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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#文芸

大型新連載3本に充実の創作、林芙美子文学賞受賞作も掲載!<「小説TRIPPER」2022年春季号ラインナップ紹介>

◆新連載小説 貫井徳郎 「ひとつの祖国」  第二次大戦後、日本は大日本国(西日本)と日本人民共和国(東日本)に分断された。ベルリンの壁が崩壊する頃、日本もひとつの国に統一されたのだが格差は埋まらず、再度、東日本の独立を目指すテロ組織が暗躍し……。パラレルワールドを舞台にした社会派エンターテインメント巨編。 田中慎弥 「死神」  死のうとするからあいつが現れるのか、あいつと出会ったから死にたくなるのか……うだつの上がらない「作家」である私の人生の折々に登場してくる、死神。中

胎児が「生まれるかどうか」を決める世界が与える衝撃<芥川賞作家・李琴峰インタビュー>

■出生は祝いか、呪いか ――芥川賞受賞第一作の『生を祝う』は、生まれる前の胎児に出生の意思を確認する合意出生制度が確立された世界が舞台になっています。この構想はどういうきっかけで生まれたのでしょうか? 李琴峰(以下、李):直接のきっかけは、去年「S-Fマガジン」(2021年年2月号)で百合特集が組まれたとき、櫻木みわさんと一緒に百合SF書いたことです。どういう小説にしようかとプロットを考えているときに、思いついたアイディアが二つあって、一つが『生を祝う』で、もう一つが白蛇

第8回 林芙美子文学賞 受賞作が決定!

受賞の言葉  長い間、周りから理解されず苦しんだ。孤立するたびに「私はあなたたちとは違う」と思える何かが欲しかった。  初めて書き上げた小説を手にした時、自分で自分を特別な存在だと認めた。  私にはこの物語がある。そう思うだけで、勇気が湧いた。  今回、多感な時期を過ごした九州の文学賞で、選考委員の先生方に自分の小説を読んでもらえたことが何よりとても嬉しく、また評価されたことも嬉しいです。  どうもありがとうございました。 受賞者プロフィール 小泉綾子(こいずみ・あ

【江上剛『創世の日 巨大財閥解体と総帥の決断』】刊行記念エッセイ

 この二年ほど、コロナ禍で私たちは窮屈な暮らしを強いられている。またコロナに罹患して亡くなったり、事業が行き詰まったりした人もいる。これがいつまで続くか分からないだけに、「なぜ自分が苦しまねばならないのか」と、理不尽さに怒りを覚えていることだろう。私たちの人生には理不尽さが付きまとっている。災害や戦争で罪のない多くの人々が亡くなる。日常生活でも残忍な事件が発生し、罪のない人が殺される。例えば新幹線車内で、若い男がナタを振り回し、女性を襲った事件があった。その際、女性を助けよう

【桐野夏生著『砂に埋もれる犬』書評】可視化される虐待

 全国の児童相談所(児相)が相談対応した18歳未満の子どもへの児童虐待は、30年連続で増え続け、2020年度で過去最多の20万5029件(厚生労働省調べ)となった。途方もない数字だとしか言いようがない。  桐野夏生氏の新作『砂に埋もれる犬』は、貧困の中での児童虐待、ネグレクト(育児放棄)の問題に正面から向き合った小説だ。  12歳の少年・小森優真、4歳の弟篤人、32歳の母亜紀の3人は神奈川県内の工場の多い街で、亜紀が付き合っている元ホスト北斗さんの狭いアパートで暮らす。小

【伊藤比呂美著『いつか死ぬ、それまで生きる わたしのお経』書評】暮しのもろもろと日々声に出して読みたいお経。

■無のダンスを踊るかんのん  タイトルも、小さなお経のようだ。すぐさま声に出し唱えてみたくなる。いつか死ぬ、それまで生きる――これはわたしたちの合言葉ではないか。それにしても、こんなにたくさんのお経があるなんて知らなかった。本書には、現代語訳によって生々しい命を授けられたお経と、生き死にをめぐるエッセイが収められている。今を生きるものばかりでなく、死んでしまった人々、いきものたち。そして彼らを取り囲む自然、記憶。すべてが息づき、一続きの流れのなかにある。もとはサンスクリッ

【垣根涼介著『涅槃』(上・下)書評】負けないための「弱者の戦略」

 宇喜多直家という戦国武将の名前に聞き覚えがある人は、なかなかの歴史通だろう。備前国でのし上がり、裏切りを辞さない奸雄として語られてきた。 『涅槃』は、その武将に新たな光を当てる長編だ。宇喜多家の嫡男として生まれ、幼くして居城から追われた八郎(後の直家)は、備前の豪商の家で暮らし、その後は仇敵の元に出仕するまで尼寺で過ごした。人格形成の時期に特異な環境に身を置いたことで、直家は「利を求める」という、武将らしくない感性を育んでいく。  武門の家に生まれた以上、武士であること

【伊坂幸太郎著『ペッパーズ・ゴースト』書評】鴻巣友季子「世界の航路に抗う希望の物語」

 人間はすでに定まった宿命から逃れられない、自分たちの意志や努力ではなにも変えられない、という考えは古今にある。ギリシア悲劇、中国の天命説、イスラム教の宿命論や、キリスト教カルヴァン派の予定説など。  実はあの『風と共に去りぬ』の有名なラストの台詞、Tomorrow is another day.の根底にも「人間にはなにも変えられない(だから明日のことまで思い悩むな)」という新約聖書「マタイ福音書」からの考えがある。決して「明日に希望をたくして!」といったポジティブ一辺倒の

※終了※【期間限定 試し読み】伊坂幸太郎『ペッパーズ・ゴースト』

※期間限定の試し読みは終了しました。たくさんの方に読んでいただき、ありがとうございました!  2021年10月に発売された、伊坂幸太郎さんの書き下ろし長編小説『ペッパーズ・ゴースト』。各メディアにも掲載されSNSでも話題になっています。惜しみなく、「伊坂幸太郎」らしさが盛り込まれた本作を、少しでも多くの方にお届けしたいと、今回特別に、期間限定での試し読みを実施します! 2022年1月19日から、4月30日までの公開です。伊坂ワールドにどっぷり浸かってください!

2022年に朝日新聞出版から発売予定の文芸書単行本情報を一挙に解禁します!

■2022年1月7日発売予定 江上剛『創世の日 巨大財閥解体と総帥の決断』  花浦財閥総帥の久兵衛は軍部に非協力的だったために、息子が懲罰的に徴兵されてしまう。1945年の敗戦後、GHQ主導による財閥解体の危機に直面し、苦悩する久兵衛が下した決断とは? 今こそ求められる経営者像を活写する実録長編経済小説!! ▼朝日新聞出版からの既刊本はこちら ■2022年2月発売予定朝比奈秋『私の盲端』  人工肛門によって生活が一変した女子大生の涼子。新たな穴と付き合いながら、飲食店

2022年発売予定の朝日文庫作品の一部を紹介!

『選りすぐりの知性とエンタメ』を旗印に、2022年も朝日文庫は話題作目白押しです。刊行予定の一部をご紹介します。  まずは今年の第一弾として、1月7日、堂場瞬一さんの『ピーク』が発売となります。40歳の社会部遊軍記者が歩んできた人生……男たちは、もう一度、輝くことができるのか。人生の悲哀を知るあなたに読んでもらいたい一冊です。  そのほかにも大沢在昌さん『帰去来』(2月予定)、貫井徳郎さん『迷宮遡行』(3月予定)、真保裕一さん『繋がれた明日』(5月予定)など骨太な作品が