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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#書評

明日も生きていくために、この物語が必要な人がどこかにいる…新川帆立さんによる書評『カサンドラのティータイム』(櫻木みわ著)

『カサンドラのティータイム』は 11月11日(金)まで期間限定で全文公開中 届かぬ声が届くとき  イソップ寓話「嘘をつく子供」をご存じだろうか。「オオカミが来た!」と嘘をつき続けた結果、本当にオオカミが来たときも信じてもらえず、オオカミに襲われてしまう。いわゆる「オオカミ少年」の話である。常日頃から嘘をついていると、もしものときに誰も信用してくれない。だから嘘をつくのはよくない、という寓意を含んでいる。  だがもし、少年の村にSNSがあったらどうだろう。何百万人という人

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大人が読んで面白い『ガリバー旅行記』。柴田元幸さんのみごとな翻訳が生み出した魅力を、英文学者・阿部公彦さんが読み込む

■奇妙なガリバーが生み出すむずむずする魅力 『ガリバー旅行記』という書名をはじめて聞くという人はあまりいないだろう。しかし、「内容は?」と訊かれると言葉に詰まるかもしれない。漱石の『坊っちゃん』などとならび、この本は「子供の頃に読んだきり、手に取っていない本」ランキングでいつも上位にくる。出会いが早すぎて、損をしてきた。  あらためて強調したい。『ガリバー旅行記』は子供が読んでもおもしろいが、大人が読んだらもっとおもしろい。しかも、変におもしろいのだ。  この変さを生み

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思わず「そうくるか!」と叫んだ一冊・河崎秋子著『介護者D』は、親とのしんどい関係を変える介護物語だ。トミヤマユキコさんによる書評を特別公開

思わず「そうくるか!」と叫んだ一冊  東京で派遣社員をやっている琴美は、父親を介護するため30歳にして北海道の実家に戻った。母親は5年前に交通事故で亡くなっており、妹はアメリカにいるので、介護要員にカウントするのは難しい。東京での琴美は、大きな仕事を任されていたわけでも、生涯を共にするパートナーがいたわけでもなかった。しかし、だからって、喜んで実家に戻れたわけではない。なぜなら、大事な「推し」がいるから……。  琴美は、アイドルグループ「アルティメットパレット」のメンバー

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「虐待の連鎖ではなく、苦しみへの共感」女優・作家の中江有里さんによる丸山正樹著『キッズ・アー・オールライト』書評を特別公開!

ヤングケアラーたちの心の叫び  大人は子を守るもの──その前提に立てば虐待される子やヤングケアラーは存在しないはず。  しかし近年は子供の人権を損なう事例が多く、社会問題となっている。世の中は性善説では成り立たない。  本書には様々な問題を抱えた子供の事情が描かれるが、その子供を庇護する大人、逆に追い詰める大人たちの物語でもある。  子を庇護する側の河原はNPO法人「子供の家」の代表。子供を守るためには子供たちの声なき声を聞き取っていくしかない。ある日ネットに書き込ま

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衝撃的な冒頭シーンから引き込まれる一冊! 真保裕一『英雄』内田剛さんによる書評を特別公開

■戦後史の空気を再現した傑作サスペンス  なんと濃密なファミリーストーリーなのだろう。昭和から平成、そして令和という時代を貫く、堂々とした風格を感じる傑作の誕生だ。作家が紡ぎだした創作物であると同時に時代が生み出したドラマティックな一冊であると言ってよいだろう。むせ返るような時代の空気をそのままに再現させ戦後史を貫く迫真の物語。真のリーダーが不在となり混沌とした時代の節目にこの『英雄』が登場したことには大きな意味があるのだ。  本書は「小説トリッパー」連載をまとめた一冊だが

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困窮する子どもたちを知り、自分の傲慢さに気付かされる…丸山正樹『キッズ・アー・オールライト』藤田香織さんによる書評を特別公開

「絆」という言葉を見聞きした際に、美しさよりも息苦しさを感じることはないだろうか。  特に「家族の絆」は、取り扱いに注意が必要だ。その褒め言葉は牽制ではないか。その献身は犠牲ではないのか。はた目には見えない鎖が、じわじわと誰かの首を絞めつけているのではないか。そんなことは考えたこともない、というのであれば、本書『キッズ・アー・オールライト』を手に取って欲しい。  家のために、家族のために、親や弟妹のために、自分を犠牲にし、いや犠牲にしているという自覚さえないまま毎日を過ごし、

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高橋源一郎著『ぼくらの戦争なんだぜ』週刊朝日掲載の奈倉有里さんによる書評「『怖い』の正体を直視する」を特別公開!

 私たちは人生のなかで、戦争のことをどのくらい考えてきただろう。子供のころ「昔、大きな戦争があった」と知る。学校の歴史の授業では人類が繰り返してきたたくさんの戦争を知り、ニュースではいつも世界のどこかで起きている戦争を知る。でも戦争についてほんとうに考えるのは決して易しくはない。自分が殺したり殺されたりする可能性が目の前にあるくらいの「近さ」で戦争を考えると、身がすくむような恐ろしさがある。この「怖い」の正体はなんだろう。  この本は丁寧な本だ。私たちが「遠い」とか「近い」

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直木賞作家・辻村深月著『傲慢と善良』書評まとめ

評者・立花ももさん「ダ・ヴィンチ」(2019年4月号:デビュー15周年記念 辻村深月特集) 評者・大森望さん「週刊新潮」(2019年4月11日号) 評者・池上冬樹さん「日経新聞」(2019年4月27日) 書評「夕刊フジ」(2019年5月11日掲載) インタビュー「好書好日」(聞き手・瀧井朝世さん) インタビュー「週刊朝日」(聞き手・仲宇佐ゆりさん) インタビュー「毎日新聞」(聞き手・内藤麻理子さん) そのほか「西日本新聞」、「週刊文春」、「オレンジページ」、「ク

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高山羽根子著・単行本『如何様』大澤聡氏による書評「ポスト・トゥルースの彼岸」を特別掲載!

 1947年12月29日、1人の男が死んだ。ハン・ファン・メーヘレン、画家である。のち世界的にその名を知られることになる。ただし、フェルメールの精巧な贋作の制作者として。遡ること2年半前、ナチスの高官ヘルマン・ゲーリングらにオランダの名画を売り渡した罪で起訴され、世間はこのナチス協力者にバッシングを浴びせた。しかし、拘留中の本人の告白と法廷での長期におよぶ実演とによって、売却したのはじつは自身の手になる贋作だったことが判明。すると、憎きナチスに偽物を掴ませた男として、一転、英

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高山羽根子著・単行本『オブジェクタム』小川哲氏による書評「文学の美しさと儚さ」を特別掲載!

 高山さんがトリッパーで新作を書いたらしいと聞き、手にとってみると「オブジェクタム」というラテン語風の仰々しいタイトルだった。聞いたことのあるような、ないような不思議な言葉だったが、高山さんは美大を出てるから、オブジェとか出てくるのかな、といい加減な気分で読み始めた。そしたら本当にオブジェ的なものが出てきて驚いた。 《オブジェ》とはなんだろうか。もともとは「物体」や「客体」を表すフランス語だったが、シュルレアリスム以降は「非芸術的な物体を利用して制作された美術作品」という意

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芥川賞作家・高山羽根子『オブジェクタム/如何様』書評まとめ

『オブジェクタム』評者・栗原裕一郎さん「小説新潮」(2018年4月12日号) 評者・倉本さおりさん「産経新聞」(2018年10月14日) 『如何様』評者・助川幸逸郎さん「産経新聞」(2020年1月19日) 評者・大竹昭子さん「小説新潮」(2020年1月30日号) 評者・宮部みゆきさん「読売新聞」(2020年2月16日) 評者・鴻巣友季子さん「毎日新聞」(2020年3月1日) 評者・間室道子さん「DAIKANYAMA T-SITE」 その他、「北海道新聞」「神戸新

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セクハラの実態を多面的に描き、各紙誌で大反響!文芸評論家・池上冬樹さんによる、井上荒野著『生皮』の書評を先行公開

■再生の光景 池上冬樹  副題を見たとき、少し論文めいて適当ではないと思ったのだが、「光景」が様々な視点から捉えられていて違和感がなくなった。「あるひとつ」の光景ではなく、「あるひとつの典型として」の光景であるかのような力ももつ。  動物病院の看護師の柴田咲歩は、夫にいえない秘密を抱えていた。生理がこないのを恐れていた。不倫したわけでも、夫を愛していないわけでもなく、妊娠をおそれていた。子供が好きなのに、子供を産みたくないのだ。なぜなら、自分の体がきらいだから。汚れている

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芥川賞受賞作「むらさきのスカートの女」書評まとめ

令和最初の芥川賞を受賞した今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』がいよいよ6月7日に文庫化されます。様々な解釈ができると芥川賞の選考会がわいた話題作。単行本時の書評をまとめてみました。 評者・村田紗耶香さん「読売新聞」(2019年7月28日) 評者・藤田香織さん「東京新聞」(2019年7月14日) 評者・佐々木敦さん「東京新聞」文芸時評(2019年3月28日) 評者・佐々木敦さん「東京新聞」文芸時評(2019年8月1日) 評者・本田由紀さん「朝日新聞」(2019年

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【井上荒野著『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』書評】セクハラが起こる現場の空気を克明に描く問題作

■生皮を剥いで社会の膜を破る  恋愛、合意、セクハラ、レイプ。  同じ行為について、これほど違う言葉で表されることはそれほど多くないだろう。だからこそ、被害者がどれほどその苦しみを語っても、加害者や第三者は平気でこんな言葉を投げかける。  それくらいたいしたことないだろう――。  どうして被害を受けた者と加害者との間に、これほど大きな認識の溝ができるのか。 『生皮』は、この意識のずれに迫った小説である。芥川賞作家を送り出した小説講座の人気講師を、かつての受講者が性暴

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