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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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2024年2月の記事一覧

【な、な、な、なんだこの才能は!?】長井短・著『私は元気がありません』「衝撃」の感想ぞくぞく

冒頭一部を下記にて公開しております! ■書店員さんコメントな、な、な、なんだこの才能は!?長井短さんってすごい!!! 初の小説集だなんてちょっとびっくりするくらい、おもしろかったです!  世間の当たり前や建前やスタンダードに、意識的に、あるいは無意識に、合わせていくときのざわつく心。日常の中で突然始まる台本、グループにふさわしい自分。物語の彼女たちに対して、”自分と似ている”とは思わないのに、自分の中をよく探してみれば奥に潜んでいそうな、”そう言えば、そう!”と気付かせて

第10回 林芙美子文学賞 受賞作が決定! 佳作受賞作の冒頭を特別公開します。

受賞の言葉 「小説は軽い」。そう信じています。よく書けた小説は頁越しに世界を小さくし、私の全実存に安心をくれる、と。  かつて、故郷・福島からの一時避難中、私はいつも(バニヤンの主人公や地球座のヘラクレスよろしく)大きな青いバッグを背負っていました。その中には当時描いていた漫画の原稿用紙、アイデアを書き溜めた自由帳、聖書などが入っていて、つまり私の全てが詰め込まれていたわけですが、どうもあの重みが、今まで私に小説を書かせてきたように思うのです。  今回はその歩みに、一種の巡

第10回 林芙美子文学賞 受賞作が決定! 大賞受賞作の冒頭を特別公開します。

受賞の言葉  一九九七年、大学三年の時に親のワープロを借りて感熱紙に原稿用紙五十枚の小説を書いて、それからは書いて、書いて、夏休み二ヶ月閉じこもって書いて、社会に放り出されて書いて、バイト先のレジでしゃがみ込んで書いて、お腹痛いふりしてトイレで書いて、カフェの真冬のテラス席で耳栓して書いて、就職して書いて、独立して書いて、書けなくなって、また書いて、そうして生まれた、世に出られなかった数百人の登場人物たちの繋がりの果てにいる今作の彼ら彼女らが、今回ようやく日の目を見ることに

「未来は予測はできないが仕掛けることはできる」/スティーブン・ジョンソン著、大田直子訳『世界をつくった6つの革命の物語』安宅和人さんによる解説を特別公開!

 ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』、ルイス・ダートネルの『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』など、様々な分野を横断して、俯瞰しつつ、世界を書き下ろすという日本にはないジャンルの本が欧米には存在するが、この本はその一冊だ。  この本を手に取られた人はすぐに『世界をつくった6つの革命の物語』というからてっきりフランス革命みたいな話が出てくるのかと思ったら、全くそうではないことに気づくだろう。もともとのお題は“How

「これほど強い愛の言葉を私は知らない」林真理子さんが感嘆した作家夫婦の壮絶で静謐な愛/小池真理子著『月夜の森の梟』文庫解説を特別公開

 小池真理子さんの『月夜の森の梟』は、朝日新聞紙上で、2020年から連載された。たちまち大変な反響を呼び、終了後に特集記事が組まれたことを記憶している。  が、私はものを書く人間なので、少し別の感想を持った。単に「感動した」「自分も亡くした大切な人を思い出した」というわけにはいかない。まず私が持ったものは「すごいなあ」という感嘆である。  愛する夫を亡くした、というエッセイであるが、一回として同じ切り口がない。全く読者を飽きさせることなく、この連載を続けることに、どれほど

なぜ一作目の主人公は子供なのか?江國香織さんが“極度の”方向音痴から思考を巡らす刊行記念エッセイ/最新小説『川のある街』

 子供のころに住んでいた街のことをよく憶えている。通学路や公園、商店街は言うにおよばず、子供には縁のない場所――運輸会社、産婦人科医院、質屋、雀荘、着付教室、琴曲教室、煙草屋、月極駐車場など――がどこにあるか知っていたし(「明るい家族計画」と銘打たれた自動販売機が二か所にあることも知っていた。一体何を売っているのかは見当もつかなかったけれども)、どの家の庭にどんな花が咲いているかや、ある家のレンガブロックが一つ緩んでいて、隙間に小さな物を隠せることも知っていた。なぜか表札を読