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朝日新聞出版の文芸書

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書評や文庫解説、インタビューや対談、試し読みなど、朝日新聞出版の文芸書にかかわる記事をすべてまとめています。
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2022年11月の記事一覧

冬号は創作が3本と充実、豪華対談も実現。長期連載2本が堂々完結!<「小説TRIPPER」2022年冬季号ラインナップ紹介>

◆創作江國香織 「川のある街Ⅱ」  川の流れる小さな地方の市街地。海に面したその一帯を縄張りにするカラスたち一羽一羽の生態と、彼らが生息している同じ土地を舞台に、先祖代々暮らすもの、地縁から離れようとするもの、旅で訪れたもの、そして子どもたち――街にかかわる人々とカラスたちの姿を同じ質量で描く野心作。前作「川のある街」につづくシリーズ第二作。 王谷晶 「君の六月は凍る」  7月の初めにわたしはその事実を知り、30年会っていない君のことを、そして君が住み続け、わたしが離れ

歴史好きほど驚く! 伊東潤さんが『天下大乱』で覆したかつてない“関ヶ原”/末國善己さんによる書評を特別公開

 徳川家康が勝利し、天下人としての地位を決定的にした関ヶ原の戦いは、司馬遼太郎『関ヶ原』など何人もの作家が取り上げてきた。その多くは、家康が率いる東軍と石田三成を中心にした西軍の戦いだったとするが、常に最新の歴史研究を使って斬新な物語を作っている伊東潤の新作は、家康と毛利輝元の対立を軸にしている。  大軍がぶつかる合戦は通常、終結まで数カ月以上かかっていたが、関ヶ原の戦いは、家康の巧みな戦略でわずか半日で決着したとされる。ただ家康の勝利は薄氷を踏むようなものだったともいわれ

精神的な支配を受ける苦しみと周囲に理解されない辛さを描いた、櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』/瀧井朝世さんによる、著者インタビューを特別公開

 2018年に作品集『うつくしい繭』で小説家デビューした櫻木みわさんの第3作『カサンドラのティータイム』(朝日新聞出版 1760円・税込み)は、2人の女性が主人公だ。  東京でスタイリストのアシスタントとして働く友梨奈と、琵琶湖湖畔で夫と暮らす未知。異なる場所で生きる彼女たちの人生が、やがて思わぬところで交錯する。 「以前、身近な人の言動で苦しんだことがあったんです。渦中にいる時は、自分の状況がよく理解できなかった。後に人と話したり本を読んだりするうち、少しずつ分かってく

「まるで、長い光の中をお慶と共に歩いたような心地」――6年ごしの作品に遂に「グッドバイ」朝井まかてさんの随筆を特別公開

 一編の小説を書いて世に出して、それからも作品とのつきあいは続く。  作家によって事情は違うけれど、私の場合は文芸誌や新聞に連載してから単行本になり、そして数年後に文庫化される。むろんその間に他の作品に取り組んでいるので間断するのだが、ざっと6、7七年もの間、主人公と登場人物たち、その時代、その土地との縁が続く。  たとえば、この10月に文庫が刊行された『グッドバイ』は連載前の取材から算えればやはり足掛け6年のつきあいになった。私は数字にことのほか弱いので、担当の編集者に「

明日も生きていくために、この物語が必要な人がどこかにいる…新川帆立さんによる書評『カサンドラのティータイム』(櫻木みわ著)

『カサンドラのティータイム』は 11月11日(金)まで期間限定で全文公開中 届かぬ声が届くとき  イソップ寓話「嘘をつく子供」をご存じだろうか。「オオカミが来た!」と嘘をつき続けた結果、本当にオオカミが来たときも信じてもらえず、オオカミに襲われてしまう。いわゆる「オオカミ少年」の話である。常日頃から嘘をついていると、もしものときに誰も信用してくれない。だから嘘をつくのはよくない、という寓意を含んでいる。  だがもし、少年の村にSNSがあったらどうだろう。何百万人という人

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」「どうする家康」「光る君へ」の女性キャラを網羅したゴージャスな歴史エッセイ『歴史をさわがせた女たち』の細谷正充氏による文庫解説を特別公開!

 今年(2022年)のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、源平合戦から鎌倉幕府の成立、そして幕府内の闘争を描いている。三谷幸喜の脚本は秀逸であり、鎌倉幕府の複雑な人間関係を分かりやすく見せながら、北条義時を始めとする人々の魅力を表現。大きな人気を獲得した。ドラマによって、この時代の面白さを知り、歴史書や歴史小説を購入した人も多いだろう。私も毎年、ドラマと関係ある本を積み上げてしまう。そして気づくのだ、また、永井路子の『歴史をさわがせた女たち 日本篇』が、積み上げた本の中に入

「この物語を必要としていた」「心底励まされた」感動の声続々!櫻木みわ著『カサンドラのティータイム』への書店員さんの感想を一挙公開

「小説トリッパー」2022年夏号に一挙掲載した直後より、この物語を必要としていた、読み終わって心底励まされたとの声が広がる櫻木みわさんの『カサンドラのティータイム』。2022年11月7日(月)の発売にあわせて期間限定で全文公開をいたします。それに先立ち発売前より続々と届いている全国の書店員のみなさまからの感想を紹介させていただきす。 期間限定全文公開はこちらから

大人が読んで面白い『ガリバー旅行記』。柴田元幸さんのみごとな翻訳が生み出した魅力を、英文学者・阿部公彦さんが読み込む

■奇妙なガリバーが生み出すむずむずする魅力 『ガリバー旅行記』という書名をはじめて聞くという人はあまりいないだろう。しかし、「内容は?」と訊かれると言葉に詰まるかもしれない。漱石の『坊っちゃん』などとならび、この本は「子供の頃に読んだきり、手に取っていない本」ランキングでいつも上位にくる。出会いが早すぎて、損をしてきた。  あらためて強調したい。『ガリバー旅行記』は子供が読んでもおもしろいが、大人が読んだらもっとおもしろい。しかも、変におもしろいのだ。  この変さを生み