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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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2023年3月の記事一覧

【各紙誌で話題!】朝比奈秋著『植物少女』の書評・インタビューをまとめて紹介!

評者・栗原裕一郎さん「週刊新潮」(2022年10月20日号) 評者・町田そのこさん「一冊の本」(2023年2月号) 評者・杉江松恋さん「小説新潮」(2023年2月号) 「日本経済新聞」書評(2023年2月4日) 評者・高頭佐和子さん「WEB本の雑誌」(2023年2月6日) 著者インタビュー「週刊朝日」(2023年2月6日号) 評者・横田かおり「本がすき。」(2023年2月13日) 評者・江南亜美子さん「朝日新聞」(2023年2月18日) 評者・立花ももさん「R

「津村さんが語るのは、ほかでもない、私たちの生活の肯定のことだと思う。」書評家・三宅香帆さんによる津村記久子著『まぬけなこよみ』朝日文庫版、解説を特別公開!

暦という名の思い出 季節の変わり目だあ、と感じた瞬間、ふわりと昔のことを思い出すことがある。「あ、高校時代もこんなふうに自転車のハンドルを握る手が『寒すぎて痛い』って思ったな」とか、「就職したての春もなんだかもんわりした空気で憂鬱だったな」とか、なんてことない実感が季節の変化によって急に記憶の底から引っ張り出されるのだ。たしかに毎年季節の変わり目はやってきて、そして同じように次の季節にうつってゆく。毎年の夏の記憶が積み重なり、また今年も夏がやってきたとき、重層的な記憶が自分の

【試し読み】PTA活動に保護者会…その前に読みたい、共感必至の子育てエッセイ!村井理子『ふたご母戦記』/「感情的な親」にならない方法

■第2回/粉ミルク・バイクぶちまけ事件 「感情的な親」にならない方法 子どもが小学校に通いはじめてからできたママ友とは、今でも友好な関係を築いている。多くが仕事を持つ親なので滅多に会うことはないが、車ですれ違えば、慣れた手つきでハンドサインを送り合い(今日もおつかれ)、年に1度程度の食事会で会えばブランクなど一切感じさせない、よどみない会話でランチが冷めるほどである。嫁いだ先が農家のお母さんからは、新米の時期になると「新米、どや」といったメッセージが送られてくる。「30キロ

この社会の価値観の偏りを炙り出す…書評家・杉江松恋さんによる【朝比奈秋著『植物少女』書評】

人間の生命をこのように描けるとは 小説が息をしている。生きている。  耳を澄まし、それを聴こう。  朝比奈秋『植物少女』は三層構造を持つ小説だ。第一層にあるのは医療小説としての性格である。  朝比奈は第七回林芙美子文学賞に輝いた「塩の道」で2021年にデビューを果たし、同年に第2作の「私の盲端」(同題短篇集所収。2022年)を発表した。これは腫瘍のため直腸の切除手術を受けた大学生の女性を視点人物とする作品である。人工肛門を使用、つまり新米オストメイトとなった主人公には世

【試し読み】ワンオペふたご育児で追い詰められて…共感必至の子育てエッセイ!村井理子『ふたご母戦記』/粉ミルク・バイクぶちまけ事件 

■第1回/自己紹介:初産で、双子で、高齢出産だ 粉ミルク・バイクぶちまけ事件 育児の何がそこまで大変なの? そもそも、大変だということはわかっていて、それでもあえて出産したのでしょう?と、私自身も何度か言われたことがある。そのたび、何も言い返せず、口ごもるだけだった。悲しい。  今だったら、育児の何がそこまで大変なのだと問われたら、「孤独」が一番辛いのだと大声でハキハキと答えることができる。大変だとわかって産んだのでしょう?と言われれば、それはもちろんわかっていたけれど、

「まず認知症を受け入れる」 医師である作家が描く認知症介護小説『老父よ、帰れ』、著者・久坂部羊さんのエッセイ

他人ごとではない認知症夢の新薬登場か  今年1月、アルツハイマー病の新薬がアメリカで承認されたというニュースが、新聞各紙を賑わせた。日本の製薬会社も関わっており、同社は日本国内での製造販売の承認を厚労省に申請したという。  すわ、夢の新薬登場かと思いきや、報道をよく読むと、アメリカでの承認は「迅速承認」というもので、これは深刻な病気の薬を早く実用化するため、効果が予測されれば暫定的に使用を認めるという制度で、車の免許でいえば“仮免”のようなものらしい。  承認の根拠は症

【試し読み】共感必至の子育てエッセイ誕生! 村井理子『ふたご母戦記』/自己紹介:初産で、双子で、高齢出産だ

初産で、双子で、高齢出産だ  私は日本一大きな湖である琵琶湖のほとりに住む、平凡な主婦。夫と双子の16歳になる男児と、黒いラブラドール・レトリバー(45キロ)とともに暮らしている。  子どもが生まれた直後に、10年以上暮らした京都から、はるばる越してきた。まるで海のように青くて大きな琵琶湖と、雄大な比良山系に挟まれた地域に一軒家を構え、今年で17年目になる。夏は湖水浴客でごった返し、冬はスキーを楽しむ人々の車で国道が混雑するような、いわゆるリゾート地ではあるけれど、地形に高

女優・南沢奈央さんによる、朝井リョウ『スター』文庫解説を特別公開!

 わたしは大学時代、現代心理学部映像身体学科だった。「心理学部だった」というと、「じゃあ人の心読めるの?」と言われるし、「映像を勉強していた」というと「いずれ監督とかやりたいの?」と言われる。そういう人もいただろうが、わたしは人の心も読めないし、監督志望でもない。  では何を学びにいっていたのか説明するのはむずかしいのだが、大学のホームページの言葉を借りるならば、映像身体学は、“映像と身体をめぐる新しい思考と表現を探究する”学問で、2006年に立教大学に新設され、わたしが入学

春号は新連載があり、創作が充実。第9回林芙美子文学賞受賞作も掲載!<「小説TRIPPER」2023年春季号ラインナップ紹介>

◆新連載垣谷美雨 「墓じまいラプソディ」 「絶対にお父さんと同じお墓には入りたくない」  四十九日の法要を目前に控え、突然明らかになった義母の遺言。  先祖代々の墓はどうする? 妻が入るのは見知らぬ親類ばかりの夫の墓?  そもそも、夫婦別姓制度って何で進まないのよ?  笑いながらも身につまされる、明日は我が身の現代墓問題、あなたならどうする? ◆創作篠田節子 「遺影」  グループホームに長く入居していた認知症の義母が亡くなった。遺影に使うことになった写真には、よく見ると