2023年3月の記事一覧
「津村さんが語るのは、ほかでもない、私たちの生活の肯定のことだと思う。」書評家・三宅香帆さんによる津村記久子著『まぬけなこよみ』朝日文庫版、解説を特別公開!
暦という名の思い出 季節の変わり目だあ、と感じた瞬間、ふわりと昔のことを思い出すことがある。「あ、高校時代もこんなふうに自転車のハンドルを握る手が『寒すぎて痛い』って思ったな」とか、「就職したての春もなんだかもんわりした空気で憂鬱だったな」とか、なんてことない実感が季節の変化によって急に記憶の底から引っ張り出されるのだ。たしかに毎年季節の変わり目はやってきて、そして同じように次の季節にうつってゆく。毎年の夏の記憶が積み重なり、また今年も夏がやってきたとき、重層的な記憶が自分の
【試し読み】PTA活動に保護者会…その前に読みたい、共感必至の子育てエッセイ!村井理子『ふたご母戦記』/「感情的な親」にならない方法
■第2回/粉ミルク・バイクぶちまけ事件 「感情的な親」にならない方法 子どもが小学校に通いはじめてからできたママ友とは、今でも友好な関係を築いている。多くが仕事を持つ親なので滅多に会うことはないが、車ですれ違えば、慣れた手つきでハンドサインを送り合い(今日もおつかれ)、年に1度程度の食事会で会えばブランクなど一切感じさせない、よどみない会話でランチが冷めるほどである。嫁いだ先が農家のお母さんからは、新米の時期になると「新米、どや」といったメッセージが送られてくる。「30キロ
【試し読み】ワンオペふたご育児で追い詰められて…共感必至の子育てエッセイ!村井理子『ふたご母戦記』/粉ミルク・バイクぶちまけ事件
■第1回/自己紹介:初産で、双子で、高齢出産だ 粉ミルク・バイクぶちまけ事件 育児の何がそこまで大変なの? そもそも、大変だということはわかっていて、それでもあえて出産したのでしょう?と、私自身も何度か言われたことがある。そのたび、何も言い返せず、口ごもるだけだった。悲しい。 今だったら、育児の何がそこまで大変なのだと問われたら、「孤独」が一番辛いのだと大声でハキハキと答えることができる。大変だとわかって産んだのでしょう?と言われれば、それはもちろんわかっていたけれど、