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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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2023年8月の記事一覧

【書店員さんからの感想続々!】素晴らしい読後感に出会える小説だった――宮内悠介さん『ラウリ・クースクを探して』感想まとめ

 コンピュータープログラムに魅せられたラウリ。プログラムだけが彼の友達だった。孤独だったラウリに生涯忘れられない時、切っても切れない友情が輝き出す。国の体制に翻弄されながらも心には確かに彼女、彼らとのつながりが存在した。自分の真の気持ちと彼らの気持ちはすれ違い、途中歯がゆさでいっぱいになった。  読み終わり、こんな人とのつながりがあってほしい。こんな友情があってよかったと心から思った。  わたしの正体を知った時、心が震えて、胸がいっぱいになった。 (ジュンク堂書店滋賀草津店 

※終了※【期間限定公開!】塩田武士著『存在のすべてを』 序章 ―誘拐―

 塩田武士さんが『週刊朝日』に一年以上にわたって連載された渾身の作品『存在のすべてを』が遂に2023年9月7日発売されました。 ※期間限定公開は終了しました。たくさんの方にお読み頂き、誠にありがとうございました。 著者渾身の到達点、圧巻の結末に心打たれる最新作。 『罪の声』に並び立つ新たなる代表作の誕生です。  発売を記念して、「二児同時誘拐」からスタートする「序章 ―誘拐―」を、期間限定で先行公開いたします。緊張感溢れる物語のドライブ感を充分に味わってください!

宮内悠介さんがコンピュータ・プログラミングを通して描く物語/『ラウリ・クースクを探して』刊行記念エッセイ特別公開

 小学生のころ、父の仕事の関係でアメリカにいて、夏休みのたびに一時帰国していた。祖父母の家に泊めてもらい、その近くに住んでいた従兄弟に遊んでもらった。これが、二週間くらいのことであったのか、一ヵ月くらいのことであったのかは、もう記憶にない。ただ、この一時帰国がとても楽しみであったことはよく覚えている。八〇年代の終わりごろのことで、まだ景気がよく、存命だった祖父が車を運転して皆を伊豆につれて行ったりした。池袋のサンシャインシティが好きだった。どこもかしこも明るくて、日本という国

「恋せぬふたり」の脚本家・吉田恵里香さんが、中村航さん最新文庫『サバティカル』を通して向き合えたもの

「分かった気」になっていることが多すぎる。  他人のことも、自分のことも。素直に分からないと言えずに、つい「分かった気」になって、思考を停止させ受け流している。だって毎日の生活があって、自分や家族を養っていかなくてはならないから。そんな風に忙しい日々を理由にして、大半の人間が「分かった気」になっている自分を放置してしまう。では忙しいという言い訳を失った時、我々は「分かった気」になっていることと、どれだけ向き合えるのだろうか。 『サバティカル』の主人公・梶は自分が沢山作って

関ヶ原は家康と三成だけの戦いではない! 安部龍太郎著『関ヶ原連判状』末國善己氏による書評を特別公開

 壬申の乱(672年)後、激戦地の近くに作られた不破関は、鈴鹿関、愛発関と共に古代の三関の一つに数えられている。交通の要衝にあった不破関の近郊は、南北朝時代、京を目指す南朝とそれを阻止する室町幕府が戦った青野原の戦い(1338年)、豊臣秀吉の没後、徳川家康(東軍)と石田三成(西軍)が天下の覇権をかけて争った関ヶ原の戦い(1600年)と何度も有名な合戦の舞台になっている。  家康と三成が激突した“天下分け目”の一戦は、9月15日に始まり僅か半日で東軍が勝利した。ただ激戦地にな

「容赦はないが愛はある」とは一体どういうことなのか? 話題の作家・阿部暁子さんが、作品が大好きという森絵都さん最新刊『獣の夜』について綴ります

 私は森絵都さんほど、やさしい物語を書く人はいないと思っている。ただ、そのやさしさは、甘さや手加減とは無縁のものだ。  本作には7編の短編が収録されている。「雨の中で踊る」は、コロナ禍のさなかにリフレッシュ休暇を取らされた男性が「フットマッサージでも行ってきたら」と妻に送り出される(追い出される)ところから始まり、海パンと海と“セッション”によってこんな場所まで到達するのかと物語の怒涛の広がりに圧倒される。「Dahlia」はわずか5ページのディストピア小説、そこに凝縮された