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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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2023年11月の記事一覧

冬季号は創作が1本に、新連載もスタート! 連載、連作3本堂々完結。評論も充実!〈「小説TRIPPER」2023年冬季号ラインナップ紹介〉

◆創作屋敷葉 「常時録画の愛」  将来を約束した恋人でもなく、一生食べていける仕事でもない。「交際」を「職業」にしているカップルYouTuberの雪葉と晃。偶然バズった動画配信を中途半端な気持ちのまま続ける二人だが、晃が化粧水のプロデュースに乗り出したことで、雪葉は「お笑い」への道を意識しはじめる。真の「相方」を探す現代の成長小説。 ◆新連載真保裕一 「共犯の畔」  ある国会議員の事務所で立て籠もり事件が発生、犯人はあっさり逮捕されるが黙秘を貫く。やがて33年前に行われ

【累計40万部突破!】群ようこさんの大人気「生活」シリーズ最新文庫『たべる生活』が発売

■最新文庫『たべる生活』  とにかく体は、たべるものでできている――。料理はどちらかというと嫌いだと語る群さんが、自分の身体を一番心地よい状態に保てるよう、〈たべること〉にとことん向き合った「食」エッセイ。「自分で御飯を作るということは、“米と味噌さえ家にあれば大丈夫”という気持ちの根っこができること」。 ■やたらとしんどいときこそ、ぬるーく。シリーズ第1作『ぬるい生活』  年齢を重ねるにつれ、体調不良、心の不調など、様々な問題は出てくるもの。そんな“ままならなくなって

ステージ4のがん患者、「ガン遊詩人」の鎌田東二・京都大学名誉教授が、島薗進さんの『死生観を問う 万葉集から金子みすゞへ』を評す

「あなた自身の死生観」のために、多大なヒントと気づき  島薗進さんとは半世紀の付き合いだ。二十代の半ばに宗教社会学研究会で初めて出会って以来、さまざまな局面で伴走してきた。  その50年近くの島薗進の学道探究の旅路を間近に見て来た者として、最新著『死生観を問う 万葉集から金子みすゞへ』は、折口信夫研究(修士論文)から死生学研究(東京大学COE拠点リーダー)を経て、グリーフケア研究に参入してきた「島薗学」の総括とも集大成とも言える渾身の一冊であると受け止めている。島薗進の眼

NHK大河「光る君へ」をより深く楽しめる一冊!永井路子著『この世をば 藤原道長と平安王朝の時代 上・下』澤田瞳子さんによる文庫解説を特別公開!

 英雄を一点非の打ちどころのない人物として描くことは、非常にたやすい。なぜなら英雄とは凡人の予想もつかぬ人間であるがゆえに英雄たりえ、突飛な行動も非論理的な言説も「英雄」という設定の前には、すべて許されてしまうからだ。  難しいのはむしろ、英雄をただの平凡な生身の人間として描くこと。超人であれば遭わぬであろう悩み苦しみ、ただ人であるがゆえの苦悶……生身の人間を余さず文章を以て捉えるには、残酷なまでにひたむきな観察と精緻な描写が必須となる。  本作において永井路子は、平安中

大矢博子さんが「夫婦」をテーマに編んだ名作短編集『朝日文庫時代小説アンソロジー めおと』文庫解説を特別公開!

 時代小説の醍醐味は、現代とは異なる文明、異なる社会システム、異なる価値観の中で暮らす人々が描かれているという点にある。  中でも結婚の制度は時代によって大きく変わってきた。たとえば江戸時代をとってみても、結婚のシステムやそこに求められる夫婦像も、民法の内容に至るまで、今とはかなり異なっている。  本書では、そんな異なる社会に生きる「夫婦」に焦点を当てて、6作をセレクトした。武家の夫婦ものと町人の夫婦ものが3作ずつ。新婚から歳月を重ねた老夫婦まで、明るく微笑ましい夫婦から

「本、とりわけ歴史小説の未来について」 火坂雅志・伊東潤著『北条五代 上・下』刊行エッセイで伊東潤氏がその想いを熱く綴る!

 本が売れなくなったと言われて久しいが、1996~97年をピークにして、紙の本の売り上げは減り続けている。2020年頃のコロナ禍の巣ごもり需要でいったん下げ止まったものの、微減状態は続いている。とくに情報性や緊急性の低い文芸本の需要は、依然として下げ止まっていない。  考えてみれば、周囲を取り巻くすべてが便利になった社会で、文字を読むという行為だけは文字ができた氷河期から変わらず、電子書籍が登場しても、その手間が改善されたわけではない。  最近はAudibleと呼ばれる、

「誰かひとりが思索を深めるだけで、ここまでインパクトのある仕事ができるのか」社会学者の橋爪大三郎さんが「勇気をもらった」と激賞する、東浩紀さん話題の新書『訂正する力』書評公開

訂正する力、訂正できない人びと 『訂正可能性の哲学』(ゲンロン)を2023年8月に出版したばかりの東浩紀氏の、語り下ろしだ。聞き手は辻田真佐憲氏、構成も手がけている。できた原稿にもう一度東氏がすっかり手を入れたのが、本書『訂正する力』である。二人のコンビが絶妙で、なめらかプリンのような仕上がりだ。のど越しがよく、しっかり栄養もとれる。これまでの東氏の手強い文章と違い、すらすら読みやすい。  なぜいま「訂正可能性」なのか。混乱する世界を導くこの概念の誕生の秘密を、本書は丁寧