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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#一冊の本

大人が読んで面白い『ガリバー旅行記』。柴田元幸さんのみごとな翻訳が生み出した魅力を、英文学者・阿部公彦さんが読み込む

■奇妙なガリバーが生み出すむずむずする魅力 『ガリバー旅行記』という書名をはじめて聞くという人はあまりいないだろう。しかし、「内容は?」と訊かれると言葉に詰まるかもしれない。漱石の『坊っちゃん』などとならび、この本は「子供の頃に読んだきり、手に取っていない本」ランキングでいつも上位にくる。出会いが早すぎて、損をしてきた。  あらためて強調したい。『ガリバー旅行記』は子供が読んでもおもしろいが、大人が読んだらもっとおもしろい。しかも、変におもしろいのだ。  この変さを生み

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※終了※【特別公開】夢枕獏氏「キマイラ」完結へ! 40年続く人気シリーズが1年半の休載を経てついに再開/「聖獣変 第1話」を期間限定公開

※特別公開は終了しました。たくさんの方に読んでいただき、ありがとうございました。 ※特別公開は終了しました。たくさんの方に読んでいただき、ありがとうございました。引き続き「一冊の本」での連載をお楽しみください。

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タイガーバームのにおいとお風呂場の魚たち 柚木麻子さんが眠れない夜に思い出す祖母のこと

■夜の釣り堀  40歳になってから、とくに理由もなく、一睡もできないまま朝を迎えることが頻繁にある。ちなみに昨日もまったく眠れなかった。これはまずい、とあらゆる病院にいってみて、色々な方法を試した結果、漢方薬で徐々に体質を改善していくという方向に今のところ落ち着いている。睡眠導入剤は私には強すぎて、翌日、仕事にまるで集中できなくなるのだ。はじまりは去年の秋。全然眠れない夜がなんの前触れもなく、3回続いた時は、ショックとパニックで自分が自分ではなくなり、最後はデビッド・リンチ

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福岡伸一が紡いだ新しい「ドリトル先生」誕生!『新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う』刊行記念随筆を公開

少年時代の夢がもたらした未来  思い続けていれば、かなう夢がある。少年時代の夢が、なんと還暦を迎えようとする頃に実現した。しかも、それが立て続けに起きた。私には、一生に一度でいいから、実際に行ってこの目で確かめたい場所があった。ひとつは、台湾の離れ小島、紅頭嶼(現在名、蘭嶼)、もうひとつは太平洋赤道直下のガラパゴス諸島である。どちらも絶海の孤島、といってよい。  小学校高学年のことだった。図鑑で、驚くほど優美な、大型のアゲハチョウの写真をみた。その名をコウトウキシタアゲハ

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【井上荒野著『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』書評】セクハラが起こる現場の空気を克明に描く問題作

■生皮を剥いで社会の膜を破る  恋愛、合意、セクハラ、レイプ。  同じ行為について、これほど違う言葉で表されることはそれほど多くないだろう。だからこそ、被害者がどれほどその苦しみを語っても、加害者や第三者は平気でこんな言葉を投げかける。  それくらいたいしたことないだろう――。  どうして被害を受けた者と加害者との間に、これほど大きな認識の溝ができるのか。 『生皮』は、この意識のずれに迫った小説である。芥川賞作家を送り出した小説講座の人気講師を、かつての受講者が性暴

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芥川賞作家・李琴峰「死と生の随想」【『生を祝う』刊行記念エッセイ】

 二〇一六年四月のある朝、都心へ向かうすし詰めの通勤電車に私はいた。  よく晴れた日だった。線路沿いの桜並木が咲き乱れ、燦々と降り注ぐ陽射しを受けきらきらと輝いた。誰かに輝度を上げられたかのように世界は明るく見えるのに、電車の中は窮屈で息苦しかった。  年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず――日本に渡って二年半が過ぎ、桜の満開になる様も幾度となく目にしてきた。花期の早晩こそあれ、花の咲く様は実に大して変わらないが、振り返ると、自分自身の立場や、自分を取り巻く様々な環境

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