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「読み継がれなければならない物語がある」――NHK時代劇にもなった傑作時代小説シリーズ『峠 慶次郎縁側日記』が復刊!作家・村松友視氏による文庫解説を特別公開
元南町奉行所の同心・森口慶次郎が市井の弱き者に寄り添う、人情時代小説シリーズ、北原亞以子著『峠 慶次郎縁側日記』(朝日文庫)が発売になりました。本作は、善良な薬売りの若者が一瞬の過ちで人生を踏み外してしまう悲哀を描く中編小説「峠」など8編を収録しています。今回の出版にあたり、著者の北原亞以子さんと親交のあった作家・村松友視氏による文庫解説を公開します。 毒は上澄みとなって表面に浮上するか、澱となって底に沈むかで、中間には存在しない。したがって毒見の役は、まず上澄みをたし

【大河ドラマ「どうする家康」をウラ読み】天下人・豊臣秀吉の正室おねねの生涯を描いた、傑作歴史小説『王者の妻』復刊!大矢博子氏による文庫解説を特別公開
今年(2023年)1月、永井路子さんが亡くなられた。 ――という一文からこの解説を書き始めねばならないのが、とても残念だ。享年97は一般には大往生と言えるかもしれないが、永井さんに関してはもっともっと作品を読みたかった、考えを聞かせて欲しかったという思いが拭えない。それはひとえに、彼女が常に歴史に新たな視点を与えてくれる作家だったからだ。 来歴やデビューの経緯については前掲の尾崎秀樹先生の紹介に詳しいので割愛するが、男性作家が大半だった歴史小説の世界に於いて、有吉佐

「津村さんが語るのは、ほかでもない、私たちの生活の肯定のことだと思う。」書評家・三宅香帆さんによる津村記久子著『まぬけなこよみ』朝日文庫版、解説を特別公開!
暦という名の思い出 季節の変わり目だあ、と感じた瞬間、ふわりと昔のことを思い出すことがある。「あ、高校時代もこんなふうに自転車のハンドルを握る手が『寒すぎて痛い』って思ったな」とか、「就職したての春もなんだかもんわりした空気で憂鬱だったな」とか、なんてことない実感が季節の変化によって急に記憶の底から引っ張り出されるのだ。たしかに毎年季節の変わり目はやってきて、そして同じように次の季節にうつってゆく。毎年の夏の記憶が積み重なり、また今年も夏がやってきたとき、重層的な記憶が自分の

【石原慎太郎氏による文庫解説を特別公開】大河ドラマ「どうする家康」や木村拓哉さん主演映画でも注目集める織田信長を描いた、歴史文学の名著『信長』復刊
価値と歴史の創造者 秋山氏の「信長」が出版された直後、氏との対談でこの本を一番評価しているのは信長自身ではないかといったことがある。 実際にこの労作以前にあった信長の評伝はどれも、この日本の歴史の中で最も有名で最も偉大な仕事を手掛けた、しかし最も非日本的な、その意味では異形な人物について正鵠を射た分析も評価もし切れてはいなかった。 信長の偉大さは彼こそが日本の近代の素地を作ったが故にあるが、彼が願った新しい社会を形として成し上げたのは彼の麾下にあった秀吉とか家康という

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」「どうする家康」「光る君へ」の女性キャラを網羅したゴージャスな歴史エッセイ『歴史をさわがせた女たち』の細谷正充氏による文庫解説を特別公開!
今年(2022年)のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、源平合戦から鎌倉幕府の成立、そして幕府内の闘争を描いている。三谷幸喜の脚本は秀逸であり、鎌倉幕府の複雑な人間関係を分かりやすく見せながら、北条義時を始めとする人々の魅力を表現。大きな人気を獲得した。ドラマによって、この時代の面白さを知り、歴史書や歴史小説を購入した人も多いだろう。私も毎年、ドラマと関係ある本を積み上げてしまう。そして気づくのだ、また、永井路子の『歴史をさわがせた女たち 日本篇』が、積み上げた本の中に入

「こんな女の人がいたのか!」幕末の女商人・大浦慶の生涯を描いた、朝井まかて『グッドバイ』/文芸評論家・斎藤美奈子さんの文庫解説を特別公開!
「こんな女の人がいたのか!」と思わせる、胸のすくような一冊――幕末の女商人・大浦慶伝 図ったわけではないと思いますが、2010年代ころから、歴史に埋もれた有名無名の女性たちの業績を発掘し、再評価する動きが世界中で起きています。 日本でも翻訳書が出ているレイチェル・イグノトフスキー『世界を変えた50人の女性科学者たち』(野中モモ訳)ほか「50人の女性」シリーズ(創元社)や、ケイト・バンクハースト『すてきで偉大な女性たちが世界を変えた』(田元明日菜訳)ほか「すてきで偉大な女