2024年5月の記事一覧
「認知症の人をどこまで治療すればいいのか」読者に突きつけ続ける難題…現役医師による医療サスペンスの傑作『生かさず、殺さず』/日髙明氏による解説を特別掲載!
「認知症小説」で、タイトルが『生かさず、殺さず』。なんだか不穏だが、読み終わると、たしかにこの小説は「生かさず、殺さず」の物語だと思える。 久坂部羊さんには本作のほかに、認知症をテーマとした作品がある。『老乱』(2016年)は、認知症が進行していく戸惑いや怒りを本人とその家族という二つの視点で活写していた。『老父よ、帰れ』(2019年)は、認知症になった父親を自宅で介護する家族の苦労や近隣との摩擦を描いていた。 本人、家族、地域の人々の立場で認知症を扱ったこれらの作品
「10年間、お忙しいあなたの代わりに読んできました」という斎藤美奈子の最新刊『あなたの代わりに読みました』ってどんな本? 「はじめに」特別公開!
ネット書店の検索で「読書」と入力すると、ざっと1万件がヒットする。読書の効用を説いた本、効果的な読書術をレクチャーした本、古今東西の必読書を列挙した本。 驚きました。世の中には読書先生がこんなにいたのか! 彼らは唱える。書物は人類の知恵の宝庫、教養が身につくのは読書だけ、よりよい人生は読書から。その通り! しかし半面それは「教えたがり」が世の中にいかに多いかを示してもいる。同様に「教えたがり」が群雄割拠しているのは文章術の世界で、そのため私はかつて文章先生本を茶化した不埒
「読んで書く生活、または火曜日の地獄」 斎藤美奈子さん『あなたの代わりに読みました 政治から文学まで、意識高めの150冊』刊行記念エッセイを特別公開!
子どものころ、私は読書感想文がわりと得意だった。相手のニーズ(教師が何を求めているか)が子どもながらにわかったからだ。なので心にもないことを書くのも平気だった。 だが後に、読書感想文というものを客観的に分析する機会を持って、私のような賢しらな子どものインチキ作文には何の価値もないことがわかった。読書感想文とは、本についてではなく「本を読んだ私」について書くもので、いわば1種の体験記だからである。 今年で70回目を迎える「青少年読書感想文全国コンクール」(主催/全国学