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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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#解説

夢を追いかけ続け、叶えた藤岡陽子さんだからこそ書けた『メイド・イン京都』 モデルとなったデザイナー・谷口富美さんによる文庫解説を特別公開

 藤岡陽子さんの『メイド・イン京都』(朝日文庫)が刊行されました。  物語のモデルとなった、デザイナー・谷口富美さんが解説を寄せてくださいました。学生時代から藤岡陽子さんを見てきた谷口さんによる解説の全文を掲載します。 「ひさみちゃんをモデルに小説を書かせて欲しい」  藤岡陽子先生にそう言われたとき、背中がじんわり熱くなり、「私の人生でこんなに輝かしいことが起こるのか!」と叫び声が、お腹の底から脳に向かって聞こえ、星屑にあたたかく包まれたようでした。 「ひさみちゃんが

芦沢央さんによる文庫解説全文掲載!!/葉真中顕著『そして、海の泡になる』文庫解説

 解説とは何だろう。  解説の依頼をもらうたびに、願わくば、作品を正しく読み解く上で有用な補助線を提示するようなものでありたいと考えてきた。  だが本書を読んで、その気持ちが揺らいでいる。果たして作品を「正しく」読み解くことなど可能なのだろうか、と。  本書は、バブル期に「ガマガエルのお告げ」によって巨額の株式投資に成功し、バブル崩壊後に詐欺容疑で逮捕されたとされる尾上縫をモデルにして書かれた、朝比奈ハルという一人の女性の人生を巡る物語だ。  まず彼女についての複数の

※終了※児玉清氏による解説を期間限定で特別掲載! "罪と罰"の意味を問うサスペンス巨編、真保裕一氏『繫がれた明日 新装版』

※期間限定公開は終了しました。たくさんの方にお読み頂き、ありがとうございました!

歴史好きにも難解な平安末期を伊東潤氏が“平清盛”を通して描く『平清盛と平家政権』。歴史ライター・西股総生氏による文庫解説を特別公開

 伊東潤氏は、恰幅のよい作家である。  いや、何もルックスのことを言っているのではない。氏の小説は、古代から近世に至るさまざまな時代に題材を取り、また、本書のような史論や紀行物も多い。書くものの幅が広いのだ。  こうした「幅の広さ」を支えているのが、旺盛なリサーチ力であり、何より氏のあくなき好奇心であることは、作品を読めば直ちに理解されるところであろう。  また、一般には知られていないような人物や、細かな事件を掘り起こして題材とした作品もあるが、主役級の有名な人物を、正面から

「せり場」で売られた少女たち 故・森崎和江の代表作『からゆきさん』本当の衝撃【文庫解説:文芸評論家・斎藤美奈子】

「からゆきさん」。漢字で書けば「唐行きさん」。そんな人たちがいたことを、この本ではじめて知った方もいるでしょう。 「からゆきさん」とは、もともとは江戸時代の末期から、明治、大正、昭和のはじめくらいまで、海をわたって外国(唐天竺)に働きにいく人を指す九州西部・北部の言葉でした(唐天竺とは中国とインドを意味しますが、遠い外国の別名でもあったので、「外国に行く」ことを「唐行き」と呼んだのです)。ですが、やがてそれは海外に売られた日本女性の総称に転じます。  からゆきさんの出身地

【待望のシリーズ復刊】北原亞以子による人情時代小説の金字塔『傷 慶次郎縁側日記』 菊池仁氏の文庫解説を特別公開!

    <本書が原作>     時代劇セレクション「慶次郎縁側日記」(主演:高橋英樹)     NHK総合 毎週水曜日 午後3時10分から放送中     ※放送予定は変更になることがあります。  シリーズものとしては、池波正太郎「鬼平犯科帳」と比肩しうる面白さと人気を博した北原亞以子「慶次郎縁側日記」の待望の再刊が始まる。本書はその記念すべき第1巻である。  作者は重い病で病床にありながらも、旺盛な筆力を示していたが、2013年に75歳で急逝した。まずプロフィールを紹介す

貫井徳郎著『迷宮遡行』の法月綸太郎さんによる解説を特別公開!

 十年間勤めた不動産会社をクビになった迫水の許から、ある日突然、妻の絢子が家出する。「あなたとはやっていけなくなりました。ごめんなさい。私を捜さないでください」とだけ書いた置き手紙を残して。親友の後東に励まされ、妻を捜し出す決意を固めた迫水は、身寄りのない絢子の過去を知る歌舞伎町のバーテン新井をたずねるが、新井は何かに脅えているようで、話をした翌日には姿を消してしまう。絢子と新井が相次いで失踪したことに不審を覚え、新井の身辺を探ろうとする迫水の前に、やがて暴力団関係者らしき男