#一冊の本
『源氏物語』が面白いだけでなく悲しみにも効く理由を、「こころ」の言葉に照準を絞り解きほぐした帚木蓬生さんの『源氏物語のこころ』/尾崎真理子さんによる書評公開
悲しみに効く、言葉の妙薬として『源氏物語』ばかりは、既成の現代語訳を読み通せば、それで終わりとはならない。全体の筋を頭に置くのはその世界への参加最低条件であって、そこからが面白いのだ。 幾種かの解説書に目を通して、一応の知識を得たつもりでも、十年、二十年に一度は必ず、『源氏』絡みの話題作が現れるのもこの作品の特別さ。しかも、社会の風潮や研究の進展によって、これほど評価や解釈が変わり続けてきた物語もないから、ブームのたびに新たな知識を得る楽しみも生じる。大河ドラマ「光る君へ
永井路子さんが描いた藤原道長と能信が「望みしもの」とは? 朝日文庫『望みしは何ぞ』刊行記念! 文芸評論家・細谷正充さんが読み解く『この世をば』『望みしは何ぞ』
道長のイメージを一変させた歴史的名著 今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」の主役は紫式部である。そのため紫式部や、その周囲の人々に、あらためて注目が集まっている。ドラマで紫式部のソウルメイトになる藤原道長も、そのひとりだ。そして道長の描き方も、昔と比べるとずいぶん変わったものだと、感慨深いものがあった。 そもそも道長のイメージは、非常に悪かった。彼が、娘三人を天皇の后とし、三人の天皇の外祖父となったことは、周知の事実であろう。このため娘を政治の駒として使い、天皇家に強い
【祝・本屋大賞2024第3位&第9回渡辺淳一文学賞受賞!】「生きている」重みと「生きてきた」凄み/塩田武士著『存在のすべてを』池上冬樹氏による書評を再公開
塩田武士といえば、グリコ・森永事件を題材にした『罪の声』(2016年)だろう。迷宮入りした事件を、脅迫状のテープに使われた少年の声の主を主人公にして、犯罪に巻き込まれた家族と、未解決事件を追及する新聞記者の活躍を描いて、厚みのある社会派サスペンスに仕立てた。週刊文春ミステリーベスト10で第1位に輝き、第7回山田風太郎賞を受賞したのも当然だった。 『罪の声』から6年、新作『存在のすべてを』は、『罪の声』を超える塩田武士の代表作で、いちだんと成熟して読み応えがある。物語はまず
福島在住の僧侶作家が「桃太郎」を介して見た、震災後、コロナ禍、そして戦渦の前の”ユーウツ”と”鬼”の正体 / 玄侑宗久著『桃太郎のユーウツ』刊行に伴う随筆
このたび朝日新聞出版から、『桃太郎のユーウツ』という小説集を上梓した。中短六作から成る作品集だが、通常の作品集のように連作ではないし、掲げた通しテーマがあったわけでもない。ただ全体を通読したとき、総タイトルは『桃太郎のユーウツ』だと、すんなり思えた。その辺の思いをそぞろ書いてみたい。 桃太郎とはいったい誰なのか、それは高校時代からずっと気になっていた。正直に言うと、私は高校生の頃友人二人と密かに「桃太郎研究会」なる同好会をつくり、放課後の教室で各種「桃太郎」を読み比べ、
ステージ4のがん患者、「ガン遊詩人」の鎌田東二・京都大学名誉教授が、島薗進さんの『死生観を問う 万葉集から金子みすゞへ』を評す
「あなた自身の死生観」のために、多大なヒントと気づき 島薗進さんとは半世紀の付き合いだ。二十代の半ばに宗教社会学研究会で初めて出会って以来、さまざまな局面で伴走してきた。 その50年近くの島薗進の学道探究の旅路を間近に見て来た者として、最新著『死生観を問う 万葉集から金子みすゞへ』は、折口信夫研究(修士論文)から死生学研究(東京大学COE拠点リーダー)を経て、グリーフケア研究に参入してきた「島薗学」の総括とも集大成とも言える渾身の一冊であると受け止めている。島薗進の眼
「久米宏は罪深い」の真意とは? 久米氏初の自叙伝『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』をライター・テレビっ子の戸部田誠(てれびのスキマ)さんがレビュー!
久米宏は罪深い――。 そう僕は思っていた。なぜならテレビのニュースを「わかりやすいもの」に変えてしまったからだ。それまでニュース番組は視聴率競争とは無縁のものだった。そもそも数字が獲れる発想はなかったのだ。そんな中、1985年に始まった久米宏がキャスターを務める『ニュースステーション』は、その「面白さ」で高視聴率を獲得。他のニュース番組も視聴率獲得を目指すようになった。 本作は、「『土曜ワイドラジオTOKYO』『料理天国』『ぴったしカン・カン』『ザ・ベストテン』『お