#文庫解説
汚職事件を追う捜査二課の刑事を描いた、堂場瞬一さんの『内通者』が文庫新装版として刊行! 現役大学生の書評家・あわいゆきさんによる文庫版解説を特別公開
〈時代〉と〈世代〉を超えて、愛され続けるための秘訣 普遍的な小説、とは一体なんでしょう? たとえば国語の教科書に長く載り続けているような古典や近代文学は、読んだことがある、というひとも多いかもしれません。太宰治『人間失格』などは特に、中高生を対象にした読書調査アンケートでもここ数年、読んでいる本の上位に居続けています。あるいは老若男女楽しめるように書かれている軽快なエンターテインメント小説も、世代にかかわらず親しまれているでしょう。 一方で、どんなひとが読んでも面白い
「未来は予測はできないが仕掛けることはできる」/スティーブン・ジョンソン著、大田直子訳『世界をつくった6つの革命の物語』安宅和人さんによる解説を特別公開!
ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』、ルイス・ダートネルの『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』など、様々な分野を横断して、俯瞰しつつ、世界を書き下ろすという日本にはないジャンルの本が欧米には存在するが、この本はその一冊だ。 この本を手に取られた人はすぐに『世界をつくった6つの革命の物語』というからてっきりフランス革命みたいな話が出てくるのかと思ったら、全くそうではないことに気づくだろう。もともとのお題は“How
「これほど強い愛の言葉を私は知らない」林真理子さんが感嘆した作家夫婦の壮絶で静謐な愛/小池真理子著『月夜の森の梟』文庫解説を特別公開
小池真理子さんの『月夜の森の梟』は、朝日新聞紙上で、2020年から連載された。たちまち大変な反響を呼び、終了後に特集記事が組まれたことを記憶している。 が、私はものを書く人間なので、少し別の感想を持った。単に「感動した」「自分も亡くした大切な人を思い出した」というわけにはいかない。まず私が持ったものは「すごいなあ」という感嘆である。 愛する夫を亡くした、というエッセイであるが、一回として同じ切り口がない。全く読者を飽きさせることなく、この連載を続けることに、どれほど
俳優・奥田瑛二さん「吉次の生みの親たる北原さんと、意見が分かれないことを願うばかり」/北原亞以子著『脇役 慶次郎覚書』の文庫解説を特別公開!
こいつはとんでもないへそ曲がりと見た。さて、どう演じるべきか——。 NHKドラマ『慶次郎縁側日記』から出演の話をいただき、最初に原作を読んだときには、しばし考え込んだものだった。 何しろ、演じてほしいといわれた吉次は、とにかく強烈な人物だ。妹夫婦が営む蕎麦屋に居候する岡っ引で、弱みをつかんだ町人を強請っては金を得ている鼻つまみ者。そのせいで、「蝮の吉次」なんて異名までちょうだいしている。背中を丸めて歩く姿には、拭いようのない孤独と哀愁が染み付いている。 主役の慶
社会に巣くう悪党たちの話を書かせると月村了衛の右に出る者はいない!/文芸評論家・池上冬樹氏による、月村了衛著『奈落で踊れ』文庫解説
まずは、最新作『半暮刻』(双葉社)からはじめよう。 この小説は、暴力団に所属しないで犯罪を行なう集団、つまり半グレたちを主人公にしている。会員制クラブにつとめる山科翔太と辻井海斗で、2人は店の方針に従って、女性客を騙して借金まみれにし風俗店に落としていたが、ある日警察の摘発にあう。だが、逮捕され刑に服したのは末端の翔太だけだった。 ここから2人は違う道を歩み始めるのだが、そもそも2人は生まれも育ちも違っていた。翔太は児童養護施設で育ち、少年院入所歴があり高校中退。海
「読み継がれなければならない物語がある」――NHK時代劇にもなった傑作時代小説シリーズ『峠 慶次郎縁側日記』が復刊!作家・村松友視氏による文庫解説を特別公開
元南町奉行所の同心・森口慶次郎が市井の弱き者に寄り添う、人情時代小説シリーズ、北原亞以子著『峠 慶次郎縁側日記』(朝日文庫)が発売になりました。本作は、善良な薬売りの若者が一瞬の過ちで人生を踏み外してしまう悲哀を描く中編小説「峠」など8編を収録しています。今回の出版にあたり、著者の北原亞以子さんと親交のあった作家・村松友視氏による文庫解説を公開します。 毒は上澄みとなって表面に浮上するか、澱となって底に沈むかで、中間には存在しない。したがって毒見の役は、まず上澄みをたし
【大河ドラマ「どうする家康」をウラ読み】天下人・豊臣秀吉の正室おねねの生涯を描いた、傑作歴史小説『王者の妻』復刊!大矢博子氏による文庫解説を特別公開
今年(2023年)1月、永井路子さんが亡くなられた。 ――という一文からこの解説を書き始めねばならないのが、とても残念だ。享年97は一般には大往生と言えるかもしれないが、永井さんに関してはもっともっと作品を読みたかった、考えを聞かせて欲しかったという思いが拭えない。それはひとえに、彼女が常に歴史に新たな視点を与えてくれる作家だったからだ。 来歴やデビューの経緯については前掲の尾崎秀樹先生の紹介に詳しいので割愛するが、男性作家が大半だった歴史小説の世界に於いて、有吉佐