。やがて33年前に行われ

【西加奈子✕宮内悠介 対談】クリシェと向き合い、小説を再発見する

小説の当事者性 西:編集者の方から「バルト三国のエストニアに生まれて、ソ連崩壊で運命を変えられたラウリ・クースクという男性の一代記です」と伺っていたので、今度の宮内さんの本、どれだけ分厚くなるんだろうと思っていたんです。プルーフが送られてきたら、とてもコンパクトだったので驚きました。240ページ弱ですもんね。でも、その中にぎっしりとラウリの人生やこの国の歴史が詰まっている。中央アジアが舞台だった『あとは野となれ大和撫子』は何ページくらいでした? 宮内:原稿用紙換算で言うと

塩田武士『存在のすべてを』刊行記念インタビュー/「虚」の中で「実」と出会う

 情熱を失った新聞記者が再び「書きたい」と奮い立つ題材に出会うという出発点はデビュー作『盤上のアルファ』(2011年)、子供たちの未来を奪う犯罪への憤りという点では代表作として知られる社会派ミステリー『罪の声』(2016年)、フェイクニュースが蔓延し虚実の見極めが難しい現代社会のデッサンという点では吉川英治文学新人賞受賞作『歪んだ波紋』(2018年)、関係者たちの証言によって犯人像が炙り出される構成上の演出は『朱色の化身』(2022年)……。塩田武士の最新作『存在のすべてを』

「こんなにも『好き』を考える小説を私は他に知らない」尾崎世界観さんが、町屋良平さんの最新作『恋の幽霊』を読みときます。

恋のアウトレイジ  幽霊を怖いと感じるのは、見てしまった瞬間より、見てしまうまでの時間だと思っている。実際に見て「うわ、幽霊だ」となるのは、ただの驚きでしかないからだ。 「この辺りに幽霊がいて、今にも出てきそうだな」と思っている時間の方が、実際に見た瞬間よりも遥かに怖い。私はまだ幽霊を見たことがないから、物心ついてからずっと幽霊を怖がっている。でも一度見てしまえば、「見える人」として上書きされてしまうから、「ずっと見えなくて怖い」が正しい幽霊との付き合い方だと思う。