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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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2023年10月の記事一覧

「久米宏は罪深い」の真意とは? 久米氏初の自叙伝『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』をライター・テレビっ子の戸部田誠(てれびのスキマ)さんがレビュー!

 久米宏は罪深い――。  そう僕は思っていた。なぜならテレビのニュースを「わかりやすいもの」に変えてしまったからだ。それまでニュース番組は視聴率競争とは無縁のものだった。そもそも数字が獲れる発想はなかったのだ。そんな中、1985年に始まった久米宏がキャスターを務める『ニュースステーション』は、その「面白さ」で高視聴率を獲得。他のニュース番組も視聴率獲得を目指すようになった。  本作は、「『土曜ワイドラジオTOKYO』『料理天国』『ぴったしカン・カン』『ザ・ベストテン』『お

「『悪逆』は面白い。文句なしに面白い。絶対のお薦めだ」文芸評論家・池上冬樹さんが太鼓判を押す、本年度最注目のクライム・サスペンス!【黒川博行著『悪逆』書評】

カタルシス vs.ピカレスクの魅力  黒川博行の小説は読みとばせない。軽妙ですいすい読めるのに、台詞の一つひとつに味があり、笑いがあり、キャラクター描写の冴えがある。相変わらず語りの巧さは天下一品で、大胆で不埒なストーリー、賑々しいキャラクターの妙、リズミカルで生き生きとした会話が素晴らしく、笑いながら頁を繰っていく。退屈に思えるところなど微塵もない。さすがは「浪速の読物キング」(伊集院静)だ。  物語はまず、殺し屋が広告代理店元社長大迫を殺す場面から始まる。綿密に計画を

【今年も開催!朝日文庫の秋の時代小説フェア】ラインナップを一挙公開!

■朝井まかて『グッドバイ』  長崎の油商・大浦屋の女あるじ、お希以──のちの大浦慶。黒船来航騒ぎで世情が揺れる中、無鉄砲にも異国との茶葉交易に乗り出し、一度は巨富を築くが、その先に大きな陥穽が待ち受けていた──。実在の商人・大浦慶の生涯を円熟の名手が描いた、傑作歴史小説。 ■伊東潤『江戸を造った男』  明暦の大火の折に材木占買で財を成した商人・七兵衛(河村瑞賢)は、海運航路整備・治水・潅漑・鉱山採掘などの幕府事業を手がけ、その知恵と胆力で難題を解決していく。新井白石をし

※終了※【24時間限定試し読み】ひとが、より良く生きるための力。そして、この国が、より良くなるための力とは?/東浩紀『訂正する力』第1章までを公開!

※24時間限定試し読みは終了しました。たくさんの方に読んでいただき、誠にありがとうございました!  株式会社ゲンロンの創業者で、批評家の東浩紀さんによる新刊『訂正する力』が、2023年10月13日(金)に朝日新書から発売します。この夏にゲンロンから刊行したデビュー30周年の集大成『訂正可能性の哲学』は発売するや忽ち重版が決まり、いくつかの書店ランキングでも1位を飾りました。本書は、そこで提示されている「訂正可能性」という考え方について、ふだん哲学に馴染みのない読者にも分かり

1996年刊行の情報編集術のバイブル、松岡正剛著『知の編集工学 増補版』/アップデートにあたり執筆した「序文」を特別公開!

あのころの構想と最近の編集工学 生成AI時代の反撃 この本の単行本初版は1996年7月に刊行された。「情報は、ひとりでいられない。」というサブタイトルで、帯には「自分も世界も編集できる――インターネット時代の〈考える技術〉初公開」とある。  1996年という年は、のちに「失われた10年」と揶揄された時期の半ばにあたっている。世界が宙吊りになっていくだろうことがバレた時期だ。ベルリンの壁が崩壊し、第1次文明戦争ともいうべき湾岸戦争がおこり、日本はバブルがはじけてかなり空疎に

呉座勇一氏が読んだ火坂雅志・伊東潤著『北条五代 上・下』/文庫解説を特別公開!

 戦国時代関東における武田・上杉・北条の三つ巴の戦いは、俗に「戦国関東三国志」などと呼ばれる。だが、川中島の戦いで知られる武田信玄・上杉謙信のライバル関係に比して、北条氏(鎌倉時代の北条氏と区別するため、学界では後北条氏・小田原北条氏と呼ぶことが多い)の存在感は必ずしも大きくない。北条氏を主人公としたNHK大河ドラマはいまだに制作されていない。  戦国時代屈指の有力大名でありながら、北条氏はいささか地味な存在である。けれども親子兄弟骨肉の争いで弱体化したり、優れた後継者に恵

【インタビュー】塩田武士が見た、松本清張の背中 話題作『存在のすべてを』で挑んだ「壁」

「作家には定期的に必ず越えるべき壁が出てくると言いますが、私にとってはそれが『罪の声』でした。以前、作家の湊かなえさんのラジオに出演した時に、湊さんがこれから塩田さんは『罪の声』と闘うことになる、私が『告白』と闘ったように、と言われたことがあるんです。重たいなと思いました」  塩田武士さんが2016年に発表した『罪の声』は、「グリコ・森永事件」をモチーフにしたサスペンス小説だ。週刊文春ミステリーベスト10(国内部門第1位)、第7回山田風太郎賞を受賞するなど一世を風靡し、20