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せやまさんがこの物語で伝えたいことって何だろうか【クリキャベ編集日記-その3- 編集者K・改稿編】

創作大賞2023(note主催)朝日新聞出版賞受賞作『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の著者せやま南天さんと担当編集者Kの編集日記(全8回)です。
★第3回は、編集者Kによる日記です。その1(編集者K)、その2(せやまさん)に続き、改稿についてを編集者の目線からお届けします。

改稿の日々、著者のせやま南天さんの視点での日記はこちら

編集者Kの前回の日記はこちら

作品のボリュームについて
 ー打ち合わせ④の前にー


最初の改稿でせやまさんにお願いしたことは、主にこの2つ。

①主人公・津麦の過去を知りたい
②字数(枚数)を増やしてほしい
(具体的には、52000字(400字詰め原稿用紙で130枚)から72000字(180枚)以上を目指す)

そして第2稿では、73500字(約184枚)、つまり目標の180枚以上書いていただけました。

しかし、前回の日記で記したように、
第3稿に向けて課題が残っていました。

それは、加筆いただいた津麦の過去を描く場所を工夫すること。

津麦の過去が描かれる場所が前半部分に固まってしまっていた印象を持ちました。

【クリキャベ編集日記-その1- 編集者K・改稿編】より

これは、先輩編集者のYさんからのアドバイスでもありますが、
『クリキャベ』は、主人公である津麦に対して、多くの読者の人が共感を持てると思うからこそ、過去を描くときは、

読者が少しずつ、津麦の人となりを知って、主人公と友だちになっていける

ように書いていくとよいのではないか、とお伝えしました。

出会ってすぐに自分の過去を打ち明けられても、受け止めきれないかもしれません。
それよりは、少し仲良くなり始めてから、過去を打ち明けてもらったほうが仲良くなれそうですよね。

というわけで、第2稿から第3稿では、津麦の過去が描かれるタイミングを大幅に修正していただくこととなりました。カットした部分もあります。

カットされたということは、字数が減るということ。
実際、第2稿から第3稿へ、
73500字(184枚)から71200字(178枚)に減っています。

これは、180枚以上を目標に、と言われていたせやまさんにとって、かなり不安になる過程だったのではないかと想像します。

でも、
せやまさんの作品の良さの一つである、

細部を丁寧に描くこと

を生かして、さらに書きこんでいただければ、きっと大丈夫。

現時点では、ボリュームよりも、作品の構成を意識して、
加筆していただいた一部を削るということもしなければいけないと判断しました。

作品の細部、登場人物の一人ひとりの行動や、お料理の場面がとても丁寧に描かれていて素敵だなと思いました。

【クリキャベ編集日記-その1- 編集者K・改稿編】より(「クリキャベ」の大好きなところ)


「原稿をもう一度書き直してください」

これはとても言いづらいことです。
自分が書いた原稿を直される……いい気がするわけがありません。
原稿を直されるという経験が少ない私にも分かります。

だからこそ、とても気を遣うし、うまく伝えられるか心配になってしまうけれど、
それでも、著者が文章や、物語を通して伝えたいことって何だろうと考えて、
それを読者にうまく伝えられるように――、
時間をかけて、丁寧に考えて、
もう一度、と著者に伝えます。

修正を多くお願いするときは、できる限り会ってお伝えしたいし、すべきだと感じています。
どこを直してほしいかだけでなく、なぜ修正を依頼しているのかまで、
著者の思いを確認しながら、
こちらの提案のどこまでを納得していただけるかを考えながら、
お話ししたいからです。

そんなことを意識した2回目の打ち合わせのあと、
せやまさんから
「書き始める前にご相談したいです」
と修正の案とともに、もう一度打ち合わせをしたいことを伝えていただきました。

私が提案した修正についても考えていただきつつ、
それよりも、もう一歩踏み込んだ、細かな設定まで考えられた修正案でした。

そう、編集者が言った通りに直さなくても良いんです。

なぜ直したほうがよいのかというニュアンスと意図を汲み取ってもらって、
編集者の予想を超えて加筆、修正をしていただける。
そんな時、編集者から書き手への信頼はどんどん増していくんだと実感をしました。

第3稿をブラッシュアップしていく!
 ー打ち合わせ④ー


そうしたやり取りのあとで書いていただいた第3稿をもとに、
4回目の打ち合わせは行われました。
場所は、とある書店の中のとあるカフェで。

構成はほとんど完成に近づいており、あとは細かい修正をしていきます。

せやまさんと二人で、
主人公や、登場人物のキャラクターを、深掘りしながら丁寧に。

第2稿以降は……
明確な、なぜ、が必要なのだと、
この時に思った。

【クリキャベ編集日記-その2- せやま南天・改稿編】より

前回の日記で、せやまさんはこのように述べていましたが、

4回目の打ち合わせでは、
この表現を変えてはどうか? この部分を加筆した理由は何か?
という私の質問に対して、
ここではこれを表現したいと明確に答えていただけていました。

(「ここでは、こういうことを伝えたくて、この表記にしている」と、
このような答え方をしてくれることは本当にありがたかったです。
著者が描きたいことを知ることができれば、
こちらは、それが読者にしっかり伝わりそうか、
それとももう少し工夫が必要なのか考えることができます。
そうして作品はブラッシュアップされていくのだと思いました。)

お話ししていると、
まだせやまさんがこの物語で読者に伝えたいことが、どんどん出てくる。

気が付けば、あっという間に時間が経っていました。
(作品について真剣に話し合う時間は本当に楽しく、無駄話はほとんどなかったにもかかわらず、驚くほどの時の流れの速さでした!)

打ち合わせの時の持ち物を再現。鞄は2個持ち。ペンケースは長年愛用しているもの!

この日は、
一緒に書店を回りながら装幀についてもお話しし、
この時イラストレーター候補にあがったうちの一人
ぷんさん(noteアカウント : rupikorupiko)に装画をお願いしています!

改稿のための最後の打ち合わせから
 ー打ち合わせ⑤ー


4回目の打ち合わせから細かい部分を修正していくフェーズに入り、いただいた第4稿は入稿可能な段階。
入稿するのか、もう一度改稿をお願いするか悩みつつ、第5回の打ち合わせに臨みました。

※入稿とは――
「原稿」を印刷会社に渡すことです。実際の書籍と同じ文字数や行数、書体を使った「本番のレイアウト」に「原稿」を流し込んでもらい「ゲラ」を作成します。「ゲラ」が出ると、修正は基本手書きでの書き込みとなり、大幅な直しが入れにくくなります。

「これで入稿でも大丈夫ですが、
時間がないわけではないので、2週間ほど確認の時間をつくりますか?」

と聞くと、せやまさんはほとんど迷うことなくこう答えました。

「もう少し時間を置いてみます」

そういうことで、
入稿はまだしないで、様子を見ることになりましたが、ちょうどその頃、デザイナーさんとの最初の打ち合わせがあったのです。

原稿を読んでくださっていた、
ベテランデザイナーの松さんに感想を聞いてみると、
「とても読ませるお話と書き方でスラスラ読めた」というお話とともにこんな意見がでました。

「お料理のシーンがこの作品の特徴的な部分だと思うから、
そのシーンで、もう少し、津麦の感情が出てもいいかもしれない。津麦から、織野家のそれぞれへの想いを描く感じで。」

(ああ、なるほど……。)

第4稿で加筆していただいたシーンで、私が大好きな部分があります。
(詳しくは書けませんが、「つぶつぶコーン」の場面で、読んでいただければ伝わるかなと思います! お楽しみに。)

そのシーンは、津麦の織野家の子どもへの気持ちが伝わるから大好きなのです。

もう少し、そういう部分を増やしてもいいのかも。
津麦の気持ちがお料理から伝わる部分を。

そう思い、すぐにさらなる加筆をお願いしました。

その後の、第5稿ー最終稿ー。
私の想像以上の加筆をしていただき、
お料理のシーンがさらに素敵に仕上がっています。

編集者Kの改稿編(了)

*****

次回その4は、せやま南天さんによる編集日記です。「改稿編」が続きます!

さて、
編集日記は全8回です。
その5、その6は「カバー編」、その7、その8は「校正編」と続きます!
これからもお楽しみいただけますように。
引き続きよろしくお願いいたします!

書籍編集部K


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